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【書籍化進行中】どうも。みなさま憧れの完璧聖女ですが、天然干物女子であることが副団長様にバレてしまいました。  作者: 遠 都衣


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第39話 兄の心配と嫉妬

「殿方と住んでいるというわけではありませんわ。留守を預かる間だけ寝泊まりをしているだけです」

「それにしたって、それが男の家であることは事実なんだろう?」


 確かにリカルドの言う通り、セシリアが今住んでいる家の家主は男性――ヴィクターの住まいであることは揺るぎようのない事実だった。


「嫁入り前の娘が男の家を出入りするだけで醜聞しゅうぶんになると、お前が一番わかっているはずではないのか」

「それはそうですけれども……、これには事情があるのです」


 とりあえず、落ち着いて話を聞いてくださいとセシリアが兄をなだめると、リカルドは憤然ふんぜんとした表情そのままで、大聖堂内にあるティールームに据えられたテーブルセットの椅子に腰掛けた。


「その……。家主の方が今、帝国で起こっている紛争に派遣されているのですが、そのあいだ養っている少女が一人になってしまうので、面倒を見てほしいと頼まれているのですわ。帝国で起こっている紛争についてはお兄様もご存知でしょう?」


 とセシリアが尋ねると、


「それはもちろん知ってはいるが。だからと言ってなぜお前がその男の代わりに面倒を見なければならないのかが解せない」

 

 リカルドが全くもって正論で返してくる。


「誰なんだその男は。私の知っている相手か?」


 リカルドからそう問い詰められて――、セシリアは正直に言うべきか否か、ぐっと言葉を詰まらせる。

 しかし、ここで口をつぐんだところで結局は誰かに詳しく聞くか、もしくは少し調査されてしまえばわかってしまうことなので、大人しく素直に名前を答えることにした。


「ドヴォルザーク卿――、ヴィクター・ドヴォルザーク様ですわ……」

「ド……」


 リカルドは、セシリアにそう告げられて。

 あの、自分とユフィの婚約パーティーに日に、セシリアと連れ立って立ち回っていたヴィクターのことを思い出した。


「ドヴォルザーク卿と……、交際しているのか?」


 確か、あの翌日の朝食の席では、セシリアは父に同じことを問われて「付き合っていない」と答えていたはずだ。

 そう思いながらリカルドがセシリアに尋ねると、セシリアはどこか歯切れの悪い様子で、


「交際しては、いません……」


 と答えた。


「交際してはいないがなんなのだ」

「何もありません。ただ親しくさせていただいているだけです」

「ただ親しいだけで家を預かったり養い子の面倒をみたりすることがあるか?」


 そう言われると、確かにリカルドの言う通りでしかなかった。

 セシリア自身も言われて改めて、自分がミーナやヴィクターに対して親近感を抱いていたから引き受けたことだったが、過ぎた行為だったのかもしれないとちらりと頭を掠めた。


(いえ――、でも)


 じゃあ、セシリアがヴィクターからミーナの世話を頼まれたことを後悔したかと思うと、そんなことは微塵もなかった。

 例えそのことで後ろ指を指されたとしても――、それこそ、先日自分がミーナに言ったように、自分で選んで決めたことだ。


「お兄様。わたくしは、ヴィクター様やその子の力になりたいと思ってお引き受けしたのです。それで――、誰かがわたくしを《《ふしだら》》だとか軽率だと言ったとしても。わたくしにそれを言ってくる知らない方より、わたくしの大切にしたい人たちのほうが大事だったのですわ」


 それで例え――、最愛の兄から非難されようとも。


 このことに関しては、間違った選択だと言いたくはなかった。


「…………」


 セシリアにきっぱりと言い切られてしまったことで、リカルドは返す言葉もなく唇をわななかせることしかできず。


(この子は――、ドヴォルザーク卿のことを《《そういう意味》》で慕っているのだろうか?)


 他人から後ろ指を指されてもいいと言い切れるほどに。

 それでもドヴォルザーク卿の力になりたいと言い切れるほどに。

 最愛の――兄である自分の、言葉を押しのけるほどに。


「……このことは、父上と母上にも報告するぞ」

「構いません。むしろ、わたくしがちゃんとお伝えしていなかったことがよくなかったのです」

「その上で、その養い子のことはこちらでなんとかするから、お前は宿舎に戻れと言ったら言うことを聞くのか?」

「それは――」


 リカルドの言葉に、セシリアは一瞬言葉を濁した後、「……できません」ときっぱりと答えた。


「セシリア」

「なんと言われようとも、ヴィクター様からお預かりしたのはわたくしですから」


 無責任なことはできない、とはっきりとねつけるセシリアに、リカルドはショックを覚えた。


 ――何を置いても。

 家族を――リカルドを、第一に考えるセシリアだったはずなのに。


 この時になってリカルドはようやく初めて、危機感を覚えた。


 セシリアにとっての一番が、自分ではなくなってしまうかもしれないという焦り。

 セシリアが自分を一番に好いてくれているという上にかいていた胡座が。前提が。


「……わかった。そのことは一旦、お前の想いも含めて、父上と母上に伝えることとする。それはそれとして――、今日お前を尋ねたのは、また別の話があったのだが」

「……はい」

 

 今まで、これほどまでに兄に反発したことがなかったセシリアは、そんな自分に対して少し落ち込みながらもリカルドの言葉に返事をした。


「先日、父上からお前に伝えていた釣り書きの返事がまだもらえていないので、今どうなっているのかを聞いてきてほしいと言われて来たのだ」

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