妖刀マンゴスチン
タイトルは、あれですけど、中身はそれなりに真面目です。ええ、本当ですとも。
幕末。名も無き志士が手にしたと言われる刀がある。
それは多くの人間を切り、命を奪ってきた。
その志士は血に狂い殺戮に溺れていった。そして志を同じくする仲間を切り捨てて最期はその刀を己の胸に突き刺して絶命した。
その志士が使っていた刀は妖刀と恐れられ神社の奥深くに封印される事になった。
それ以来、その刀は表舞台から姿を消した。
まぁ封印されていれば当然だろう。表に出るわけがない。
しかし時が経ち、神社は経営難で喘いでいた。
そんなわけで封印を解かれた『妖刀』はネットオークションに出される事になったのだ。
肝心の妖刀は抜けない刀だった。
そりゃ手入れもせずに百年以上が経っていれば抜けなくなるのも当たり前。錆びで抜けない刀になるのが普通である。
買っちゃった。
鞘が綺麗だから買っちゃった。朱の漆塗りで所々剥げてるけど、そこがいい。
最終的に1000円で買えちゃった。
抜けないので銃刀法にも掛からない。
というわけでもない。キチンと登録証も貰っておいた。抜けないけれど刀であることに変わりはないそうだ。所有者変更届もちゃんと出した。
絶対に刀剣としては使えない刀。
でもそれがロマンだと思っている。
バットですら軽犯罪違反で、しょっぴかれるのだ。勿論家で眺める専用となった。
何せ抜けないし。
でもロマンだよね。
日本刀ってカッチョいい。しかも鞘が朱。素敵ですわー。震えるわー。
でも銘は最低だ。
この妖刀には銘が付けられていた。昔、神社の人が付けた銘らしい。
『妖刀マンゴスチン』
ハイカラァァァァァァ!
思わず叫んだ。
この名前に惚れて買ってしまった面もある。登録証にもそう書いてあって噴いた。
ネットオークションで即座にポチった。
抜けない刀。
妖刀マンゴスチン。
幕末の志士の下りは多分神社の人の捏造なのだろう。
それもまた……ロマンだと思っている。
こうして自分と妖刀マンゴスチンは出会ったのだ。
そしてその夜の事である。
自分は夢を見た。
それはこんな夢だった。
『違うの! なによマンゴスチンって!? わたしは妖刀卍護朱鎮なのよ!?』
『……んー? なんて読んだの? 今』
『あやかしがたな、まんじまもりてしゅにてしずめん!』
『……ん? もう一回お願い』
『だからぁ! あやかしがたな! まんじゅまちょりてちゅにてちずめんにゃの!』
『……うん。もう一回言ってみようか?』
『うえーん! ばかー!』
泣き叫ぶ和服の女の夢を見た。
すごく必死なのは分かったが……噛み噛みだった。可愛い人だと思ってしまった。
朝の目覚めは爽快だった。
これ以降自分は夢の中で毎夜和服の女と出会う事になった。朝の目覚めは爽快で体調は絶好調。
夢の中で日本刀を振り回す女から逃げるという愉快な夢も見た。何故か神社の中を追われるという不思議な夢だ。
『切らせろぉぉぉ!』
『……で、君の名はなんだっけ?』
『うがぁぁぁぁぁ! 死ねぇぇぇぇぇ!』
『はっはっは。マンゴスチーン』
『うぎぁぁぁぁぁ! しねしねしねぇぇぇぇ!』
夢の逢瀬は毎夜がお祭りだった。和服の女は時に鬼と共に現れた。時には山姥と共に現れた。ここもやっぱり神社の境内だった。
『友達なの?』
とりあえず聞いてみた。鬼だもん。山姥だもん。夢だけど。
『……友……だな』
『ひゃっひゃっひゃっ! こんな若造にバカにされてんのかい? あんたも焼きが回ったねぇ』
『違うわよ! こいつが悪いのよ!』
『うん。で、君の名は?』
『むきぃぃぃぃぃ!』
寝るだけだった夜が待ち遠しくなった。和服の女はいつも元気だった。
多分彼女こそが妖刀マンゴスチンなのだろう。封印されてた神社に夢のことを話したら神職さんが真っ青になってお札をくれた。とりあえず刀に貼ってみた。
そしてその日の夜。
『……あふん』
『……弱くね?』
和服の女は神社の石畳にうつ伏せで倒れてた。顔面が石畳にダイレクトである。夢でもこれは酷い。
『お札止めとく?』
『……うん』
抱き起こして膝枕した。おまけで頭も撫でといた。和服の女はそれ以降、刀を振ることはなくなった。
そしてしばらくが経った。また夜。夢の中で。
『最近の映画ってすごいわよねー』
『……まぁCGはすごいよね』
『洋画に比べて邦画は駄目ね。地味で暗いわ。陰気過ぎるのよ。コメディにしてもノリが悪いわ』
『……うん』
和服の彼女となんか仲良くなった。夢の中だというのに映画を一緒に見たりする。勿論神社の境内なんだけど社の壁がスクリーンになってた。宵の宮って感じ。
鬼とか山姥も一緒に映画を見てる今日この頃。
『ネットって便利よねー。娯楽三昧で溺れるわー』
『……そうだな』
『夢だとネットスーパーが使えないってのが難点だねぇ。坊、今度枕元に酒を置いときな』
『……そうだな』
『……ハイカラァァァァァァ!』
とりあえず叫んでおいた。寡黙そうな鬼は家庭用ゲーム機で遊んでるから生返事。
……ハイカラァァァァァァ!
