2.無自覚な規格外。
「あの、すみませんでした」
「どうしたの?」
パーティーを組むことになり、一緒に王都のを外にある森を歩いていると。
リーアは申し訳なさそうにそう言って、ピタリと足を止めた。理由が分からないので訊き返してみると、彼女はボクの腰元にある一本の剣を見てこう口にする。
「少ない手持ちだったのに、わざわざ剣を買って下さるなんて……」
「あー、そのことか」
それを聞いて、ボクはようやく意図を理解した。
リーアのいう剣というのは、先ほど依頼を受ける前に武器屋で購入したもの。硬貨の価値が分からないので彼女に頼んだのだが、どうやらそれが自分の全財産だとバレたらしい。
そんなこんなで、巻き込んで申し訳ない、と少女は頭を垂れたのだった。
「いいよ、気にしなくても」
「……でも! お金って、とても貴重なんですよ!?」
いずれにせよ、消費されるものだったのだから。
そう思って伝えると、しかしリーアは首を大きく左右に振って聞かなかった。剣を買う時もそうだったのだが、彼女はお金について何か事情がありそうだ。
そう考えつつも、なにか都合の良い言い方を考えていると――。
「あー……ん? ねぇ、リーア。アレが目的の薬草じゃないかな」
「え……あ! ホントです!」
今回の依頼で採集する薬草が見つかった。
紫の葉、という情報しか知らなかったボクだが、リーアの反応を見るに間違いないらしい。ボクたちはひとまず金のことは置いておいて、持ってきた麻袋に薬草を入れ始めた。
冒険者の受ける依頼、というのにも色々あるらしく。
ボクとリーアが受注したのは、最下級の冒険者が請け負うものだった。
「それでも最低二人一組なのは、なんでだろ?」
「単独行動だと、危険だから……らしいです」
「なるほど……?」
ボクが素朴な疑問を口にすると、リーアが曖昧ながらも返答してくれる。
「だけど噂では、ソロで勝手にダンジョンの下層に行く人もいるとか」
「それはまた、命知らずな……」
そして、そんな世間話に発展した。
何やら聞くところによると、腕に自信のある者はそもそもギルドに所属しないらしい。素材を自身で横流しした方が、中抜きされない――とか云々。
事情は様々だが、ギルド所属の方が安全であるのは確かなようだった。
そう、例えば――。
「ギルド指定の場所なら、こんなドデカい魔物も出てこないだろうし」
ボクは不意に面を上げて、目の前に立っている一つ目の巨人を見て言った。
筋骨隆々のそいつは、身の丈三メートルに迫ろうかという大きさ。簡素な出で立ちに、右手には小さな木を一本丸々こん棒にしたような武器を持っていた。
肌の色は浅黒く、呼吸がやけに荒い。
そんな怪物はボクとリーアを見下ろして、妙な静けさを保っていた。
「そうそう、こんなサイクロプスも出てこな――――え?」
こちらの言葉に少女もようやく面を上げて、硬直する。
そして、しばしの沈黙があってから……。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
思い切り悲鳴を上げるのだった。
すると、それが怪物ことサイクロプスを刺激したらしい。
一つ目の巨人は咆哮を上げて、リーアへ向けてこん棒を振り上げた。
「あ、危ない……!!」
それを認めてから、ボクはとっさに少女に向かって駆ける。
そして、彼女の小さな身体を突き飛ばして――。
「――タカヒコさん!?」
一か八か、こん棒を受け止めようと試みたのだった。
◆
「う、うそ……」
リーアは信じられないものを目の当たりにした。
何故なら普通の人間がサイクロプスに対して、防御魔法を展開することなく、ましてや盾すらなく、その一撃を素手で受け止めているのだから。しかも拮抗する様子もない。
崇彦はまだまだ余裕のある表情で、一つ目の巨人を跳ね返した。
そして、
「な、何が何だか分からないけど! 喰らえええええ!!」
そんな間抜けたようなことを口走りながら。
彼は剣を引き抜いて、力の限りにそれを振り下ろすのだった。
その直後だ。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
――轟、という音と共に。
旋風が巻き起こり、サイクロプスはおろか、周囲に木々さえも一刀両断してみせたのは。その光景はまさしく伝説に語られるような、剣聖の御業であった。
あるいは、かつて魔王を打倒した勇者のそれとも比較にならない。
まさしく規格外の一撃だった。
リーアは驚き腰を抜かし、その場から動けなくなる。
そんな少女に、崇彦はケロッとした表情で手を差し伸べながら笑うのだった。
「あ、リーア! 大丈夫だった?」――と。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!