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35話 私、やっぱり先輩のこと……

35話 私、やっぱり先輩のこと……



 先輩にお腹を撫でられた。おへそをクリクリされ、変な気持ちになりそうになった。


 その余韻は、家に帰った今もまだ続いている。あの時の私はあきらかに普通じゃなかった。今思えば桃花ちゃんとの保健室での一件から不安が爆発して、暴走するように先輩を家に誘ってしまったのだ。


「んっ、んっ……やっぱり。自分で触っても、何も思わない」


 パジャマを捲り、自分でお腹を撫でる。けれど思い浮かんだ感想はせいぜい「くすぐったい」程度のもので、桃花ちゃんや先輩に触られた時とは何もかもが違うと分かった。


 じゃあ、なんで二人が相手だとあんな風になってしまったのか。恐らく自分以外の誰かなら誰でも心地いいというわけではないと思う。


 まずは桃花ちゃん。私は友達として、彼女のことが大好きだ。ボディタッチが多くいつも揶揄ってくるけれど、それ以上に優しくて心強くて。構ってくれるのも相談に乗ってくれるのも、勇気づけてくれるのもいつも桃花ちゃん。恋愛感情ではないけれど、好きだ。


 そんな彼女に触られると、心が落ち着いて身を委ねてしまう。ついつい身体が甘えようとして、もっと撫でて欲しいと思ってしまった。


 最高の親友相手でこれ。でもナツ先輩相手の時は、それ以上だった。


 まずすぐに身体が熱くなって、頭がちょっとぼーっとした。そして次の瞬間には身体中がよく分からない気持ちよさに包み込まれて脱力。あとはもうされるがままで、恥ずかしいほどに頬を緩ませて乱れた。


 桃花ちゃんの時と違ったのは、甘えたいという本能以上に圧倒的な「気持ちよさ」があったこと。心地よさと気持ちよさの違いをうまく言語化できないけれど、そこに明確な上下関係を感じる。


「先輩……やっぱり、好き。世界で一番……大好き」


 ドキドキしていた。先輩も、そんな私を見てドキドキしてくれていたはず。私のお腹をなでなですることを、嫌がってはいなかったような気がする。むしろ、楽しんでいたようにも……。


『俺はえるがエッチでも嫌いにならないよ。というか、エッチな女の子が嫌いな男なんていないから』


 私がエッチだったのか、それとも先輩がエッチだったのか。それは分からないけれど。少なくとも彼は私のことを受け入れてくれる。嫌がらずに、なでなでをしてくれる。


 今日のことは、間違いなくここ最近で一番幸せな時間だった。いっぱいゲームで遊んで可愛い一面を見て、その後はいっぱい触れてもらえて。これは私がたまたま先輩の家の隣に引っ越してきたから掴めた幸せ。一生分の運を使い切ってしまっていたとしても、そこに後悔はない。


 でも、もう少しだけ……望んでもいいのだろうか。


「先輩の彼女さんになれたら、もっと……」


 世界一かっこいい先輩の隣に私がそう簡単に立てるとは思っていない。きっとこれまで何度も告白されたりしているだろう。私は少なくとも、その人達全員より上の存在でなければいけない。


 考えるだけで不安だった。


「でも、頑張らなきゃ。絶対に、先輩に好きになってもらうんだ……!」


 腰掛けていたベッドにころんと転がり、ふと時計を見る。時間は二十二時。明日も先輩にお弁当を作るため、早寝早起きをしないと。


 ただでさえ、今はライバルもいる。先輩のクラスメイトの完璧美人、柚木紗奈先輩。あの人に取られないためには、今あるアドバンテージを全て活かして積極性を無くさないこと。


 私とナツ先輩だけの世界には、絶対に入れてはいけない。


「せん、ぱぃ……」



 想い人の名前を無意識に呟きながら。私はそっと、瞼を閉じた。


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