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37話 先輩、私はいらない子ですか?

37話 先輩、私はいらない子ですか?



「あ、先輩っ! 遅いですよぉ!」


「ごめんごめん、柚木の奴に絡まれてさ。じゃあ帰るか」


「え? 柚木、先輩に……?」


 むすっ、と一瞬えるが顔をしかめる。前の時も思ったが、コイツもしかして柚木のことが嫌いなのだろうか。名前を出すとあまりいい表情をした試しがない。


 紗奈のどの部分が気に入らないのかがまだよく分かっていない夏斗は、勉強を教えてくれとせがまれたのだとひとまずあったことをそのまま話した。加えて明日からは放課後、勉強を教えてやるつもりであることも。


「ほ、放課後って……じゃあ明日からは私と、一緒に帰ってくれないんですか……?」


「うっ。い、言われてみれば放課後に柚木に勉強なんて教えたら、えると帰れなくなっちゃうのか……」


 盲点だった。なし崩しにOKしたものの、このままでは勉強前の癒しであるえるとの下校時間を味わえなくなってしまう。それは本人にとって、何よりも辛いことだ。


 ならば、どうするか……


「ナツ先輩は私より柚木先輩の方が好きなんだ。私、いらない子なんですね……」


「それは違う! いや、マジで!! えると登下校する時間は本当に楽しいし、俺も失いたくないよ。でも、どうしよう……えるも勉強はしなきゃだもんな」


 紗奈との勉強会が終わるまで待っていろ、というのは流石に酷というものだろう。そんなことがえるに耐えられるはずがなく、一人で待っている間にゲシュタルト崩壊を起こしてグズグズになっていく未来も目に見えている。


 かと言って、三人で勉強をするというのもいかがなものか。この二人はただでさえ仲が悪い可能性があり、勉強どころではなくなってしまったら。最終的に三人全員が損をする。


 頭を抱えながら悩む夏斗。その横で、えるは下を向きながら小さく吐露する。彼の耳に、ほんの少しだけ入る程度の声量の心の叫びを。


「私も、勉強教えてほしい……もん。先輩を取られるなんて、やだ……」


「っ!!」


 好きな人が自分ともっと一緒にいたいと。そう、呟いてくれた。


 喜びで上がっていく体温と共に、一つの考えが浮かび上がる。


「よし、分かった。える! 柚木に勉強教えるのは学校の中でだけにするよ。登下校の時間は今日と同じように、すぐに出てくる。だから明日からも一緒に帰ろう」


「いいん、ですか?」


「まあ柚木だってなんやかんや言って二年生に上がれてるわけだしな。そこまで酷くはないはずだ。学校の中だけでなんとか留められるよ」


 悠里のあの呆れ切った顔が、一瞬脳裏をよぎる。


 たしか前回のテストで柚木は苦手な理系教科でも四十点ジャストでなんとか赤点を乗り切っていた。平均点以上や学年上位のような目標があるなら教える側としてもかなり厳しい戦いになるが、目標はあくまで赤点の回避。それなら充分成し得るはずだ。


「あの、先輩。迷惑じゃなければなんですけど……私も勉強、教えて欲しいです。今回の範囲は苦手なところが多くて……」


「おう、任せとけ。えるの範囲は去年勉強してるわけだしな」


「やった。先輩と、放課後お勉強デート……えへへっ」


 それから二人は、帰り道にある図書館での勉強会を開く方に決定した。ここら辺では珍しく夜まで空いている、大きめの場所である。



 初めは夏斗の家で、という案も出たのだが。この間の一件のこともあり、二人して集中できる気がしなかったので図書館で決定。親にもきちんと連絡を入れ、夜の七時までの時間を共に過ごすことを許されたのだった。

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