1.底辺勇者候補と、追放された少女。
「えっと、こういう時って『ステータスオープン』とか、言うんだっけ?」
オカルトでの流れは、そうだったけど。
ボクは行き場のないまま王都の街を歩きながら、そんなことを考えた。そして、
「ステータス、オープン!!」
叫んでみる。
すると、目の前になにか文字らしきものが浮かぶ。だけど、
「よ、読めない……!!」
それもそのはずだよね!?
ボクのいた世界と、この世界は別なのだった。だったら文字だって違うはずだし、判読できるわけがない。ミミズの這ったような文字が並んでいるのを睨み、しばらく立ち尽くす。
そうしていると――。
「うっわ、よわ……!」
「こんな場所で晒すステかよ」
行きかう中から、たまたまボクのステータスが目に入ったらしい。
そんな人が、思わずそう口走るのが耳に入ってきた。ボクは即座にステータスを閉じて、周囲を見回す。そうすると、あえて視線を逸らす人もチラホラと。
見て見ぬ振り、というやつだ。
果たしてボクのステータスというのは、どれほど悲惨だったのか。
「も、もう見ないぞ……!」
金輪際、自分のステータスを開くことはない。
そんな決心をして、次に考えたのは賢者の一人が口にしていたことだ。
「そういえば、加護……だっけ?」
――たしか【反転】とか言ってたけど。
おそらく言葉のまま、物体の動きを反対にすること、だろうか。そのように思ってボクは試しに、道端に転がっている石に向かって力を使ってみた。
「えっと……【反転】!」
すると、くるっと石が回転する。
「………………」
うん、反転したね。
それだけ、だったけど。
「つ、使い道が思いつかない……!」
ボクは思わず頭を抱え、自分の無能さに絶望してしまった。
だが、考えに考え抜いた結果――。
「自分に使うと、どうなるんだ……?」
何を血迷ったのか、自分に向けて力を使用してみた。
「ええい、どうとでもなれ! ――【反転】」
すると、身体が一回転するか――と思えば、そんなこともない。
ただ沈黙がその場に降りてきて、周囲からの痛い視線が突き刺さった。もしかしなくても、いまのは『不発』というやつだろう。
使い道がない上に、発動すら安定しない。
「えー……?」
なんだよ、それ。ボク、雑魚じゃん。
そりゃ、賢者様方も見切りをつけるよね。
とはいえ、貰ったお金だって限りがあるわけで……。
「食い扶持は、どうしよう……ん?」
「お前なんか要らねぇよ! 追放だ!!」
「そんな! お願いです、考え直して――」
今後について、どうしようか考えていた時。
何やら言い争う声が聞こえた。
見ればそこには、小柄な女の子が大男二人に縋り付く姿がある。
あまりに哀れな姿だった故に、ボクは他人事のように思えなかった。
「うぅ……どうしよう。また、クビになっちゃった」
「あの、大丈夫?」
だから、つい一人になったその子に声をかけてしまう。
ボクの言葉に振り返った少女。その顔立ちはまだまだ幼く見えた。金色の長い髪に、深い青の瞳。出で立ちからして支援型の冒険者、というやつか。
何はともあれ、クビになったというなら同じ穴の狢である。
「貴方は、誰です?」
「えっとボクは、吾妻崇彦……だけど、キミは?」
「わ、私はリーアです」
「ありがとう、リーア。もしかして、いま行き場がない感じだった?」
手を差し伸べられるほど、余裕があるわけでもない。
それでも、ここで話も聞かないのは男として情けなさ過ぎた。だから、
「もしよかったら、事情を訊かせてくれない?」
ほんの少しの勇気を出して、そう提案したのだ。
◆
「なるほど、パーティー追放……ね?」
「そうなのです。だけど、依頼はソロだと受注できないし」
一通りの事情を訊いて、分かったこと。
リーアは俗にいう【ヒーラー】という職の冒険者らしい。ただし、使えるのは加護として与えられた【応急処置】だけ、とのこと。どの程度のものか分からないが、怪我などの根治はできないらしい。
年齢もまだ十三のため、ステータスは軒並み低い。
ボクよりマシかもしれないが、それでは冒険者は難しいかもしれなかった。
「あの、冒険者以外の仕事はどうなの?」
そのため、どの口が言うのか、というところだが。
ボクが提案すると、リーアは首を左右に振った。
「私を雇ってくれる場所なんて、他にどこにもないですので」
「……そう、なのか」
ハードモード過ぎない?
もっとも世界の事情などに詳しくないので、一概にはいえないけども。しかしそうなると、ボクだけではなくリーアの今後も考えなければいけなかった。
一人でもしんどいのに、二人分のことを考えるとなると難しい。
そう考えていると――。
「……あ、そうです!!」
リーアが、何かを思いついたように声を上げた。
そしてボクの顔を覗き込んで、言うのだ。
「タカヒコさん、いまお一人なのですよね!? だったら――」
これしかない、と。
妙案を思いついたとばかり、元気いっぱいに。
「私と、パーティーを組んでくれませんか!!」――と。
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