凛とキリの結婚式 (完)
コンコンコン
「聖女様」
コンコンコン
「朝でございます。失礼します」
凜が爆睡している部屋に一人の侍女が入ってきた。
ベッドにはこんもりと一人分のお山ができている。
本来ならば客室の寝室に侵入などしないのだが今日は聖女様にいつもより早く起きてもらわなければいけなかった。
「聖女様」
声をかけても起きないのでそっと体をゆする
「ん~。あと五分。バスを一本遅らせると間に合うから…。」
「聖女様、馬車を遅らせると次の日になってしまいますよ?」
侍女が優しく話しかけると
パチッ
ベッドの中でゆっくり目を開けている凛だが、まだ意識は覚醒していないようだった。
「・・・」
ジィ~と侍女を見た後
「うわっ!オハヨウゴザイマス!」
飛び起きながらその侍女に挨拶をした。
侍女はお辞儀をしながら
「早朝から、寝室に入ってしまい誠に申し訳ございません。今日はお仕度に時間がかかりますのでこのようにお声をかけさせていただきました」
「お仕度?ですか?」
凜が不思議そうにその侍女に声をかけると「はい」と頷きが
「フアナ領主様より言付かっています。「今日は聖女様の一大イベントになります。腕によりをかけてお磨きしなさい』と」
凛は、ぼんやりと侍女の話をきいていたので
腕によりをかけるって料理でも作るのかな?
でも、私料理とかあまり上手じゃないんだけどな。
などと考えていると、寝室に複数の侍女達がやってきた。
さすがの凛もギョッとしていると、先ほどの侍女が後からきた侍女達に
「それでは、これより聖女様ピカピカ大作戦を行います。いいですか?」
「「「「はい!!!」」」」
その気迫に凛は飲み込まれ思わず掛け布団を自分に手繰り寄せたのだった。
それから二時間、凜はしっかりと侍女たちに揉まれフアナの希望通りにピカピカになりましたとさ。
フォミテ村に同行するティムは少し早めにエントランスに待機していた。
今日こそは凛と同じ馬車に乗る為であった。
しばらくすると、二階の奥が騒がしくなった。ティムは聖女様が降りてこられるのかな?と思いながら視線を二階にやると
「おはようございます、フロストさん」
凜がヘロヘロになりながら階段を降りてきた。
その凛の姿をみたティムは
「とてもお綺麗ですよ。聖女様」と言いながら司祭がする正式な礼をとった。
「フロストさん!急にどうしたんですか!!」
「聖女様は御存じないのですね。今日の貴方様の姿は常に我らに寄り添われている聖女様をイメージしたお衣装ですよ。たぶん、領主様は聖女様の生誕祭で使用される衣装を特別に用意してくださったのかもしれませんね」
ティムは、フアナの考えを理解したらしく顎に指を乗せながら一人で納得していた。
「え~。なんだが大事になっちゃいましたね…。」
凛は自分の衣装を見た後、ティムに苦笑いを見せた。
「いえいえ、好いた人を取り返すにはとても効果的なお衣装だと思いますよ」
と小さく呟いたが凛には届かなかった。
凛とティムが乗った馬車と、フアナが用意した使用人が乗った馬車の二台でフォミテ村へ向かった。凛の気持ちが急いているのかすごく長い道のりに思えた。
車窓を眺める凛の表情が不安に覆われていたのかティムは気を使って声をかけてきた。
「誰かを素直に恋焦がれる事ができるのは羨ましいですね。」
ティムの話に興味を持った凜は彼の方を向く。ティムはそのまま話を続けた。
「もちろん、私たち聖職者が敬愛を捧げるのはもちろん、神と聖女様です。しかし、時々思うことがあります。」
「思う事ですか?」
ティムはニコリと微笑みながら
「はい。もし、私がこの立場ではなく別の立場になっていたら…。私も誰かを愛し愛される事ができたのかなと」
凛は、ティムの状況を理解しているのできっと王との関係を指しているのだろうと思った。
言葉を選んで悩んでいた凛を見ながら
「でも、もしそのような状況になってもきっと親が決めた相手と結婚する事になっていたかと思いますけどね」
「一応、私こうみえて高位貴族だったので」
ティムはウインクをしながらおどけるように話した。
凜は、少し逃げる姿勢のティムに苛立ちを感じ
「私は、大人の事情は分からないけどフロストさんの今の気持ちをきちんと処理する必要があると思いますよ。ちゃんと好きなら好き!って伝えなきゃ相手に分からないんじゃないですか?」
キッと睨みつけながらティムに言った。
「フロストさん、本当は私に付いてくるの嫌じゃなかったですか?もっと傍にいたい人がいたんじゃないですか?私は、フロストさんよりも全然小娘だけど」
「フロストさんのそんな顔みたらとてもじゃないけど恋愛で励まされても響かないよ」
「聖女さま?」
凛の言葉に驚いたティムは睨まれてるなと思って視線を反らしていたがもう一度凛を見ると
「なんで、私よりつらそうな顔してんの!」
凛の瞳に映っていた自分の表情が泣きそうになっているのが分かった。
