ジャンとアンヌの現実(前編)
本編の「移動とリン」で出てくるジャンのその後の話です。
リンとキリのその後の話がちょっとなんだかなぁ~とか思って逃げているわけではないんですよっ!
「はい、こちらが今回の任務報酬となります。ギルドカードを翳しお受け取りください」
「ありがとう」
私は、冒険者ギルドを出て家に帰った。途中で幼い子が小さなブーケを売っていたので小銭を渡しアンヌへの手土産にした。
騎士をやめてから数週間この生活にも慣れ始めてきた。
元々腕に自信があったので騎士をやめたら冒険者になろうと考えていたが時々受ける彼らの洗礼に少し疲れていたりもした。
彼女が待っている家が見えてきたのでブーケをみて気持ちをきりかえる。
アンヌに悲しい思いはさせたくない。
家に帰るとキッチンからいい香りが漂ってきた。今日は私が好きなメニューにしてくれたらしい。嬉しくて少し歩幅を早めてキッチンに向かう。
彼女は料理の途中だったらしくまだ私の気配には気付いていないようだった。
いつもだと鼻歌が聞こえてきそうだったが今日は静かに使っていた道具を洗っていた。
私が声を掛けようとしたとき、アンヌはそっと目元をぬぐう動作をした。
泣いているのか?
ショックで立ち尽くしていると、小さな声で「私ったら駄目ね」と呟いたあと再び洗い物を始めた。
アンヌの周囲で何かが起こっているのだろうか?
とりあえず私は「ただいま」と声を掛けると、ビクっと驚いた後こちらを向いた。
先ほど泣いていたような素振りを見せずに私にニコリと微笑みかける。
そして、エプロンで手をふくとこちらに向かって歩いてきた
「あなた、おかえりなさい」
私は苦しい気持ちを押さえ彼女をそっと抱きしめながら
「ただいま」ともう一度伝えた。
「今日は貴方の好きなサーモンのソテーよ。こんがりと美味しそうにやけたんだから」
と私から離れるとすぐに食事の用意をしようとし始めたので。
「あっこれ、帰りに売っているのをみかけたんだ」
小さなブーケをアンヌに渡すと
「とても綺麗ね!早速ダイニングテーブルに飾りましょ!」
と嬉しそうに小さな花瓶を探しに行った。
二人で食事を楽しみながら今日の出来事を報告しあった。
アンヌは近くの獣人系のカフェでホールを担当している。
本当は接客なんてと思ってしまうのだが、女性がメインで訪れるカフェらしいのでまあ、及第点としよう...。本当は少しだけ嫌なのだが。
我が家は、私の騎士の時代の貯蓄があるのでアンヌが働く無くても余裕のある生活ができるのだが、家に閉じこもっているのは彼女の性格に合わないらしく二人でいる間は自分も働きたいと言われたので彼女に任せることにした。
獣人系の女性はとても自立していると言われる所以なのだろう。
私はつい、自分の母親を想像してしまうので家を管理するものだと考えていた。
まあ、母親は貴族籍の女性なので同じように散財されるとそれはそれで困ってしまうのだが。
アンヌが涙を流していた理由を聞くこともできずそのまま夜を迎えた。
明日もがんばって働こう。
次の日、アンヌに見送られて家を出ると花壇に水をやっていた隣人の夫人が私に声をかけてきた。
「おはよう、ジャン!」
「おはようございます。」
「今日も、ギルドでお仕事かい?がんばっているね」
「はい、妻を少しでも楽にしたいので」
私の言葉に夫人はニコリと微笑むと
「いい心がけだね。アンヌちゃんも幸せ者だよ!」
ハハハと豪快に笑いながら再び花壇に視線をやりながら枯れた葉っぱを取り除いていた。
そして、何かを思い出したように
「ああ、そういえばこの前アンヌちゃんが働いていカフェにお友達とお茶をしに行ったんだけどね」
夫人が興味深い話をし始めたのでそのまま聞いていると
「アンヌちゃんぐらいの女の子がアンヌちゃんに喧嘩腰に話しかけていたわよ」
「えっ?いつの話ですか」
「いつって昨日だよ。最後はなんか叫びながら彼女に水をかけていたわよ」
夫人の言葉にショックを受けた。
どうしてアンヌがそんな目に会わなければいけないんだ。彼女は獣人系のカフェで働いているからそのような態度に出る可能性は低いと考えていたのだが...。
動揺している私に近づき「まあまあ」と言いながら背中をポンっと叩いた後
「獣人の女性はジャンが思っているほど軟じゃないからね!接客中じゃなかったらやり返したんじゃないのかね?」
「そんなものでしょうか?」
「そんなものだよ!そんなもの。私はその場ですぐにやり返したけどね!」
夫人の言葉に驚いた私をみて再び笑い出した。
「今じゃ、旦那に言われてこうして家にいるけど昔はけっこう人気があったんだよ?まあ、私の場合は酒場だったら相手も酔っぱらってるし一発や二発殴っても翌日にはけろっとして飲みにくるからね~」
「そうだったんですね」
「ああ、もうこんな時間だよ。ジャンも仕事なのに長話をしてすまないね。気を付けて行ってきな」
夫人の言葉に私は頷き「では、失礼します」と伝えギルドに向かった。
その私の後ろ姿を見送りながら
「まあ、さすがに水を掛けたのはジャンの親戚だそうだよとは言えなかったねぇ〜。二人ともがんばるんだよ」
と言いながらキツネのミミをピクピク動かしながら花壇の手入れを再開させた。
【補足】
その1.ジャンはアンヌが作ったものは大体大好物と言うことで。
その2.後編はなる早でアップします。(逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。)
最後までお読みいただきありがとうございました。




