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3話 先輩、一緒に登校しませんか?

3話 先輩、一緒に登校しませんか?



 朝。夏斗は寝癖をほったらかしにしたまま、朝ご飯のトーストを頬張る。


 いちごジャムの乗った、仕事に行く前の母の作り置き。それを数分で簡単に完食すると、時間は七時五十分。そろそろ────


 ピンポーン。


「お、来たか」


 家中に響くインターホン。それは、えるがここに来訪した合図である。


 すぐに制服に着替え、鏡の前で歯磨きと寝癖直しをして。彼女を待たせまいと、五分で支度を済ませて外へ出る。


「おはようございます、先輩」


「ん、おはようえる。昨日はぐっすり寝られた?」


「は、はい。すみません、私寝落ちしちゃって」


「いいよいいよ。元々えるが寝落ちするまで続けるつもりだったからさ」


 かあぁ、と少し顔を赤くするえるにキザな台詞を吐いて、夏斗は家の鍵を閉める。


 そしていつも通りのおよそ十五分にわたる通学路を、二人で横並びになって歩くのだ。初めはそうして一緒に歩くだけでも二人して顔を真っ赤にしていたものだが、今ではすっかり慣れて談笑できるまでの仲になっている。


「いつも思うけど、えるって登校する時凄い楽しそうだよな。学校、そんなに好きなのか?」


「へっ!? わ、私そんなに楽しそうにしてますか!?」


「うん。今にもスキップし出しそうなくらい」


「そ、そんなに……」


 夏斗に指摘され、えるはそっと目線を外して耳を赤くする。


 楽しそうで当然だ。この十五分は、好きな人と肩を並べられる一日で一番長い時間なのだから。


 学年の違う二人は、学校につけば違う階の教室に向かわなければならない。授業毎に十分の休憩時間があるが、あまり迷惑をかけすぎてはいけないと自重しているえるは、昼ご飯の時以外は夏斗の元を訪問しないようにしている。


 つまり、今のうちに夏斗成分を摂取しておかなければいけないという重要な時間でもあるのだ。メッセージの文字面だけでは手に入らないリアルな成分を、こうして一緒にお話ししながら手に入れる。そうやって充電を溜め込む事で、なんとか昼までの寂しさを埋めるのだ。


(学校なんてそんな楽しみにしてるわけないじゃないですか。先輩といられるこの時間が、一番の楽しみなんですよ……)


 心の内でそう呟くえるの本心に、この鈍感男は気付けない。


「先輩の……バカ」


「え? 今何か言ったか?」


「もう! 何でもないですよ!!」


 そうして、あっという間に十五分という短い時間は過ぎていき。気づけば学校の正門前に辿り着いてしまった二人は、名残惜しさ全開で別れる。


「じゃあな、える。またお昼に」


「うぅ、毎日の事なのにやっぱり寂しいです。先輩……充電しても、いいですか?」


「き、今日もやるのか!? あのなぁ、あれ結構恥ずかし────」


「ぎゅ〜っ!」


 むぎゅっ、もにゅん。柔らかな双丘が、あたふたする夏斗を逃すまいと正面から密着する。


 ふわりと鼻腔をくすぐる、甘い匂い。胸元に埋めてくる小さな頭がぐりぐりとマーキングするようにその匂いを押し付けてきて、公衆の面前で夏斗は激しく赤面して顔を覆った。


「えへへ、先輩パワー充電できました。これで今日もお昼まで頑張れそうです!」


「そ、そうか。それはその……良かった、です……」


 そのままてててっ、と校舎に向かっていくえるを見送りながら、夏斗は小さくため息を吐く。


 そしてえるの姿が見えなくなったところで、小さく呟いた。


「俺の方は逆に充電されすぎて、集中どころじゃないっての……」



 もどかしい気持ちと共に、今日も一日が始まった。

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