凜とソラータ領 後編
少し長文です。
時間を持て余した凜とティムは窓から見える庭を眺めていた。
ティムにお仕事があればどうぞ続きをしてくださいね〜。と伝えたが
「さすがに、書類は馬車に置いてきましたよ」
と言った後、実はそんなに仕事が好きなわけじゃないんですよ。ただ、貯めると上司はうるさく、部下は困るので仕方なくしているだけです。なんて、ぼやいていた。
やっぱり、どこの世界でも仕事ができる人は大変なんだな〜。と凜は感心していた。
そんなティムの言葉を聞きながらベランダに繋がっている窓の近くに行くと
「すみません、念のためバルコニーに出るのはお控えください」とマークに言われたので仕方なく室内から庭を見ていた。
「とても丁寧に整備されていますよね。庭師の情熱が伝わってきそうな庭です」
凜の隣に立ったティムも感心しながら眺めていた。
「そうなんですね。王宮も、ここもすごく広い庭で正直驚いています。神殿もこんな感じの庭とかあるんですか?」
「そうですね、広い庭はありますが基本的に華美な物は置かないので花々はないですね。木々が生い茂ってますよ。日陰にいると心地よい風を受けたりします」
「司祭長でも、日陰で涼んだりするんですね」
「先ほどもいいましたが、そんなに仕事が好きなわけではないのですよ」
ウフフといいながら窓にそっと手を当てた。
「もちろん神様と王様は心から尊敬していますけどね」
いやいやいや〜。王様の事愛しちゃってるんでしょぉ〜。
「なんか、イロイロ大変ッスね」
「慣れてしまえば、大したことはないですよ...。」
凜とティムの会話を聞いていたマークは個々の中で
えっ、聖女様とフロスト司祭長って熟年夫婦なの?何?いつの間に信頼しあってるの?
と少々パニックになっていた。
ただ、ティムの心が読める凜と凜の能力をなんとなく感じ取っている2人があきらめに似た感情で接していただけだった。
微妙な雰囲気の中、突然ドアがノックされると同時に部屋にベンがなだれ込んできた。
「聖女様大変です!パトリック嬢がブースと家令のマーロンによって捕まってしまいました」
「えっ?」
凜が驚いていると、隣で落ち着いた口調のティムが
「詳細を」
と告げると
「はっ、ドアの前で待機していると異常な魔力を感知したので代わりの者にこの場所の待機をお願いし、その場所に向かってみると応接室に大勢の人が倒れていました。その中にパトリック嬢の専属騎士長もおられたので確認したところ、先ほどの二名に連れ去られたとの事です」
ベンが一息つくと
「そして、その魔力の後を追っていくとどうやら執務室に立てこもっている様子でした」
現在はその執務室を囲むように騎士達が待機しているらしいが、魔法耐性が低い為中に飛び込むことができないらしい。
ベンが現状を説明している時にフアナの専属騎士も失礼しますと言いながら入ってきた。
「聖女様、どうかフアナ様をお助けください」
自分達ではどうにもできない状況に情けなさと悔しさをにじませながら凜に跪き懇願した。
凜はその騎士長の傍に行き、同じ視線にするために腰を落とすと
「もちろんだよ!早くフアナさんのいる場所に案内してください!」
ニコリと笑いながら凜が答えると、騎士長は小さくありがとうございますと呟くとすぐに立ち上がり颯爽と部屋を出た。
「では、フロストさn「付いていきますよ」」
待っていてくださいと凜が言う前に言葉を遮られた。というか凜より先に部屋を出た。
「あ~、ちょっと待って!」
凜も後から走って追いかけた。
皆、足が長いのよ!緊急事態って言うのは分かるけど歩幅考えよう?
場所に着く前にヘロヘロになるから!!
