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73話 後輩、楽しみだな

73話 後輩、楽しみだな

 


 放課後。夏斗とえるはいつも通り、二人で帰路に着いていた。


「先輩っ! 今日、お家に行ってもいいですか? ゲームしたいです!」


「お、いいな。やるか~」


 すっかり元気になったな、と夏斗は彼女の明るい様子を見て安心する。


 今日一日、えるはずっとこの調子だ。朝も昼も、ニコニコと笑顔で。てっきり昨日あんなことを言ってしまったから、多少なりとも気まずくなるかと思われたのだが。もしかすると、案外あの言葉を嬉しいと感じてくれていたのだろうか。


 今は分からない。だが、結局はあと少しで分かることだ。


 遊園地デート。そこで、夏斗はえるに告白する。


 初恋が小学生で散り、どこか恋愛事に対して億劫になっていた彼だが、えるに対しての恋心はもうただのおとなりさん、ただの先輩後輩では満足ならないほどまで膨れ上がっている。


 恋人になりたいのだ。もっと親密になって、もっとずっと一緒にいたい。先日告げた想いは、その一欠片。


「なあ、える」


「なんですか?」


「楽しみだな、今週末」


「へっ!? は、はい! そう、ですね……!」


 そして彼女は、そんな彼の目論みに気づかないまま。一度テストの点数によって手に入れた権利を利用し告白しようとして挫け、立ち直って。今、再起の炎を燃やしている。


 夏斗に告白する。せっかく与えられた、遊園地デートという機会。二人きりで邪魔も入らないその場所で、ムードと共にタイミングを測って告白する。


 もう彼女は、限界であった。


 もっと夏斗に触れていたい。夏斗を他の人に取られたくない。夏斗とイチャイチャしたい。夏斗とお泊まりデートしたい。夏斗と旅行に行きたい。夏斗と部活に行きたい。夏斗と恋人になったという絶対的な自信が欲しい。夏斗と……好きな人と、キスをしたい。


 悶々と、というべきか。はたまたムラムラと、というべきか。夏斗を想うと身体の奥底から湧き上がってくる熱の吐口を欲していた。そしてその吐口とは、夏斗と恋人ととしてしたいことをたくさんすることである。


「アミューズメントランド、フィッシュパーク。結構絶叫系とかも有名らしいけど、えるってそういうのいけたりするか?」


「ぜ、絶叫ですか? 私、高いところと速い乗り物苦手で……」


「はは、俺も。えるも一緒でよかったよ。絶叫系、有名とは言っても全体の四分の一くらいだから、他にもいっぱい楽しめるはず。水族館も内蔵されてるしな」


「す、水族館!?」


「お、おぅ? どうした? そんな声荒げて」


「へぁっ!? な、なななんでもないです!!」


 水族館。えるはその言葉を聞いて、告白場所の第一候補をそこに決めた。


 そして夏斗は、既にそこを告白場所と確定させていた。非常にベタな場所ではあるが、中の施設を全てリサーチしたところ間違いなくそこが一番ムードの出る場所だと判断した。告白には打ってつけのものも存在していることから、一日アトラクションで遊んだ後、最後にそこに行って。告白をし、恋人になって欲しいと正式に申し込むのだ。


(える……俺のことを、受け入れてくれるかな……)


(ナツ先輩、私と一緒にいたいって、言ってくれたもん。絶対、大丈夫……だよね……?)


 二人の運命が大きく揺れ動くデートまで、あと六日。


 一人は予行練習を。一人はリサーチを繰り返し、その時間をいつも通り過ごして。



 日曜日が、やってきた。

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