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2話 後輩、どうしてそんなに可愛いんだ?

2話 後輩、どうしてそんなに可愛いんだ?



「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!!」


 少年は、ベッドの上で枕に顔を埋めていた。


 シャワーを浴び、心頭滅却を繰り返したと言うのに。頭の中から離れないのは、えるの泣き顔と体温。そしてほんのりと甘い、女の子の匂い。


「なんなのあの生き物! 可愛すぎないか!? あれより可愛いのこの世にいる!? いや、いない!!」


 ジタバタと暴れ回りながら謎の自己完結をする夏斗の脳内は、もうえるのことでいっぱいである。いや、今だけと言わず一日中だが。


 朝、おはようのメッセから一日が始まり、少し気恥ずかしいながらも一緒に登校する。そして授業中や休み時間にこっそりやり取りをして、帰路に着く。帰りはバスケ部の活動があり遅くなってしまうことが多いためえるには先に帰ってもらっているが、まさか今日はまた会えるなんて。


 何か悲しいことがあって泣き崩れていた彼女を前にして不謹慎だが、心の中ではガッツポーズをかましたほどだ。


「くっそ、何なんだアイツは。何もかもが可愛いじゃねえか。あ゛ぁ、好きだァァァ!!!!」


 ちなみにここまで想いが強いのに告白しないのは、過去に一度大きな失恋をしているからである。


 小学校で好きになった相手を六年間片想い。その後中学の修学旅行で告白して、見事に玉砕した。自分は両思いなのだろうと思っていた相手にいとも簡単にフラれたあの時の悔しさは、今でも忘れられない。


 夏斗は日和っていた。告白することで……告白に失敗することで、おとなりさんのあの後輩との楽しい日々が終わってしまうのではないかと。


 女は思わせぶりな生き物だ。こっちが「あれ、コイツ俺のこと好きなんじゃね?」と勘違いしてしまう行動を繰り返してくる生き物だ。


 だから今回、この恋に両思いの確証が持てない。それこそこのヘタレが足踏みしている最大の理由である。


「は〜ぁ。そういえばえる、何で泣いてたんだろ。理由も聞かずに突発的に慰めて……俺、ちゃんとアイツの心の支えになってやれたのかな」


 時計の針が動く音を聞きながら、ころんと寝転がって白い天井を見上げる。


 不安だった。いっそまた泣き出してしまって、メッセージでも送ってきてくれれば……そんな不謹慎な事を考えた。


 そして、そのタイミングで。


「!!? え、える!?」


 ぽろんっ、とメッセージの受信を伝える音が鳴る。飛び上がるようにしてスマホにすぐ手を伸ばすと、そこには彼女からのメッセが表示された。


『さっきは取り乱してごめんなさい。迷惑、でしたよね』


 少し病みを感じる、ネガティブな文章。餌をとりあげられた子犬のような表情でそれを打っている彼女の姿が、容易に想像できた。


『そんなことないよ。俺こそごめん、えるが泣いてるところみたらいてもたってもいられなくなって、いきなり抱きしめたりなんかして。怖かったよな』


『そ、そんな事ないです! そ、その……ナツ先輩になでなでしてもらったりして、本当に嬉しかったんです。でも、また迷惑をかけちゃったって。申し訳なくなって……』


 きっと彼女は、自分のことを低く見積りすぎている。こういう少し面倒くさいところも可愛くて魅力的なのだという自覚がないんだ。


 夏斗は、すぐに伝えてあげなければならないと思った。そもそも自分は彼女の行動を迷惑だなど、一度も思ったことはないと。合間を感じる必要なんて、一つもないのだと。


「ははっ、本当可愛いなコイツ。こういうところ……やっぱり、好きだ」


 その後、二人のやり取りは深夜まで続いた。


 自分を責めるえると、慰める夏斗。両片想いの二人にとってそれは、とても幸せな時間で。途中からは通話を繋いで、少しずつ明るくなっていくえるの声色に夏斗は高揚した。何度も何度も優しく接して言葉をかけてくれる夏斗に、えるはあったかい気持ちになった。


『すぅ……すぅっ……』


「寝ちゃったか。元気になってくれて、本当によかった」


 

 最後にはえるの寝落ちによって幕を閉じた、二人だけの通話。夏斗は通話ボタンを切り、ゆっくりとのびをして。彼女の後を追うように眠りにつくのだった。

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