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57話 先輩、胃袋掴ませてもらいます4

57話 先輩、胃袋掴ませてもらいます4



 とんとんとんとんっ。まな板に、包丁の当たる音が響く。


 玉ねぎ、ピーマン、ウインナー。それらの素材があっという間にみじん切りや輪切りにされ、一つの皿にまとめられていく。


 そんな情景を、音だけで頭の中に思い浮かべるだけにするつもりだったのだが。気づけば彼女の手腕が気になり、立ち上がってキッチンへと向かっていた。


「先輩? ゆっくりしててくれていいんですよ?」


「いやぁ、その……なんだ。本当はこういう時手伝うって言えればいいんだけど、邪魔になるのは身に見えてるからな。シンプルに作ってるところ見ていたいからここにいていいか? あ、もちろん皿運びとかは手伝うよ」


「わ、私の料理なんて見ていて楽しいんですか?」


「楽しいと思う。たまにはえるのかっこいいところを見たいな」


「むっ。たまには、というのは余計ですが……。まあ、先輩がそこまで言うんだったら……」


「ありがと」


 一瞬むすっとしたえはすぐに機嫌が元に戻り、どこか自慢げになりながら手先に視線を落とす。


 包丁さばきはさながら。そこから具材を混ぜ合わせつつご飯を入れ、ケチャップライスを作るまでの手順もとてもスムーズで。あっという間に、あとは卵を巻くだけという状態になってしまった。


「すごいんだろうなと思ってたけど、改めて見ると本当にだな。なんか母さんが料理してた光景を思い出したよ」


「お母さん……今は出張でしたっけ?」


「そ。まあ今回のが落ち着いたらしばらくは落ち着くと思うって言ってた」


 夏斗の両親は、母親が建築デザイナー、父親が営業職という共働き。それに加え変に昇進してしまったがために仕事量が増え、家に帰れない日がここ数年で急増している。


 まあそれでも年末年始やゴールデンウィークなどの休暇期間はずっと家にいるし、それ以外の時もたまに早く帰ってくることもある。だから夏斗自身、今の家庭環境を寂しいと思うことはなかった。


「ふふっ。ナツ先輩のお母さん、一回しか会ったことはないですけど凄く美人さんで、そのうえしっかりした人でした。そんな人と重ねてもらえるなんて、なんだかとっても嬉しいです」


「本当に思ったからだよ。手際良すぎて少し見惚れてたくらいだし」


「えへへ、もっと見惚れてください。日頃から先輩にお弁当作るために頑張った甲斐がありました……」


 ここまでの手際。きっと、今まで相当な数の料理をこなしてきたのだろう。いや、だろうというか少なくとも、お弁当を作ってくれていた二ヶ月半くらい。週五換算してもかなりの数を自分のために作ってくれている訳だし。


 何より嬉しかったのが、彼女のその努力は自分に向けられていたということ。その過程で得られた力だと告げられたのが、なんだか妙に誇らしくて。ただ純粋に、嬉しかった。


「っと、そんなことを話している間に一つ目完成です! 先輩、これ運んでおいてもらいたいのと……あと、お茶お願いしてもいいですか? その間にパパッと私の分にも取り掛かっちゃうので!!」


「ん、分かった」


 それから、数分して。ホカホカの湯気を上げるオムライスとその横にお茶の入ったコップを並べ、二人で向かい合ってリビングの机に着く。


 とにかく美味しそうな見た目だ。ぷりっとした卵の表面に崩れや欠けは無く、とても丁寧にケチャップライスを包んでくれている。えるの心遣いも、ひしひしと伝わってくる一品。


「「いただきます!」」


 

 そんな極上の品を目の前にして、二人一緒に「ぐぅぅ」とお腹を鳴らしてから。見つめ合って、笑い合って。以心伝心するように両手を胸の前で揃え言った。

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