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40話 柚木、頼むからちゃんとしてくれ

40話 柚木、頼むからちゃんとしてくれ



 えると別れて、数時間が経った。


 思いの外集中できて、充実した数時間を過ごせた気がする。途中からは二人とも無言になって一時間以上もの間勉強に没頭できた。


 そのおかげもあって、今夜のうちにやろうと思っていた範囲は全て終わり、そのうえ少し先まで進むことができている。小一時間でここまで出来るとは思っていなかったから、完全に想定外ながらもラッキーだった。


『先輩、今日はありがとうございました。明日もがんばりましょう!\\\\٩( 'ω' )و ////』


『おーう。今日はだいぶ頑張ってたんだから、あんまり今夜はあまりこんを詰めすぎるなよ〜』


『はいっ! 明日に向けて今日は早く寝ます!!』


 えるもどうやら勉強会の結果には満足できたらしく、質問して来て教えたところも飲み込みが早くて数学の範囲を一気に駆け抜けていた。この調子で行けばきっと、テストにも間に合うことだろう。


 と、勉強机でえるとチャットをしながらそろそろ寝ようかと教材を閉じた時。別の誰かからのメッセージが届いた着信音が短く、部屋に鳴り響いた。


「ん? 誰だろ」


『早乙女ー……サインコサインタンジェントってなんなんだよぉ……ラップの歌詞かぁ?』


『おいおい、三角関数のことをラップとか言うなよ。発見した人泣くぞ』


 ふざけたメッセージを送ってきた相手は、今絶賛家で一人頭を抱えながら教材に手をつけることができていない紗奈。どうやら問題ページに行く前の事前解説のちょっとした公式やら解き方やらが載っているページで躓いているようだった。


『サインコサインタンジェントぉ〜お前のじいちゃん蓄のう症〜Yeah〜』


『クソライム作ってんじゃねぇ。てか三角関数って今回の数学の範囲の一番最初のところだよな? 夜まで勉強してそれか? お?』


『し、仕方ないでしょ!? その、毎日陸上で走ってたからさ……いきなり部活無しとか言われてもやっぱり、身体が落ち着かなくて』


『まさか走りに行ってたのか?』


『……(〃ω〃)』


『いや何照れてんだオイ。お前今勉強始めたばっかりかよ……』


 はぁ、とため息を吐いた夏斗は、あまり反省の様子がない紗奈への怒りを爆発させそうになりつつも、やがて出てきた『呆れ』の感情でそれをかき消していく。


『分かってるんだろうな。明日までにちゃんと分からないところをまとめて来なかったら……』


『わ、分かってるよ! ちゃんとやる! ちゃんとやるから!! だから捨てないでよぉ!!!』


 画面の前で涙目になっている柚木の姿を想像して笑みをこぼしつつ、打ち込みを続けた。


『ならまずは三角関数、あとせめて次の範囲の指数のところまでは目を倒しておけよ。その二個しか範囲無いわけだけど、期間はあと六日なんだからな』


『合点!! 紗奈ちゃん本気出しちゃうよ!!』


『はいはい。その調子で頼むぞ』


 俺は最後にそう打ち込み送信すると、そっとスマホを閉じた。


 えるとは大違いで不真面目な奴だ。せめて出来ないなりにももっとやる気を見せてくれれば、こっちも教える立場としてやり甲斐を感じられるというのに。


「はぁ。悠里が苦労したわけだ」


 悠里の勉強スタイルはよく知っている。まずは教科書やプリントに書かれているものを自分なりの言葉でノートにまとめ、重要語句は赤文字で書くようにする。


 その後は単純で、赤シートでそれを隠してひたすら真っ白なルーズリーフに覚えられるまで何度でも書き続ける。頭で覚えると同時に手にも答えを覚えさせる、まさに短期決戦の定期テスト用と言った感じの勉強法だ。やる気も根気もいる作業だから、そもそもモチベーションを見出せない彼女には苦だっただろう。


 まあだからと言って、悠里が優しく別の方法を教えてやるとも思えない。きっとひたすらそれを貫き通して、なんとか破滅的な点数を取ることだけは避けさせた、という感じか。


「柚木に向いてる、勉強法……ちょっとくらい考えてやるか」



 せっかく教えるのだ。せめていつも赤点常連の理数教科は完全に赤点を免れることができるよう、俺も頑張って教えることにしよう。本人がやる気を無くしてしまったら流石に、それも断念してしまうかもしれないけれど。そこは本人の頑張り次第だ。

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