第八話 到着
「イツ・キ様!」
「こちらです」
森の一角の少し開けた場所から声が響いた。
イツ・キはその声に導かれるようにして『獣』をけった。
「イツ・キ様。お待ちしておりました」
「ご足労させてしまい、申し訳ございません」
『獣』から降り立った三人を出迎えたのは、『魔物』の報告を最初にした隊のメンバーだ。
「かまいません。その後何かありましたか?」
イツ・キは淡々とした表情で『獣』から降り立った。
「はい。二回ほど目撃しましたがすぐに逃げていきました」
「しかし、だんだんと村の近くに来ているようです」
「…近づけているんですか?」
イツ・キは『獣』の綱を引きながら言った。
イツ・キを迎えに来た二人の表情が凍った。
「申し訳ございません」
「『網』を張ってはいるのですが、いつの間にか通りすぎている様なんです」
「見回りはしていますが、効果はありません」
二人は勢い良く頭を下げつつ言った。
「そうですか…ベキ・ス」
「はい」
イツ・キは同じく『獣』の綱を引いてついて来る二人を振り返った。
「ス・タン」
「はい」
「どちらか『結界』を張れますか?」
「私が…しかし、訓練途中なので完成度はあまり高くありません」
ベキ・スが答えた。
「それでいいです。『網』と『結界』の二重にしましょう。それで穴を無くします」
「はい」
「着いたらすぐに準備に入ります」
「はい」
出迎えた二人に先導され、三人は進んで行った。
『網』とは、ドーム状に特定の範囲を包む網目の物だ。
それは、術者が知りたい感じたい物を感知して、術者に伝えることが出来る。
『結界』は、形状、能力は『網』と同じだが穴は無くより高度な術と言える。
また、『網』『結界』の張り方は何通りもある。
「見えてきました」
道案内の二人が前方を指差しながら言った。
そこには、木で作った柵が続いていた。
「あそこが村の入り口です」
柵の一部が人が三人通れるほど開いていた。
「あの柵に微かに『力』を感じますね…誰かが『保護』の『力』を掛けたのですか?」
イツ・キは歩きながら聞いた。
「流石イツ・キ様です」
「よくお分かりになりましたね。我々はあの柵に触れるまでわかりませんでした」
案内している二人が言った。
「では…?」
「はい。あの柵の『保護』はこの村に最初からありました」
「村人の話によると、ただ行き場の無い者達が集まっていた所に一人の子どもが訪れたそうです」
「その頃、このあたりは頻繁に『魔物』が居たそうで」
「その子どもが、村として正式に国にこの集落を申請することを条件として、あの柵を造ったそうです」
「しかも、それは」
「百年近く前の事だそうです」
二人は交互に話を続けていった。
「そうですか…」
話をしているうちに一行は村の中へと入って行った。
「こちらへ」
村の中心にある家にイツ・キ達は案内された。
「村の方が私達の宿舎として貸してくれた家です」
イツ・キ達は早速『獣』たちを外に繋ぎ、家の中へ入って行った。
家は、村の中で一番大きいものだ。
他の家が一階しか無いのに対して、屋根裏ではあるが二階がある。
部屋数も他の家よりか多い。
「ここは、村長さんの家なんです」
「でも、『魔物』が出て、私達が来て」
「それでここを提供してくれたんです」
「私達、最初の数日はテントを張って柵の近くで寝起きしてたんです」
二人は、イツ・キ達のためにあれこれと世話をしながら説明した。
「村の周りを見張るのにその方が丁度いいし」
「私達は慣れているんですけど…」
「押し切られたのですね?」
二人が黙ってしまうとイツ・キがその先の言葉を紡いだ。
「はい」
「村人総出で荷物を運ばれてしまって…」
「…そうですか」
それっきりイツ・キは言及をしなかった。
「申し遅れました、私達はゾルの小隊に所属しています、ル・ベラーとシア・ロと申します」
『獣』から荷物を降ろし、家の中へ運び入れ終わると、案内していた一人が言った。
「そうですね、こちらもまだ名乗ってはいませんでしたね。初めましてイツ・キと申します」
イツ・キも同じように名を名乗った。
「べキ・スです」
「ス・タンといいます」
二人もイツ・キに習って名を名乗った。
「この度は遠い所来て下さってありがとうございます」
「同時に、申し訳ございません。私達の力不足で…」
そう言うと、ル・ベラーとシア・ロは頭を下げた。
「いいのです。今回、報告書の段階でこれ以上の増援は必要ないと思われたのですが、万が一を思ってここに来たのは私の勝手です。出すぎた真似かも知れませんが、今回はサポートに回りますので私達三人を上手く使いなさい」
イツ・キは淡々と言った。
「いえ…」
「その様なことは…」
二人は答えに窮しそれ以上黙ってしまった。
「しかし、少々口は出しましょう。今までの経過を教えてください」
「はい」
「それではこの一帯の状況と目撃情報、それと『網』のラインを説明します」
二人は地図を取り出し、全ての情報を話した。
「…なるほど、報告書の段階からほとんど何も無いようですね」
二人の話を聞き終えるとイツ・キが言った。
「はい」
「目撃はしておりますが、報告書で書いた以上のことはほとんどおきておりません」
「そうですか…取り合えず『網』に沿って『結界』を張りましょう。ベキ・ス」
「はい」
「準備を」
「はい。わかりました」
そう言うとイツ・キは立ち上がった。
「あなたの『結界』の方法は?」
「はい『等石』です」
「そうですか。では、ル・ベラー、シア・ロ」
「はい」
「ここにいない者はどこにいますか?」
「はい。私達以外は『網』の境界線近くに居るか」
「『網』の中を巡回しております」
「そうですか」




