報告『友人の嫉妬』
平凡な生活の維持は 困難だ。
生活基盤や 健康面だけでなく、 対人関係にも ちっぽけな『しあわせ』は、 おびやかされたり 壊されてしまう。
しあわせな家族
「あらぁ! いらっしゃいダン! 今日もルミちゃんと お留守番かい?」ダンの両親の友人、 串焼き屋台のアンナは ニコニコと、 幼い子ど二人に声をかけた。
(全く! いつもいつも 昼飯を食いに来やがって! 目障りなんだよ!)
アンナと、 ダン達の両親夫婦は 同郷で同い年。 辺鄙な村から 冒険者バーティを組み、 3年程一緒にダンジョンで活動 Cランクまでなった。 大きなケガや、 致命的な高ランクの魔物との接触もなく 順調な冒険者活動をしていた。 アンナは、 16歳で 当時20歳だったBランクパーティーの リーダーに初恋をし、 その後結婚した。 アンナは、 勝ち組だと うぬぼれる程には、 夫のBランク冒険者デビットは 逞しく見栄えも良かった。
祝福されて、 結婚したが 3年間、 アンナには 子どもに恵まれなかった。 まだ20歳前のアンナは、 特に焦ることもなく 夫婦で冒険者を続けていた。 そして4年目に、 ダンの両親パーティーが 装備や貯蓄も潤沢になり、 帝都に拠点を移した時 アンナは、 夫とそのまま田舎に残っていた。
アンナの夫デビットは、 Bランクパーティーのリーダーで その地域では、 最強であった。
稼ぎもよく、 アンナは 冒険者を辞め、 得意だった料理の腕を活かし 小料理店を出す。 地域最強のデビットの妻の店は、 毎日 冒険者で盛況だった。 デビットが、 大怪我をするまでは。 ある時、 オークの上位種が出て 冒険者ギルドから指名依頼され、 デビットがその上位種に 返り討ちにされるまで。 オークの上位種一匹位では、 Bランクパーティーには、 さして脅威ではないのだか、 その上位種は 兄弟3匹でオーク村を築こうといていた。 オークキングの長男と オークメイジの次男、 オークナイトの三男の 連携は、 デビットのパーティーを蹂躪する。 デビットは、 ギリギリで 逃げることが出来たが、 他のパーティーメンバーは 全滅した。 その結果、 デビットは 左側足が不自由になり、 冒険者を辞める。 そして、 不運なパーティーの拠点の アンナの店は忌避されるようになり、 故郷に居づらくなった。
そんなアンナは、 蓄えで 帝都で小料理店を出そうと、 デビットに相談。 二人は、 ひっそりと故郷を出奔(夜逃げ)した。
帝都は、 アンナ達には 冷たかった。 冒険者のタグカードで 入った帝都は、 ただただ広大だった。 暫く、 安宿で暮しながら 小料理屋の店舗を探したが、 アンナ夫婦の貯蓄では 店舗を借りることさえ 出来なかった。
安いアパートを借りて、 屋台を出すのが精一杯だったのだ。 それでも、 デビットが 串焼きを焼き、 アンナが 大皿料理を屋台に並べて、 そこそこ生活は出来るようになった。
アンナ夫婦は、 朝から夜遅くまで 料理の仕込みに追われ、 昼間は つくり笑いで 精神は疲れ果てていた。
屋台は、 天候等に左右され 生活はギリギリで、 貯蓄は底をつき 子どももいないため、 生活に張り合いも無かった。
そんなある日、 屋台の前を ダンの父親のパーティーがたまたま通った。 田舎では、 Cランクで パッとしなかった装備も、 Bランクパーティーに相応しく 見栄えがしていた。
ダンの父親パーティーに、 思わず声をかけたアンナは その時、 自分は 負け組なのだと実感した。 Cランクで 帝都に拠点を移し、 安定して サウスダンジョンでオークを狩った、 元パーティーメンバー達。 レベルも上り それぞれ結婚し、 家庭(子ども)をつくり 充実した生活をしている元パーティーメンバー達。
安いアパート暮らしなアンナ夫婦は、 小さくとも 家を持ち、 Bランクの風格まで纏う冒険者に どうしょうもない嫉妬を重ねていった。
ダンの父親イーサンは、 かわいい長男ダンと 生まれたばかりの娘を抱くラナに、 アンナ夫婦の屋台の話しをした。 ラナは、 アンナをなつかしく思い イーサンの休日に、 程近い広場の屋台を訪ねる。 その時は、 アンナ夫婦も歓待したものの 二人の子どもは、 腹の底から 羨ましく、 妬ましかったのだ。
ソレから、 ラナは 時々 子どもとの散歩がてら、 アンナ夫婦の屋台に 昼ごはんを食べに行く。 行く度々に アンナ夫婦の精神的苦痛の原因になっているとは、 全く気づかないまま。
そんなある日、 イーサンとラナ夫婦が 子ども達を留守番させ、 昼食に来た。 相談が アルという。 ラナが、 イーサンのパーティーに復帰するにあたり、 子どもの昼食を 頼みたいと言うのだ。 サウスダンジョンのオーク刈りは、 二泊三日で行う為 一回の冒険で、 都合3回 昼食がある。 雨降りを除いて、 ダン達に 昼食を食べさせ、 夕食の弁当を持たせて欲しいと話す。
デビットの串焼きの オーク肉は、 再開してからこっち イーサンパーティーのドロップ肉を、 ほぼ帝都の平均価格の半額で仕入れたものだ。 その上、 昼食と夕食の料金は、 半年分 前払いという高条件。
アンナ夫婦は、 揉み手して 引き受ける‥のだが…。
アンナは、 ラナが嫌いだった。 小さい頃から ホンワカ笑顔で、 誰からも好かれるラナ。
