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39話 先輩、お願いしてもいいですか?

39話 先輩、お願いしてもいいですか?



「えへへ……むにゃぁ」


「オイ嘘だろ。早すぎるだろ流石に」


 すぴぃ。勉強を始めて三十分。スイッチが入り一気に集中できるようになったのも束の間、右腕に何かが寄りかかってくる。


 それは、幸せそうに目を閉じて力尽きたえるであった。


「起きろぉ。おーい」


「んっ……はっ!? 私寝ちゃってましたか!?」


「おう、それはもうぐっすりとな」


 えるは勉強が嫌いというわけではない。家で予習復習をするほどではないけれど、学校の授業中は夏斗のことを考えて自分の世界に没入してしまう時を除いてかなり真面目に勉強に取り組んでいる。


 しかし、問題が一つ。それは文字面や数学の公式なんかを眺め続けると、すぐに眠くなってしまうことである。


 流石に緊張しているテスト中や寝ると怒られてしまう授業中なんかに寝てしまうことはほとんど無いものの、自室にこもって勉強するときなんかはすぐに寝落ちしてしまう。嫌いとまでは思っていなくとも、面白いとはこれっぽっちも思っていないというの原因だろうか。

 

「うぅ、勉強は辛いです。私がこの公式を覚えて一体この先の人生でなんの役にたつんですかぁ……」


「あー、それ俺もいつも思ってるなぁ。実際習ってることのほとんどは社会に出て使わないだろうし」


「やる気がぁ……やる気が出ません……」


 眠い目を擦りつつ、一人ごちるえるは、全く進んでいない数学の問題集を閉じてしまう。


 確かに、この勉強は将来役にたたないかもしれない。しかしここでやめてしまうと怠癖がついてしまううえ、大学受験で必ずしんどい思いをしてしまう。


(アメが必要か……)


 手っ取り早くやる気を出させる方法で一番良いのは、アメとムチの理論だと思う。甘やかす時は甘やかし、厳しい時は厳しくする。二つをうまく使い分けることで厳しくしても頑張れるというわけだ。


 つまり、今夏斗が与えなければいけないものはアメ。まずはそれでやる気を出させなければ始まらない。


「よし分かった。じゃあ今回のテスト、全教科五十点を達成できたら何かご褒美を用意しよう。俺の叶えれる範囲のことなら何でもいいぞ」


「えっ? 何、でも……!?」


(おっ、食いついた)


 ピコンっ。さっきまでしわしわに丸まっていたえるの背筋がピンと伸び、キラキラした目で夏斗を見つめる。


「何でもってその……何でもですか!? ナツ先輩と、何でも好きなことを……」


「なんかめちゃくちゃ怖い言い回しなんだが。まあそうだな、基本的には何でも一つ言うことを聞くよ。その代わり、一教科でも五十点を下回ったら俺の言うことを一つ聞いてもらおうかな」


「はぅっ!? 先輩に何でも命令をされる、なんて……エッチすぎませんか……?」


「おま、何変なこと想像してるんだ! そんな変なの頼まないっての!!」


 何はともあれ、さっきまでの眠気は吹き飛んだようだった。全教科五十点はボーダーとして甘すぎたかもしれないとも思ったが、彼女の目標がそれなのだから上げすぎてもモチベーションを損なってしまう。


「言質、取りましたからね! 私が全教科五十点を達成したら本当にお願い事しちゃいますから!!」


「頑張ってくれ。それくらいやる気を出してくれると教える側としてもやり甲斐があるよ」


 閉じた問題集を再び開き、やる気の炎に満ちた瞳で問題と向き合うえる。おそらくこれで、もう寝てしまうなんてことにはならないだろう。


(さて、そういえばもう一人の問題児はちゃんと勉強してるのか? 心配だな……)


「先輩! 電池切れを起こさないための頭なでなでを所望します!!」


「はいはい。たっぷり充電しような」


 えると違い、赤点常習犯で先生との脈でギリギリ最終成績を上げている究極問題児。夜に一度連絡を入れてみるか、なんて考えつつ、目の前の小さな頭を撫でてとりあえず癒される。



 頭を撫でられてやる気を出す彼女と、頭を撫でることで心が落ち着き活力を見出せる夏斗。永久機関コンビは定期的にお互いの成分を摂取しつつ、えるの門限の七時前までずっと。これまでにないほどの捗りで勉強を進めるのだった。

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