凛とソラータ領 前編
ソラータ領はフォミテ村を含める数か所をまとめた場所で、王太子の婚約破棄の時にフアナさんが王様から頂いた場所だった。
といっても、将来的にはリュシアン王子がフアナさんの所に婿入りする予定なので治めるのはリュシアン王子になる。
凛は現在の状況をグヌヌと唸りながら眺めていた。
無事に領都に着いた凛達は、さっそくフアナが着任すべく領主が住む館に向かった。
現領主代行にはフアナパパから先触れとしてフアナさんに全権の移行を指示していたらしいが...。
貴賓室には、ティム(神殿に挨拶にいっても大丈夫ですよと伝えたが固辞され一緒にいる)とフアナと凛がソファーに座っている。向かいには現領主代行のカリッド・ブースが座っていた。
正確には、ティムは一人用のソファーにフアナと凛は二人で座っており、それぞれの後ろには専属騎士と魔法騎士が立って威圧を放っていた。
えっ、ベンさんとマークさんも威圧放てるの?演習場ではそんなことしてなかったのに。
フアナの専属騎士長が正式な書類を読み上げ、それはブース領主代行に渡そうとした時
「はい、確かにパトリック公爵から先触れは頂いておりますが...。」
とフアナと凛をジトっと見ると
「このようなうら若き女性達にお任せできるような規模の領ではございません...。」
そして、ブース領主代行は言葉を選びながら
「もしよろしければ、私をこのまま領主代行に据え置いていただければ、パトリック嬢も聖女様もこの領でのびのびとお過ごしくださることができると思います」
「この愚か者め!フアナ・パトリック様は正式な領主、伯爵ごときが意見するなど無礼だ!」
凛の隣後ろで突然怒鳴られ一瞬ビクッとしたが、ヘタレな部分を見せてはいけないと思いそのまま出されていたお茶をグビっと飲んだ。
後ろでベンが「あっ」っと声を出していたが、多分お茶に何か仕込まれているのだろう。
凛がこっそり状態異常の解除魔法を掛けているとベンとマークは分かったのか「フフッ」と小さく笑っていた。
やばい、今物凄く重い雰囲気なのに、この子たち笑ってるよ。でも、フアナさんの周囲は相当ご立腹みたいでこちらの状況は理解できてないよ。
凜は変な汗を掻きながら少し状況を静かに見守っていた。
凛はふと目の前で飄々としているブース代行を確認した。
だいたいこうゆうワル奴はデップリとしたお腹で意味もなく汗を掻いているってイメージだったが多分発汗量は凛の方が勝っているような気がする。え〜ん。女の子なのにぃ〜。
どちらかと言うと神経質そうな雰囲気だった。眼鏡が表情を余計に読みづらくしているような気がする。
え~と、どれどれ
ーーーカリッド ブースーーー
【補足】
パトリック公爵家の寄り子という幸運でこの領地を治めることができた。王家直轄だった領地の為うま味も多い、このままなし崩し的にブース一族に治めさせたいと思っている。
今更小娘に渡すなんて絶対イヤ!
う~ん。はぁ~。
凛は思わず溜息をついた。
凛はまたつまらぬものを見てしまった。と思いながら視線を彷徨わせているとティムと目が合った。ティムはニコリと微笑んだ。
まぁ〜フロストさんには関係ないもんな〜。
と言っても、実際言い争っているのはフアナさんの騎士とブース代行だった。
やっぱり、本人は発言しないものなんだなぁ〜。
あっ、フアナさんもお茶を飲もうとしてる。とりあえず魔法で何かを取り除こう!
騎士と言い争っていたブース代行が突然静かになりフアナがお茶を飲む姿を見ていた。
飲むのを確認していたって感じかな?
嚥下を確認したブース代行は、フアナをジッと見ながら
「パトリック嬢、このまま私にこの領の代行をお任せいただけませんか?」
頼んでいる雰囲気なのになんか強気な言い方だなと凛はモヤモヤしながら二人のやり取りをみているとその視線の奥でティムもお茶を飲もうとしていた
あっ、ヤベ、フロストさんのお茶に魔法掛けてないや
凛は焦りながらそっと指を上げようとしたとき、
「おや?このお茶は不思議な味がしますね?」
といいながらティムは自分に白魔法をかけた後、飲んだお茶に手をかざすと
「軽くお薬が入っているようですね。意識の混濁を招くような...。」
とティムが全てを言い終える前に
「ブースを取り押さえろ」とフアナさんの専属の騎士長が声を掛けると部屋の中に待機していた騎士たちがゾロゾロと入ってきた。
「聖女様、ここからはパトリック嬢の管轄になります。私達は一度退席いたしましょう」と促された。
凜は、フアナの方を見ると
「...。そうですね。薬物が混入されている以上、聖女様の危険が伴ってしまいます。別室にて待機してもらってもよろしいでしょうか?」
悲しそうな表情をしたフアナをみた凛は
「うん、分かった。もしなにかあったら教えてね。力になるから!」
とだけ伝えて、騎士の一人に誘導されその場を離れた。
騎士の後ろをティムと一緒に歩いていると
「ああいう場合はきちんと証拠を残さないと、言い含められますよ」
ティムは視線を前に向けながら凛にだけ聞こえるように伝えた。
「本当に聖女様は器用な方なんですね」
フフフと笑いながらからかうように言っていたので、多分凛が魔法でチョロチョロしていたのを感知していたのかもと予想した。
「とりあえず、ブース代行を後でぶっ飛ばしに行こう...。」
「その時は、私もお供しますよ」
ティムの言葉に驚き思わず横を向くと綺麗にウインクしてくれた。
「アリガトウゴザイマス」
凛とティムが案内された部屋は応接室ではなく客室だった。
急に用意できる部屋があまりなかったようだった。
領都の侍女がお茶を用意しようとしたがティムが黒い笑顔で「先ほど素敵なお茶を頂いたので大丈夫です」と断っていた。
ベンが客室の入り口で待機してくれていた為、部屋ではマークが先ほどと同じように凛の後ろで待機していた。
※※※
凛とティムが退出した部屋ではフアナの騎士たちに軽く拘束されたブース代行とその家令の尋問が行われていた。
「さてと、これからこの小娘と少しお話しをしてくださいね」
と言いながら、フアナが騎士長に手を出すともう一つの書簡を取り出した。
先ほどと見比べると豪華な刺繍と王家の印が施されていた。
「この書簡は使用したくなかったのですが、仕方ないですね。」
と言いながらフアナがもしもの時の王命を読み上げた。
『カリッド・ブース領主代行がパトリック公爵の命に反した場合、王命により強制的にその権限を剥奪するものとする』
「この刻をもってソラータ領の全権を私、フアナ・パトリックに返納することにします」
凜達の移動のタイミングで入室してきた、ソラータ領の文官、警備隊長、侍従長が一斉にフアナに対し跪き忠誠を誓った。
「「「新しい領主様を歓迎し忠誠を誓います」」」
「許さん!許さんぞ!」
自分の立場を剥奪されたブース代行は怒りに満ちた声でその場を遮った。
「マーロン!」
ブースは一緒に拘束されていた家令のマーロンの名を呼ぶと、マーロンが何かを呟いた。
すると、フアナ以外の人たちが一斉に意識を失い倒れこんだ。
「えっ」
驚くフアナの背後にマーロンが立つと、首元にヒヤリと冷たい感触があった。
「パトリック嬢、一緒に来てもらいましょう」
ブース代行はマーロンに目配せをするとフアナを立ち上がらせ三人でその部屋を出た。
最後までお読みいただきありがとうございました。




