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5話 先輩、お昼一緒に食べましょう

5話 先輩、お昼一緒に食べましょう



「なあ、あれ」


「うわぁ……なんだろ。視界に入るだけで癒されるな」


 夏斗のいるクラスである二年三組の前の廊下に差し掛かる寸前の、階段終わりの曲がり角。周囲の男子から視線を受けながらもじもじと縮こまっている美少女が、そこに一人。


「むぅ。先輩、まだかな……」


 ピンク色と紫色の巾着にそれぞれ包まれた、二つのお弁当箱。四限が終わり昼休みに突入した瞬間、急いで階段を駆け降りてここまで来たえるは今、夏斗をお昼に誘うため待機していた。


 本当は教室の中まで誘いに行きたい気持ちは満々なのだが、どうしてもそれは恥ずかしくて。毎日一緒にお昼を食べる仲だというのに、誘うのは決まって夏斗が廊下に出てきてからなのである。


「なあ、何なのあの可愛い生き物。毎日毎日ああして待ってるの、ピュアすぎないか?」


「本当だよな。そしてあれに誰も声をかけないところがまた……うちの学校のファンは民度高いわ」


 夢崎えるファンクラブ。その規模は構成人数五十人におよび、彼らはみな彼女の幸せを願い影で応援を続ける同志である。


 そしてそのうちの三人が今、階段の下からえるの様子を伺っていた。いや、その言い方は正しくないか。えるに近づく害虫が寄って来ないかを見ているのだ。


 今話していたモブAとモブBはその会員でも何でもないが、その存在はもはや学校の生徒ほぼ全員が知るところ。ファンクラブとは言っても表に立って何か活動をしているわけではなく、各自が本人に迷惑をかけないよう気をつけながら、影で支える。そういう目的の元集まった人々の民度は、確かに高いと言えるだろう。


「……はっ! 来た!!」


 と、そんな彼らの事を毛ほども知らないえるは、その視線の先に愛しの夏斗を捉える。ちょうど悠里と別れ、一人で教室を出てきたところだ。


 そんな彼を逃さないために。ぴょこっ、と角から姿を現したえるは、さも自分が今来たところと言わんばかりのアピールをしつつ、夏斗に近づいた。


「先輩っ! お昼一緒に食べましょー!」


「おー、える。食べよう食べよう。今日は午前に体育あったからお腹ペコペコだ」


「ふふんっ。そう言うと思って、今日は少しボリューミーなおかずを用意してますよ!」


「さっすがえるだな! 俄然楽しみになってきた!!」


 しっぽをぶんぶんと振る犬のように健気で、褒められたことに照れながら嬉しそうに少し顔を赤くする彼女の姿を見て、周りの男子の心が釘付けにされていく。


 振り撒かれる幸せムードと甘い雰囲気。非リア充のモブ男子連中はダメージを受けると同時に、その曇りなき純愛にときめいていた。


「もうあれ愛妻弁当だろ。彼女とかじゃなくて既に嫁の域に達してないか?」


「でも実際は付き合ってすらないらしいぞ?」


「俺それ未だに信じられないんだよな。確かに周りの民度の高さ的に他の人から好意が伝わる、みたいなのはないだろうけどさ。当事者たちは両想いに気づかんもんなのか? あれで」


「それな。まあそういうところもこの学校一のピュアップルって呼ばれる所以なんだろうけど」


 紫色の巾着の方を受け取った夏斗は、周りで自分達の噂話をされているなんて気づかずに階段を登っていく。そしてその一歩後ろを、好きの瞳で見つめながらついて行くえる。手を繋ぎたいな、なんてことを考えるも、こんなところでなんて恥ずかしいと一人顔を赤くしてぷんぷんと振りながら、勝手に妄想して照れていた。当然こっちも周りの視線になど気づいていない。


「える、どうした? 顔ちょっと赤いぞ?」


「ふにゃ!? き、気のせいですよ!」


(((テメェのこと考えてたからに決まってるだろ馬鹿が!!!!)))



 二人を取り巻く周囲の環境は、今日も平和である。

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