相変わらず現実世界では抜けない刀。妖刀マンゴスチン。
まぁこれもひとつの『縁』なのかもしれない。夢だけど。
このあとも彼らとの交遊は続き、その流れで妖怪達と現代に残る陰陽師とのアホな抗争に巻き込まれたりするんだけど、それはまた別の物語になる。何せ現実の話だし。
とりあえず今は、こう言いたい。
ハイカラ過ぎるよぉぉぉぉ!
いや、ござるとか言われてもアレなんだけどさ!
なんで現代にそこまで馴染んでるかなぁ!
特に鬼ぃ! お前マッチョで巨体なのに器用だなこの野郎!
あと強いんだよ! 勝てねぇよ! やりこみすぎだー!
それ、俺のゲーム機だしぃぃ!
とまあ最近は楽しい日々が続いてる。
楽しい日々なんだけど、ふと思い付いて、またネットオークションを覗いてみた。
そしたらあった。発見した。
『直剣マンゴープリン竹光』
ポチったね。コンマでポチった。右手のネズミちゃんがチューチュー言ったね。
落札価格は500円。
竹光だから登録証は無かった。というか明らかにパチもんすぎて笑った。あの国のセンスは素敵過ぎる。
剣が届いたその夜、こうなったよ。
『妾は勅剣卍轟巫倫威光なのじゃー! なんじゃ、マンゴープリン竹光って!』
『うんうん。で、なんて読むの?』
『妾はみことのちゅるぎ! まんじとどりょきてふをみちにゃちゅいこうとにゃらん!』
今度は最初から噛み噛みだった。どうしてそんな名前にするのかねぇ。
『……妹さんなの?』
『この人、ご先祖クラスよ?』
『……ダイヤ発見』
『ワインってのは血に似て最高だねぇ。ひゃっひゃっひゃっ!』
今日も夢の中はどんちゃん騒ぎだ。とりあえずあれだ。マンゴープリンちゃんは中華っぽい格好の女の子だった。チャイナドレスではなくて道士服ね。大陸から来たのかな。キョンシーとか使役できそう。
『ひっく……妾は……ひっく』
マンゴープリンちゃんは泣いていた。頭のお団子がキュートである。
『……プリン食べる?』
とりあえず買っておいたのを出してみた。寝る前に枕元の冷蔵庫にぶちこんだやつである。お約束としてマンゴープリンもあるけど……これは普通のプリンだ。ガチ泣きしてる子に追い討ちするのは外道のすることだ。流石の自分でもそれはやらない。
マンゴープリンが既に鬼に食われてるのは気にしない。とりあえず……プリンをお食べー。半額品だけど。
『……食べりゅ…………あいやー!』
こうして夜の夢に一人仲間が追加された。
彼女もすぐにハイカラァァァァァァ! となるのだが、それもまた別の物語となる。
これ、長編になりそうだったんで、無理矢理短編に落としたんですよねぇ。ラブコメ色が強い物語になりそうで。ヒロインはもちろん山姥さんです。ええ。お約束ですとも。