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62話 早乙女、打ち上げ行こ?3

62話 早乙女、打ち上げ行こ?3



「んぅまあぁぁ……っ!」


「おお、本当によく食べるな。その細い身体のどこにそんな量入るんだ……」


 幸せそうな表情を浮かべながら紗奈が頬張っているのは、『デラックストンカツセット』。八つに切り分けられた大きなトンカツ、大盛りのキャベツが乗せられた大皿に、ご飯と味噌汁。キャベツ、ご飯、味噌汁はそれぞれ無料でおかわり可能で、今彼女はご飯二杯目、キャベツ二杯目を半分ずつ食べ終え、トンカツも六切れ減ったところである。


「私の胃はブラックホールなのだよ! 摂取した高カロリーも走ればすぐに消費できるし、圧倒的モーマンタイ!!」


「流石陸上部。考え方まで染まってるな」


「そういう早乙女は少ないねぇ。いっぱい食べないと大きくなれないよ?」


「お母さんかお前は」


 夏斗が頼んでいるノーマルなトンカツセットも、決して小さくはない。六切れのトンカツと、あとは同じ付属品。まさに普通だろう。


 それに、山盛り食べてお腹いっぱいになるわけにもいかない。夕方からはえると会い、お疲れ様会をするのだから。予約したお店を堪能できるよう、お腹の容量はしっかりと空けておかないと。


「ふぅ、あっつぅ……制服じゃなくてもっと涼しい格好に一回着替えてから来ればよかったかな……」


「そうか? 結構冷房効いてるけど。それに夏服だしな」


「む、人を暑がりみたいに言わないでよ! もぉ……」


 紗奈はそう言いながら、夏制服の第一ボタン、第二ボタンを開けてリボンを取る。


 はらりと落ちた赤いリボンの下から覗いたのは、綺麗な形をした鎖骨。それに加え、普段の陸上衣装のせいで出来た、日焼け痕。


 女の子にしては若干小麦色によった肌をしている彼女の、日焼け前の真っ白な肌。不意に見せられたそれに、夏斗は思わず目を逸らした。


「今、見たでしょ。……エッチ」


「ふ、不可抗力だ! 見せてきたのはそっちで────」


「私の日焼け痕に、ドキッとしちゃった?」


「……否定は、しないけど」


「ふふっ、できないの間違いだねぇ」


 逸らした目線を紗奈の顔に戻すと、憎たらしくニヤリ顔をしながらも整っていて、可愛いその表情にまた心が揺さぶられる。


 男勝りな、ただの女友達。ここ数週間でその認識は少しずつ変わっていて、自分の中で彼女が「女の子」になってきているのを感じてしまい本当に怖かった。


「あのな、柚木。男子高校生はケダモノなんだぞ。誰にでもそんなことしてたら、いつか勘違いされて……」


「ん? 誰にでもなんてしないよ。私がこういう姿を見せるのは、早乙女にだけだよ?」


「っっ!? だから、そういうところがだなぁ……!」


「あはは、やっぱり早乙女はいいリアクションしてくれるね。やり甲斐があるよ」


「てめぇ……」


 眉間に皺を寄せる夏斗を横目に、紗奈は耳にかかった横髪をかけ直してからお箸で、トンカツをつまむ。それをちょんちょんとソースにつけて、口へ。運んでからは口を手で押さえ、一切音を立たず咀嚼してから白ご飯と合わせ、最後に水で流し込む。


「うん。やっぱり……早乙女と食べるご飯が、一番美味しいや」



 また、二人でこうして出掛けたいな。そう、心の中で呟きながら。

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