ゼイゼイと息を切らしながらフアナが捕らえられている場所に着くと
「ちょっと、待って、息を落ち着かせて」
と言いながら深呼吸し始めた凜をみた騎士たちは少し不安な表情をし始めた。
「ベンさん水持ってる?」
「あっ、これでよければ」
とベンに手渡された水をグビッと飲んだ後
騎士長にアイコンタクトを送った後、執務室のドアをノックした
「あっすみませ〜ん。聖女と呼ばれている者ですがぁ~」
凜の間延びした声でその場が一瞬不安な雰囲気になる。
しばらく沈黙していると
「返事がないなら開けちゃいますよぉ~?」
「さぁ〜ん」と凜はカウントし始めてすぐにドアを開ける。どうやら施錠はされていなかったらしい。
「「えっ」」
最後までカウントすると思ったブースとマーロンは一瞬怯んだ
「はぁ?」
凜は執務室の状況を確認すると、ブチンとこめかみの血管がきれるような音が聞こえた
「女の子に向かって、何してんだよ!」
執務室の大きな机にフアナが座らされ、マーロンに刃物を首筋に突きつけられた状態のフアナが何かに署名しようとしている所だった。
凜がマーロンを睨むと、見えない風に飛ばされ壁に思い切り叩きつけられた。
ブースは慌てて自分が持っていた刃物でフアナに再び脅そうとすると
「させるかぁ~!」
と言いながら凜は飛び上がりフアナとブースの間に飛び込むとフアナを自分の背に隠した後
「この人でなしぃ~」
と言いながらブースに綺麗な右ストレートを身体強化を添えて殴りつけた。
「グウェ」
と言葉にならない音を発しながらマーロンとは逆の方向の壁に叩きつけられた。
「一回神様に会いに行くか?」
と言いながら追撃しようとした凜の服をギュッと掴んだフアナは
「もう、大丈夫です。後は司法にまかせ...。」
と言いながら気を失ってしまった。
「フアナさん!」
凜一人では抱えきれないので騎士長を呼ぶとすぐにフアナを抱き上げてくれた。
フアナを連れていく姿を確認した後、凜は執務机の書きかけの書類を確認した。
「これって...。」
「パトリック公爵へこのまま代行でやらせるようにお願いするものと、こちらは王様に命令の再考をお願いする書類ですかね」
凜の近くに来たティムが説明してくれた。
「フアナさんの一筆で変更とかできるものなんですか?」
凜は思わずティムに確認すると
「これはあくまでも私の予想ですが、娘の願いをどんな形でも叶えたいのは父の思いだと思いますが、王命の方は正直無理だと思いますね。でも...。」
「でも?」
「その間に、あのお茶を複数回飲んでいれば始めにブース代行がおっしゃったように名前ばかりの領主になりそうですよね?」
「意識混濁の薬物か...。」
凜は軽く舌打ちすると、そのまま伸びているマーロンの方に向かった。
ブースは既に捕まり地下牢に連れられていた。
マーロンに近づくと、すぐにベンが凜を庇うように傍により
「聖女様、この者が魔法を行使しました。お気を付けください」
「ベンさん、ありがと~。」
凜はベンにお礼を言った後、倒れているマーロンの頭を触るとそのまま魔法を使用不可にした。魔道具で拘束しているわけではないので凜でしか解除できない。
「こんな感じかな...。」
と言いながらマーロンを見ると
ーーーマーロン コー ーーー
【補足】
ブース代行の幼馴染。魔法の才があったが、両親が先代ブース伯に助けを求め情報をもみ消す。それ以降、ブース家に忠誠を誓っている。現当主カリッドの警護も含め全て一人でこなしていた。公私はきちんと分けており妻と子どもがいる。
あ~、前半どこかで見たことある雰囲気の文章だよ!
この国本当に魔法使いに厳しい国なの?一体なんなの?いっそのこと魔法を無くしちゃえばいいの?神様にお願いしようか?
一気にゲッソリしている凜をベンが心配そうに見ていると。
「大丈夫だから...。ベンさん、あなたは本当に...。なんていうかすごいと思う」
凜がマジマジと見ながら本気で伝えてきたので、ベンは恥ずかしくなり
「ありがとうございます?」
と礼を述べた。
「一応、この人の魔法の力は封じたのでブースさんと同じ所に連れていっても大丈夫ですよ」
凜の言葉に、ベンとマークは驚いたが「了解しました。」と言うとそのまま地下牢に連れていった。
凜は執務室に集まった関係者をぐるりと見た後、小さく深呼吸し
「んじゃ、フアナさんが元気になるまで一時的に私がここの責任者になりますね!」
凜の突拍子もない発言に大人たちは驚いたが
「聖女様のいう事はぁ~?」
と凜が聞くと、その場にいた人たちが一斉に右手をグーにして上げると
「「「「ぜったぁ~い!!!」」」」
と無意識に声をかけてしまった。
凜はそれに満足しウンウンと頷くと
「フアナさんはすぐに目が覚めると思うけど、とりあえずブース代行に近い人はまとめて地下牢にいれちゃって。あなたとあなたとあなたは大丈夫ですよね?」
凜はさっきフアナに跪いていた文官長、警備隊長、侍従長を指名した。
三人共驚いていたがそれぞれ小さく頷くと
「私はあんまり詳しい事は分からないけど、フアナさんに迅速に引き継げるようにそれぞれ対応してもらえますか、基本的には私がフアナさん以外の指示は聞かないように!ただし、フアナさん直属の方の話は聞いてくださいね。はいお仕事再開してください!」
凜が手を二回ポンポンと叩くと各々の仕事がに向かった。
執務室が落ち着いた為、凜とティムは先ほど通された客室に戻った。
