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32話 後輩、後ろに隠れていろ

32話 後輩、後ろに隠れていろ



『ここ、は……?』


 ふと目が覚めると、地下のような場所にいた主人公とヒロイン。二人の前には無機質な空間が広がっており、ふと周りを見渡すと床には二丁の拳銃のみが落ちていた。


『とりあえず、探索しよう。もしかしたら人がいるかもしれない』


「探索しましょう、先輩!」


「待て待ておかしい! 拳銃が落ちてるような場所だぞ!? ここは一旦冷静になってだな……」


「あ、私と先輩って一定以上の距離離れられないみたいです。私が進めば、ほら……」


「ひ、引っ張られる!? 待てオイ、こんなの進んだら絶対ロクでもないことが────っお!?」


 えるを引き止めようとしたのも束の間。目の前から現れたのは溶解液でも浴びせられたのかと思うほど皮膚がただれ、頭髪の抜け落ちた化け物。ゾンビというよりはまさにでろでろ人間といった感じのそれら三体に襲われ、咄嗟に手元の拳銃で迎撃する。


「先輩を襲おうなんて百年早いです! ていっ!!」


 パンッ、パンパンッ。


 夏斗よりも先に銃弾を打ち込んだのはえる。視点切り替えに苦戦しながらも八発目の弾を発射したところでようやくそれはでろでろの額を貫いた。


「えっ、ちょっと待ってくださいこれ弾切れあるんですか!? 入れ替え五秒……先輩、その間お願いします!」


「お、おう任せろ! こんな奴らッッ!!」


 こちらは五発。えるよりも少ない弾数で、それも二体のでろでろを倒した夏斗は肩を撫で下ろす。そこからまたストーリー的なものが進み、しばらくは主人公とヒロインが会話していた。


 突然現れ襲ってくるでろでろと銃を使って戦い、この地下研究所から脱出する。そういう名目で作られたゲームと分かっている夏斗だが、なにせでろでろの声が怖いのと突然出てくるのでこれ以上は本当に進みたくなかった。


 が、えるの手前ここで止めるわけにもいかない。主人公たちの会話イベントが終わり更に奥へ進んでいく流れが始まると、夏斗は冷や汗をかきながらコントローラーを操作する。


「先輩、ビクッてしてましたね。いつもはかっこいいのに……今はとってもかわいいです」


「茶化さないでくれ……」


「えへへ、なでなで」


「ちょっ!? 頭、撫でるなっ」


 小さくて、ドジで。メンタルが弱くて泣き虫。そんな後輩に頭を撫でられ励まされるというのは、中々に辛いものがあった。いや、可愛いけども。手のひらもちっちゃくて、ちょっとお姉さんみたいなことを出来て嬉しいって顔に書いてあるのもなんか子供っぽくて大変良きだけども。


「見てろよ……こっからは俺が前に出てやる。える、お前は後ろから援護でもしてやがれぇっ!」


「ほほう、言いましたね? 楽しみにしてますよぉ」


 それから約一時間にわたって、気づけば日も完全に落ちる頃まで俺達はでろでろハザードをプレイし続けた。


 一章、二章と続いていくエピソードのうち、一章の中ボスまでなんとか撃破して。かなり強かったし、苦戦もしたけれど。途中からは怖さよりも楽しさ、悔しさが勝ち初めて、ようやく倒せた時には二人でハイタッチをしたほどだ。


「よっし、やっと倒……って、もうこんな時間か!? える、そろそろ帰らないと!!」


「まだ大丈夫ですよ。八時までには帰るって言ってるので、まだ三十分くらいあります!」


「そ、そうなのか? よかった……えるのお父さん、一回見たことあるけどすげー怖そうな人だからさ。怒鳴り込みに来られるんじゃないかって焦ったわ」


「あはは、まあ確かに怖い人かもですね。十五年も家族として一緒にいるともう慣れっこですけど」


 セーブボタンを押し、ゲームの電源を落とした夏斗はコントローラーをえるから受け取って手際よく全てを片付けていく。


 本当にあっという間の時間だった。終わってしまうと少し名残惜しい。まだもう少し時間があるとはいえ、もっとこの楽しい時間が続けばよかったのにと思ってしまう。


『もう少しだけ、一緒にいたいんです。ダメ、ですか?』


(さっきのえるも、きっと今の俺と同じ気持ちだったんだろうな)


 えるは寂しがりやだ。毎日別れ際はいつもしゅんと落ち込むし。そういえば……今日は特に酷かったな。なんやかんやと言えど家に誘うなんてこと、今まで一度もなかったのに。


 何か、特別な理由でもあったのだろうか。


「なぁえる。そういえばなんで今日、家に誘ってくれたんだ? なにか……したいことでもあったのか?」


「えっ? ……はっ! 先輩とのゲームが楽しすぎて、本題を忘れていました! 先輩に、お願いしたいことがあったんです!!」


 お願い、したいこと?


「あの……私のお腹を、なでなでしてくれませんか!?」


「……え?」

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