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24話 先輩、いつでも駆けつけてくれますか?2

24話 先輩、いつでも駆けつけてくれますか?2



 ビシッ。


「いひゃっ!?」


 それは、漏れ出てはいけない本音。それまでは頭を撫でてくれていた優しい手が、突然デコピンになって額に襲いかかる。


「な、何するんで────」


「お前、今何言った?」


 少しだけ、怖い顔をしていた。いつも優しく振る舞ってくれて、表情も豊かな彼からの感じたことのない怒りの感情に、身体が固まる。


「またケガをしたら……? まさか、俺を呼ぶためにもう一度ケガをしようとか、考えたんじゃないよな?」


「っ……そ、そんなこと……」


 図星だった。またこうしたケガをすれば心配してもらえる。甘やかしてもらえる。迷惑になる事を自覚していながらも、確かにそんな考えが頭をよぎってしまっていた。


 だってそれが、一番の近道だと思ったから。少し傷つくだけで構ってもらえるなら……と。


「バカタレ。いいか? 俺は自分で自分を傷つけるなんて、絶対に許さないからな」


「う、ぅ……だって、そうすれば先輩が駆けつけてくれるって……」


「そんなことしなくなって駆けつけるに決まってるだろ。えるが構ってほしい時、呼んでもらえれば俺はいつだってお前のところに行くよ」


「っっ!?」


 それは、夏斗にとって説教のつもりで吐いた言葉だった。えるが抱いたメンヘラ心を読み取り、何としてでも自分を呼ぶためなんかのために傷つくことはしてほしくないと。そう思い、咄嗟に出した言葉。


 確かにその効果は的面だった。いや……効きすぎかもしれないが。


「……ごめん、なさい」


「ん。分かればいいんだよ」


 いつもの優しい顔に戻った夏斗の手のひら。「デコピンなんかしてごめんな」と謝りながら引っ込もうとするそれを、えるは両手で抑える。


 分かっている。授業を抜け出してきただけの夏斗は、そろそろ教室に戻らなければいけない。きっとこのままここに居続ければ怪しまれるし、すぐ近くにいる保健の先生にだって注意されてしまうだろう。


 でも……そんなことは承知の上で、まだ離れたくなかった。自分のためならいつだって駆けつけると言ってくれたこの人に、余計甘えたくなってしまった。


 例えそれが、迷惑な行動だったとしても。


「もう少しだけ……一緒にいてくれませんか? 私まだ、先輩と離れ離れになりたくないです」


「っ……!?」


 心拍数が跳ね上がり、潤いに満ちた瞳が夏斗を掴んで離さない。


 ずっとそばにいて欲しい。それだけが、今の彼女にとっての原動力だった。


「い、一緒にいるのはいいけど。俺、何すれば……」


「それは、ですね。えっと……」


 カチッ、カチッ、カチッ。静かな室内に一定間隔で刻まれ続ける、置き時計の針の音。もじもじと俯きながら言葉を濁らせるえるがいよいよ口を開き、何かを言おうとしたその時。ガタンッ、と大きな音が空間を支配した。


「いっけない夢中になりすぎた! この後呼び出し……って、あれ? そういえば付き添いのあの子、ちゃんと教室帰ってるよね?」


 大きな独り言が、カーテン越しに二人の耳に届く。その瞬間、息があったように顔を合わせたところに千秋の足音が、ゆっくりと近づいてきた。


「ケガしてる子はともかく……もしまだいるなら戻らせなきゃね」


「先輩、隠れてくださいッッ!!」


「え!? おわっ、える!? ふごっ……」


 コツ、コツと徐々に大きくなっていく音。それが限界まで近づきシャッターを開けた時。夏斗は────


(う、そだろ……!?)



 暖かな暗闇に、包まれていた。

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