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41話 早乙女、私頑張ったよ

41話 早乙女、私頑張ったよ



 キーンコーンカーンコーン。


 一限が始まる五分前を告げる予鈴が鳴る。


 それと同時に教室に入った夏斗を出迎えたのは、一冊のノートを持ちソワソワとした茶髪の女の子。


「早乙女ぇ! 遅いぞォォォ!!!」


「うわっ、うるさ!?」


 ノートの表紙には「まとめ用」の文字。紗奈の目元にはくっきりとクマが付いていて、その努力は一目で伝わった。


「お前……まさか寝てないのか?」


「ふっふっふ。へへへへへっ。寝る時間は取れなかったけどその代わり、数学の範囲全部に一度手はつけたよ。八割以上分からなかったけど、公式も……頑張って覚えた……」


 初めは深夜テンションで元気に振る舞っていた虚勢も、次第に無くなって。ずんっ、と思い雰囲気を漂わせた紗奈はノートを夏斗に手渡すと、ふらふらとした足取りで席へと戻る。


「今日の一限、確か自習だったよね……? ちょっとヤバいから、一時間寝させてもらうよ。まだ自習の時間何個かあったと思うからその時教えて……」


「お、おう。分かった」


 バタッ。倒れ込むように机に突っ伏した紗奈はすぐに静かな寝息をたて、深い眠りへと落ちていく。


 それを背後で眺めながら驚きつつ、その後ろの窓際最後列の自分の席へと、座った。


 手渡されたまとめノートを開く。そこには書き殴ったような字でかく単元ごとに問題集で分からなかったところがびっちりと記されており、確かにほとんど全ての問題が分からなかったことが見て取れた。


 でも、もはやそんなことはどうでもいい。夏斗はこんなになるまで一人、ちゃんと自分との約束を守って勉強してくれた紗奈の努力の跡に、とにかく感動したのだ。


「おいおい、マジか。柚木がそれを?」


「そうなんだよ。俺も今びっくりしてるところだ」


「はえー……俺との時は一問目から聞いてきては分からないって嘆くばっかだったのにな。アイツここまで頑張れたのか」


 悠里も不思議そうに隣からノートを覗き込んでいる。


 紗奈の異常努力。これは前回のテスト期間ではあり得ないことだった。


 たとえテスト前日であったとしてもしっかりと眠り、それどころか朝の日課のランニングまでしてから望んでいたテスト。結果は三教科赤点に終わり、悠里が教えたのは四教科。そのうち数学と化学で赤点を取られて、酷く呆れたそうだ。


「なんというか、すぐに満足する奴なんだよ。区切りが早いっていうかさ。問題集一ページとけるようになっただけで舞い上がって調子に乗って、気づけば前日ってな。少なくとも俺の時はこんな努力見せてなかったよ」


「そう、なのか」


「お前何かしたのか? 例えば点数取れたら何かあげるって約束したりとか」


「いや、してないな。ただ昨日メッセージでちゃんと頑張れよとは言ったけど」


「ほぉん。それだけ、ねぇ……」


 何はともあれ、やる気になってくれたのならこれ以上好ましいことはない。


 せっかく本人がここまでしてくれたのだから、こちらも答えるのが義務というものだ。なんとしても今回は絶対に赤点を取らせない。そのために、しっかりと扱く。


「まあいいや。お前、柚木に勉強教えるのはいいけどちゃんと自分の勉強に弊害が出ないまでにしとけよ。これが原因で負けたって飯奢りは無くしてやらねぇからな」


「分かってるよ。今回もお前の奢りで美味い飯食いに行きたいしな。前は焼肉だったから……今回は中華でも行くか」


「はっ、減らず口叩いてられるのも今のうちだ。今回は俺が勝って次こそお前の金で肉食らってやるよ」


「また焼き肉かよ」


 負ける気はない。今回はえるとの勉強会で前よりも捗っているし、前で爆睡してる奴に教えるのも「人に教えると自分の頭で記憶が定着する」というどこかの本で読んだ効率的な勉強法なんちゃらってやつの内容にも合致している。


 ただ教えるだけじゃつまらない。教えて、その分の記憶をしっかりも自分のものにしてこちらも点数を上げる。


(頑張ろうな、柚木……)



 心の中で呟きつつ、ノートにゆっくりと目を通した。

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