動揺しているティムに「あぁ~もう!」と凜が小さく唸っている声が聞こえると、グイっと腕を引っ張られそのままティムの頭は凛の胸元に抱きしめられる。
馬車の中で跪いている状況でなおかつ目の前が真っ暗になり一瞬理解できていなかったが頭の上から凛の声が聞こえる。
自分の頭の上に凛の頬が乗っているようだった。
「そんな苦しい恋愛、捨てちゃえばいいじゃん。それって本当に愛なの?愛だと思っていた何かじゃないの?フロストさんの事はこの旅で少しずつ仲良くなったからやっぱりそんな思いはして欲しくないって思うのは駄目なの?」
始めは凛に身を任せていたティムがそっと凛の腰に両腕を回した。
思いのほか細い腰の聖女様にティムは驚いた。
こんな少女に私たちは一体何をしているのだろう...。
ティムはそれまで王の命令や教会の意向ばかり考えていた自分が醜く感じる。
「聖女さま、ありがとうございます」
ティムの言葉に凛はそっと体を離した。
ティムは自分が座っていた席に戻ると少し乱れた服を整えてから
「聖女さま、ありがとうございます。ですが、お恥ずかしい話ですが長年拗らしていた思いでもあります。少し自分と向き合ってからきちんと気持ちの処理をしていこうと思います」
気持ちスッキリした表情のティムは馬車から外を覗きながら
「馬車の速度も落ちてきましたね。もうそろそろ村に着くのかもしれません」
「そうですかね!」
凛はティムの言葉を聞いて同じように外を眺めた。
そういえば、見たことのある風景に思えてくる。
数十分後、馬車は完全に止まると外からドアを叩く音が聞こえた。
「聖女様、到着いたしました。ドアを開けさせてもらいます」
と今朝凛の身なりを整えてくれた侍女が声をかけてきたので「どうぞ」と答えると
「時間もございませんので馬車のなかで最終確認をします。フロスト司祭長様申し訳ございませんが、少し外でお待ちください」
侍女の言葉に促されティムは外にでた。
すると数人の侍女たちが入り込み、凛の衣装の最終チェックをした。
「聖女様、最後にこれを被ってください」
侍女にベールを付けられたが、鏡がない為凛は何をつけたのか分からなかった。
「ありがとうございます?」
とりあえず支度が終わったので侍女達に礼をいうと
「いえいえ、とてもお似合いです」とか「これから伝説が見られますね~」とか「これ絶対演劇になりますよね」とか各々嬉しそうに話していた。
凜は、伝説級の演劇って一体何!?と思いながらも侍女たちに教会の扉まで案内してもらった。
そこには既にティムが重そうな本をもって待機していた。
そして、凜をみてニコリと笑うと
「さて、それでは行きましょうか?」
凛は状況が理解できておらず
「ん?何処にいくんですか?」
と小声でティムに質問する。どうやら教会内では何かが既に執り行われているのであまり大声で話すと迷惑になると思ったからだった。
「凛様、これから私は魔法の言葉をお教えしますので侍女たちがこの扉を開けたら大声で言ってくださいね」
ティムは凛の耳元でその言葉を言った後、侍女に目配せをした。
すると左右の扉が同時に開かれる
そこには、二人の男性が前を向き一人の司祭が何かを話しかけているようだった
凜は本能で「コレ ヤバインジャナイ?」
と思ったが、その瞬間背中をポンっと押された。
もちろん犯人はティムだった。
「ほら、魔法の言葉を言ってくださいな」
ティムの言葉に条件反射で叫んだ。
『その結婚式、ちょっと待ったぁ~!!!』
凜はあ~言ってしまったと思ったと同時に目の前には綺麗な衣装を着たキリが目を見開きながらこっちを見ていた。凜はそのまま無意識にキリの所まで掛けだした。
ドレスの裾が長いので両手で持ち上げながら走ったが、こちらの聖女様は凜よりも身長が高いらしく裾が長すぎた。
もう少しでキリに届くと思った瞬間、見事に裾を踏んでしまいそのまま前のめりに躓きそうになった時
凜は思わず目を閉じたが床にぶつかることはなかった。
しかし、何か堅いものにぶつかった気はしたのでそのままそっと目を開けると
「リン!リン!大丈夫?」
心配そうなキリが凛をちゃんと受け止めてくれていた。
「キリ!私ちゃんと帰ってきたよ!そしてこの結婚式を阻止しに戻ってきたんだから!」
凛も興奮しながら説明をすると
「君は、もういいよ。後は私が進めるから」
と壇上でさっきまで宣誓をしてくれていた司祭にティムが交代するように指示していた。
「こっこれは、司祭長様!はいっかしこまりました」
司祭は教会の端の定位置に戻っていった。
そして、ティムは教会をぐるりと確認した後
「これより、聖女・凛様とフォミテ村キリの結婚式を執り行います」
と声高々に宣言した。
これにて、このお話は終了とさせていただきます。
補足的な小話を入れていく予定です。
また、どこかでご縁がありますように!!
2025/7/29 鈴木 澪人
最後までお読みいただきありがとうございました。




