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8話 える、お持ち帰りしてもい〜い?

8話 える、お持ち帰りしてもい〜い?



「えへっ、えへえへっ。えへぇっ」


 教室に戻ったえるは、残り五分の昼休みを自分の席で過ごす。いつもは授業の課題なんかを大急ぎでやったりしてあるのだが、今日はそれもなく。そのうえ夏斗とこれから一緒に下校できることへの喜びを表に出した結果、机に両肘をついて幸せオーラを全開にしていた。


「え〜るっ! なんか機嫌良さそうだね? 先輩と何かあったのかー?」


「桃花ちゃん! 聞いて聞いて! 実はね……」


 そんな彼女に背後から抱きついたのは、えるの友人。いつも教室で共に過ごしている、天音桃花。ちなみに彼女はえるのファンクラブ会員などではないが、当然夏斗との恋路のことは知っている。


「ナツ先輩とやっと一緒に帰れるの! 部活終わりまで待っててもいいって!!」


「おー、前からずっとその事悩んでたもんねぇ。やるじゃん! 一歩前進だ!」


 基本フランクな性格の彼女は、空手部に所属するバリバリの武闘派女子である。しかしえるなんかと比べればそういった話題には強く、普段からよく相談を受けていた。


 彼女にとって、えるの幸せは喜ぶべきこと。ぽかぽかにあったかくなっている小さな顔にそっと頬擦りをすると、ポニーテールを揺らして喜びでスキンシップを強くした。


「そんな事で大喜びするなんてえるは本当に可愛いにゃぁ。ほぉれ、よしよしよし」


「えへへ、桃花ちゃんに撫でられるのしゅきぃ」


「じゃあ次はその豊満なモノを揉ませていただいても?」


「だめぇ〜。そこは先輩専用だもんっ」


 桃花もまた、えるに並ぶ美少女。弱虫泣き虫なちっちゃい甘えん坊タイプと、コミュ力最強体育会系タイプ。その二人が合わさるとその百合力は凄まじく、教室中がほんわかとした雰囲気に包まれる。この二人の間に割って入れる者など、もはやこの世のどこにもいないだろう。


「もぉ、ピュアピュアなんだからぁ。でもまあ本当によかったよ。これからはコソコソしなくて済むね?」


「ひゃあぁっ!? と、桃花ちゃんそれ言っちゃダメ! 先輩にバレたらどうするの!!」


 実はというと彼女は、これまで結局我慢することができずよく夏斗の部活風景を覗いていた。帰り道も後ろからコソコソと尾けて声をかけられずじまい。そんな悶々とした日々をこれまで過ごしており、本人はそれを完璧な尾行だと思い込んではいるが。当然のごとく、それに気づいていないのは夏斗のみである。


(あはは、マジで誰にもバレてないと思ってる。可愛いなぁ、もう)


 本当にバレずに済んでいるのは周りの細やかな協力あってこそなのだが、彼ら彼女らはえるからお礼を言われたくてそうしているのではない。全ては一重に、喜んでもらうため。学校中の生徒、時には教員までもが二人の恋路の成就のために動いている。


「ずっとそのままでいてね。純粋なえるが一番可愛いよっ」


「どういう意味!? むぅ、なんか分からないけどイジられた気がするよぉ……」


「にゃはは、えるはずっと私のおもちゃだよー?」


「酷い!! 桃花ちゃんもう嫌い!!!」


「あ〜ん、ごめんってぇ。飴ちゃんあげるから許して?」


「許す!!」


(あぁ、これが百合アニメに男が登場しない理由か……)


(今日の疲れ全部ぶっ飛んだんだが? やっべ、マジで何かとんでもないものに目覚めそう)


(二人と同じクラスにしてくれてありがとう、神様……ッ!)


 ぱくっ、とりんご味の飴を舐めて緩んだ頬を桃花がむにむにと引っ張り、イチャイチャを繰り返す。細身ながらもご立派な彼女の巨峰がえるの背中で弾け、形を変えるその姿に教室の端では鼻血を出す男子もいるほど。彼女らの一挙手一投足がクラスメイトを癒し、牙を剥き、興奮させる。


「える〜、やっぱり可愛いよぉ。お家にお持ち帰りして飼いたいよぉ〜」


「絶対やだぁ。桃花ちゃんセクハラばっかりするんだも〜ん」


「でも、そんなに嫌だと思ってないでしょぉ?」


「ふふんっ、どうだろうね〜」



 百合の花が満開になりました。大切にしましょう。

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