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25話 後輩、おへそを見せつけないでくれ

25話 後輩、おへそを見せつけないでくれ


 

「夢崎さ〜ん、ちょっと開けるね〜」


「ひゃ、ひゃい!」


 シャァッ、とカーテンが開く音がしたその時、それまで夏斗が座っていた椅子の上には誰も乗ってはいない。


 まだ夏斗と一緒にいたいえるは、必死になって彼の身を隠した。場所や手段などをごちゃごちゃと考えている暇はなく、選択肢は一つしか用意されなかったのだ。


(え、ええええるさんの……おへそ!?)


 夏斗は、えるの身体を覆っている布団の中に押し込まれていた。


 それも、あまりに急な事だったので体勢を整えている暇もなく。半ば抱きつかれるようにして押し込まれた夏斗の顔は今、ジャージと下に着た体操服の捲れたお腹の前にぴっとりと引っ付いて。おへそが、ゼロ距離のところで丸見えだった。


「どうしたんですか? 先生」


「ん? あーいや、付き添いの子ちゃんと帰ってるね。よかったよかった」


 眼前にはおへそ、胸部には太もも。下半身には膝が密着しており、心臓の躍動が止まらない。その上ほぼ密室なその暗闇ではえるの甘い匂いが凝縮されており、意識を逸らそうとも強制的に現実を突きつけられる。


 少し手を伸ばせば何もかもに手が届く、ある意味では天国。ある意味では生殺しの地獄なその場所で。夏斗が出来ることは、先生にバレぬよう息を潜めること。じっとして、その場から動かないことのみだ。


「せ、先輩なら……さっき帰っ────ひゃぅんっ!?」


「ん? なんか今変な声出したか?」


「な、なんでもにゃ、ひっ!? れす……んっ!」


 だが、その状況では。夏斗に加えてえるも、普通ではいられなかった。


(お腹に先輩の息、当たってる。くすぐったいよぉ……)


 両手を布団から出しているえるも、両手が抱きつくような形でえるの腰に巻き付けられてしまっている夏斗も。今のお腹に顔が密着している状態を変えることはできない。即ちどれだけ抑えようとも夏斗の息が直に、おへそを刺激してしまう。


「ふっ……ふぅっ!? はぁ、あぅっ。……んん゛っ!」


(えるの奴、なんて声出してるんだ!? だぁ、クソッ! これじゃ動こうにも動けないし……上を見上げればおっぱい、前を見ればおへそ、下には太ももだとォ!? 俺にどうしろってんだ!!)


(ひにゅぅっ!? あ、あぁ……ひぇんぱ、息っ。だめぇっ……)


「夢崎さん、悪いけど私はこれから緊急呼び出しがあって会議に参加しなきゃなの。しばらくここ空けるけどいい?」


「は、はい……ぃ。大丈夫、れしゅ……」


 ピクッ、ピクッ、と小さく痙攣する身体。ただおへそに息をかけられているだけだというのに、えるの予想に反して身体はビックリするほどに反応していた。くすぐったくて、ゾクゾクッと全身に鳥肌が立って。本人も知らない″何か″が目覚めそうになるほどの謎の信号伝達に、彼女はただ声を抑えようと必死になることしかできない。


(早く、早く行ってよぉ。こんなの私、変になっちゃう……)


(落ち着け俺。落ち着けぇ!! 目の前に可愛くてちっちゃいおへそとぷにぷにすべすべなお腹があるからって、理性を失うな!! 耐えろォォォ!!!)


 顔とおへそが触れ合うまで、およそ五センチ。それこそが理性との境界線。一度触れてしまえば確実に、夏斗の中の″ケダモノ″が目を覚ましてしまう。


 そんな極限状態を続けること、およそ数十秒。


「じゃ、しばらくしたら戻るから。安静にしててね〜」


 ガチャッ、と扉が開き、閉まる音が聞こえて。夏斗はその瞬間に布団から飛び出て額の汗を拭った。


 えるを見ても、声が漏れ出ていたことから予想はしていたが案の定少し目がトロんとして危険な表情をしている。きっと限界だったのはお互い様ということだろう。


「お、俺そろそろ戻らなきゃ。える……ちゃんと安静にしてろよ?」


「…………はぅ」


 

 これ以上ドギマギしているところを見られないために。そして、なんとか起こさずに耐えた火山がまた起きあがろうとしないために。夏斗は颯爽と、その場を離れたのだった。

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