再び、侍女にお茶を確認されたので今度はお願いすることにした。
「大丈夫なんですか?」
凜は先ほどと対応が違うティムに確認すると
「さすがに、今更私達を害するリスクも必要性もないでしょう。それにすぐに聖女様が解除してくださると信じています」
再びニコリと微笑まれ、凜は内心ギョッとした。
ティムはとてもとても美形なのだ!ろうらくされそう。
「ハハハ〜。がんばります」
しばらくすると、お茶の準備を終え侍女がその場を去った。
さっそく口につけるとすごくおいしかった。
「うわぁ~美味しいですね~。」
凜がしみじみと味わっていると
「かなりお茶のグレードが上がりましたね。ようやく私達の事を認知していただけて嬉しいですね」
さっきと同じ笑顔のはずだけど、なんかちょっと悪寒が走った凜だった。
お茶を飲んで落ち着いているとティムがおもむろに
「...。ところでさきほどの『絶対!』という掛け声みたいなものですが...。なにか呪いでも籠っているのですか?」
説明して欲しそうな表情でティムがこちらを見ている。
「ん?えっ?あれですか?」
突然凜の視線が泳ぎだした。
「やはり呪いの一種でしょうか?」
聖女様ですからね。なんでも使えますよね。
ティムは自分の魔法の知識を絞りだし仮定を出そうとしているみたいだった。
凜はさらに冷や汗も掻きだした。
言えないよ...。昔両親が古に流行った合コンの時に使っていた掛け声ですよなんて...。
執務室の空気があまりにも不穏だったから、ちょっと軽〜い催眠作用をうっすら乗せて一致団結させるために言わせました。おかげでいい雰囲気になったでしょ?と本当は自慢したいが絶対怒られる案件(催眠等の魔法を使用したので)なのでそっと受け流したかったのに...。
フロストさん、考察に入っちゃったよ。
「まっ、皆さんがスムーズに動き出したのでいいじゃないですか!」
凜はカラ元気でティムの考察を阻止しようとした。
グッ、グフフ
ベンは思わず噴き出した。それをマークが肘を突いて注意している。
「ん?後ろの魔法騎士は聖女様が何をしたか分かるのですか?」
ティムは不服そうにベンの方に視線を向けると
「ガハハッ。もう我慢できねぇ〜。聖女様すんません。ヒィ~。」
ベンはお腹を抱えながら大爆笑をした。
「おい!ベン、マジでやばいって」
とマークもベンを止めているが口元がニヤついて崩れていた。
「ベンさん、もしよろしければこの無知な私にお教えくださいませんか?」
自身は知らずに魔法騎士の知識では常識な内容なのではないかと不安になったティムは丁寧にベンに声を掛けた。
ベンは笑いすぎて涙を流していたがそれをぬぐいながら
「いいぜ、教えてやるよ。あれはな、下町の男女が一緒に飲み会をする時に場を盛り上げる為にする『聖女様ゲーム』だよ!一人が聖女様役になりその場にいる人たちに色々な指示をするちょっと司祭様にはハレンチなお遊びだよ」
「おいっ、ベン言葉に気を付けろよ。あっ、司祭様。これはあくまでも交流しやすくするための一種のツールですので。決して下心をもって遊ぶ訳ではないのですよ!」
ちょっと!ベンさんのフォローになってないからマークさん!
って言うか、こっちにも似たようなゲームあったのね、知らなかったよ。
「聖女さまぁ~」
ベンとマークがいる後ろを向いていたのでティムを見ていなかった凜だが、分かる。これむっちゃ怒っている感じの声色やん。
ギギギと音がしそうな感じでティムのいる方に体を向きなおした。
ティムはそれはもう綺麗な笑顔をしている。
「美人さんって怒っても美人なんですねぇ~」
凜が感心していると
「聖女様は少〜し、この世界の常識を学ばれた方がいいですね。パトリック嬢が起きられるまで私とお話しをしましょうね」
神様、私この世界を世直しする前にこの人に世直しされそうです...。
凜は直ぐに後ろの二人に視線を合わせたが、二人とも敬礼をした後
「部屋周辺の警備に行ってきます!」
「パトリック嬢の騎士長と警備の相談に行ってきます!」
マークとベンが凜に告げると消えるように部屋を出ていった。
「あっ、じゃあ私もフアナさんの容態の確認を...。」
凜が席を立とうとすると
「聖女様は私とお勉強の時間ですからね」
といつの間にか背後に立たれ、立ち上がろうとしていた肩をもたれぐっと力を入れると凜を元のソファーに座らせた。
「美人さんなのに、力持ちぃ~」
凜はシクシクと嘘泣きをしたが
「私でよければもっと男らしいところをお見せしてもよいのですよ」
と耳元で普段あまり使わない艶っぽい低音で囁かれた。
凜はピョンと姿勢を正すと
「大丈夫です!間に合ってますから!」
キリ!これは浮気ではないからね!
凜は半泣きになりながらフアナの目が冷めるまでティムにお話しをされたのだった。
【補足】
「「「「ぜったぁ~い!!!」」」」 時のその場にいた人たちの反応
魔法耐性のない人たち→軽い暗示状態により凜の思い通りに行動
魔法耐性のある人
ベ ン→暗示には掛かっていないがノリノリで行動
マーク→「えっなんかうっすら暗示かかってるけどこれじゃあ僕には効かないよ。ベンもだよ...ね?
どうしてノリノリで前のめりになってやってんの?」とりあえず、ベンに合わせて...
素面でかなり恥ずかしいんだけどね!
ティム→ きょとん?(場の雰囲気についていけていない)
【補足2】
凛はチート聖女です。なんでもできます。なんでもアリです。
最後までお読みいただきありがとうございました。




