8話 盗賊相手も酒があれば
旅に出てから3日経ったが、やばい、腹が減った。飯も無いし、村や街も見えない。これは困った事になった。
とにかく、先へ進むしか無い。
「誰か――!」
誰かが叫ぶ声が聞こえる。何があったかは知らないが行くしかない。腹が減ってるから何が出来るか分からないけど。
「どうしたんだ!?」
駆けつけてみると、女性と男性、そして子供、が盗賊に襲われていた。
「金目のものをだせば命だけは助けてやるぞ!」
「やめてくれ!」
どうしよう。助けに行った方がいいよな。でも勝てる気がしない……。
「おい! お前、何をしている!」
ばれた。やばい。逃げられるかなこれ。
「そこのあなた! 助けてくれ!」
嘘だろおい……。
「あ、あのー。嫌がってますし、これくらいで止めるってのは……」
「ああ!? 何言ってやがんだ殺すぞ!」
「ですよねすみません」
「助けてください! お願いします!」
どうしよう、板挟みだ。逃げるに逃げられなくなったし、戦っても勝てる気がしない。酔拳はあるけど、相手は10人は超える。酒を入れないと自信がないなぁ。
「あ、あのー。すみませんが酒持ってません?」
「あ、あるが。そんなものどう使う気だ?」
あるんだ。
「それを俺にくれませんか。そうしたら助けてあげられるかもしれないです」
「よく分からんが、それで助けてくれるんだな!」
そう言うと、男性はワインの瓶をくれた。
「何をしている! 酒を飲むな! 有り金全部だしてればそれでいいんだよ! 早くしやがれ、ぶっ殺されたいのか!」
気にせずワインをラッパ飲みする。すると盗賊が襲いかかってきた。
「よっと。当たらないぞ」
酔いが来たし、盗賊にも勝てる気がしてきた。……このワイン旨いな。それになんだか酒場の酒とは力の出方が違う気がする。
とにかく、やるしか無いな。
「酒も入った! よし、かかってこい!」
なんだあの野郎。俺達盗賊相手に怖じ気づくどころか酒を飲み始めた。クソ、舐めやがって。
「おい! お前らやっちまえ!」
先に部下を戦わせよう。こんな奴、俺の出るものでもない。
「アイ――――!!」
野郎、奇声を上げてふらふらし始めた。でも何でだ? 部下が次々とやられていく。
「何してる! さっさとやらんか!」
クソ。何やってんだ。あんな野郎に負けるなんて許さねぇぞ。
「おっとと。ふぅ。で、お前はやるのか?」
ついに立ってるのは俺だけになっちまった。どうなってんだ。クソが。
「やってやらぁ!」
渾身の一撃を食らわせてやる! へっ、顔面のガードが無い、がら空きだぜ!
「ハイぃ!」
「ぐおぁっ!」
は? いきなり野郎の頭が消えた? そして腹に痛み。殴られた? 何が起きているんだ?
「クソ!」
あたらねぇ。なのに野郎の攻撃は的確に痛いところを突いてくる。クソ、動きが読みづれぇ。
「ハイサ!」
ここでハイキック!? やばいこれはまずっ……
ああ。視界が揺らぐ。意識が遠のいて…………
「ふぅ。何とかなったなぁ。ヒック」
「あ、ありがとうございます!」
ワインをくれた男性が頭を下げて感謝してきた。ワインもらったし、別にいいんだけど。
「いいんですよ。あ、このあたりに街とかありませんか? もう3かくらい何も食べて無くて」
「え? ……ああ。私たちはこれから村へ戻る予定だったんだ。ついて来るか?」
男性がそう言ってきた。めちゃくちゃありがたい。
「じゃあ、お言葉に甘えて。あ、俺はジンて言います」
「私はアラン。こっちは妻のアンス。これは息子のルイ」
「よろしくお願いします」
何はともあれ、村に行けそうだ。よかった、助かった……。
着いた村は小さいが結構繁栄した村だった。
「やっと着いた。は、腹が減った……」
「ここに料理屋は一つしか無いんだが……。そうだ、君が良ければ家でご飯を食べて行かないか? お礼がしたいんだ」
「良いんですか?」
「せっかくだ。村の皆も呼んで宴会をしようか。人数が多い方が楽しいだろ」
「それは良いわ。私、早速皆に伝えてくるわね!」
アンスさんは走っていってしまった。
「では準備が出来るまで私の家でゆっくりすると良い」
俺はお言葉に甘えて休ませてもらうことにした。
宴会は盛り上がった。ここのワインは凄く旨いし、最高だ!
「それで、ジン君が私たちを救ってくれたのだ!」
「へぇ。ジンさんは凄く強いんだねぇ」
「そうとも。しかも酒を飲んで強くなる技を使っているんだ」
「それは見てみたいわ」
おばあさんが俺を見て言った。
「じゃあやって見せますよ」
広いところへ出て、酔拳の型を披露した。今日は酒が良いのか、良い感じに型が上手くできる。
「おおーーーー」
拍手された。なんだろう。いつも飲んだくれと言われて怒られてばっかりだったから、気持ちが良いな。
「凄い技だ! なあ。思ったんだが、ジンさんと、今度返ってくるカムラのとこの息子のエンリ、どっちが強いんだろうな!」
「それは気になるな。是非見てみたい。ジン君。明日エンリが返ってくるんだが、一試合、手合わせしてくれないか」
「え?」
よく分からないが、そのエンリと明日試合をすることになった。