アンナは、 自分の方が3つも年上で 美人だと考えていたので、 時々 ラナに意地悪をしていた。 何となく、 癇に障るという 理不尽な理由で。 皆で食べるオヤツの林檎を、 ワザとラナに 青く硬い酸っぱいのを選んで与えたり。 何気なく 足をだしたり、 ワンピースを 引っ張り、 転ばせたりと ずる賢く意地悪をしていた。 しかし、 そんな時は 必ずイーサンが、 自分のオヤツをあげたり 擦りむいたひざ小僧に、 まだ つたないヒールをかけたりするのだ。 全く! 業腹だった。 14歳で、 イーサン達と冒険者パーティーを 立ち上げる時も、 何故かラナもメンバーに入っていた。
アンナは、 速攻で前衛。 イーサンが魔法剣士で前衛。 盾役のロイ。 ハーブエルフで弓士、 後衛のナールラ 光魔法で治療魔法使いラナ。 まだ、 駆け出しの頃から チームワークや、 役割り分担が リーダーイーサンに よく安定して管理された理想的なパーティーだった。
アンナは、 そんなパーティーでも 自分達(Dランクパーティー)より、 Bランクパーティーで 地域で一番強いデビットに入れ込み、 その妻になるため あらゆる努力をした。
ボーっと生きてる、 ラナをバカにし デビットと、 結婚した時は ワザと、 花嫁のブーケは ラナの反対側に投げた。 本来なら 幸せのお裾分けの権利は、 パーティーメンバーの ラナにあったのだが、 アンナのブーケは、 ラナと間逆の方向に飛んで行った。 勿論、 ワザと躓いて 方向を間違えたテイを装った。
ソレでも、 皆と一緒に 拍手していた、 ラナが また冒険者に復活! そして、 自分は授からないラナの子どもの お守り?!
デビットにしても、 元々B級冒険者なのに 今は、 しがない屋台のオヤジであり 安定したパーティー運営をしている、 イーサンを妬ましく考えるのだ。
「そろそろ冬になるなぁ・・・。 冬場は、 左足の古傷が疼いて 全くしようもないもんだ。」10月の終わりに、 デビットが愚痴り出す。 まだ、 30歳前なのに ブヨブヨしている腹の、 とてもBランク冒険者だったとは 考えられないオヤジ面で。
「そうさねぇ…、 ラナ達は 景気よく、 この前 子ども達の食事代を、 一年分前払いしてくれたから 借金はなく、 年は越せそうだけどねぇ…。 冬場は、 屋台は 寒さが身体にこたえるよねぇ。」アンナも 仏頂面で応える。
「帝都の商売が、 こんなにショボい儲けしかでないとはなぁ…。」愚痴はとまらない。
「あんた! 帝都じゃなくて、 辺境都市あたりなら 冒険者も景気よく、 儲けも多いんじゃないかい?!」アンナは、 暫く前から考えていたことを話す。
「そうだよな? 俺達は、 冒険者相手の商売してるんだから 辺境都市が、 一番冒険者が多いだろうなぁ!」
「そうだよ! 辺境都市に行こよ! 今なら、 ラナ達に貰った金貨がある! チャンスだよ!」
「いやいやいや…、 そりゃあ前払いの金だぜ? あいつら、 B級パーティーなんだ。 今じゃ あいつらが強い…。 逃げられねぇ…。」
「逃げるのさ、 あいつらを嵌めてねぇ…。 チャンスは 今しかないんだよ? 一生屋台のオヤジで、 ショボくれて暮らすのかい?」
「そうはいうけどなぁ…、 夜逃げしても すぐ追ってに捕まって、 奴隷堕ちだよぉ…。」
「何気弱な事言ってんだい! アタシにゃ、 いい策があるのさ! ちょいとまっとくれ!」アンナは、 暫く前から コッソリ準備していた、 黒い小瓶を ベットの下から、 取り出した。
「コレを、 あいつら(イーサンのパーティー)の 弁当に仕込むのさ! フフン、 無味無臭の痺れ薬さね! よく効くんだよ!」
「オメェ! そんなコトしたら あいつら、 ダンジョンで おっ死ぬぞ! オレ達 殺人者じゃねぇーかっ!」
「ハンっ! そんなこたぁ、 あいつらが ダンジョンに飲み込まれたら、 誰ーにもわかんないだろーが! ここでヘタれたら、 一生負け組じゃないか! 腹をくくるんだよ!!」アンナは、 もう、 とっくに 良心は捨てていた。
「そうだな! 最後のチャンスたな! よぉーし、 オレは 決断力はあるんだ! ヤル! ヤッテやんよ!!」全くの蛮勇をのたまうデビット。 アンナは、 シメた!と ほくそ笑んだ。
そして、 11月1日 信用しきっているダンの両親パーティーは、 アンナから、 昼の弁当を受けとり サウスダンジョンへ向かう。
「ダンは、 ラナのおかげで いい子に育ってるよなぁ! もう、 安心して ダンジョンに潜れるよ!」イーサンは、 デレた。
「リーダー! 顔! これから魔物討伐するんだから、 ノロけるのは 帰りにして下さいよ!」速攻のヒューが 笑顔で突っ込んだ。
「おおっ! スマン! しかしだなぁ、 親バカながら ダンは、 将来見込みがある!」
「あー…、 ハイハイ。 全く リーダーは、 子どもに甘あまですからねぇー!」
「「「「「 ハハハはっ!(フフ)」」」」」
パーティーの雰囲気も上々、 今回の成果も きっと期待出来る! と確信しているパーティーメンバー達。
ダンジョン入口も、 混むこともなく 顔見知りの衛兵に、 軽く挨拶して進んで行った。
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