4話 酔拳完成
それから半年間、腕立て伏せ、水を移す修行、カチの実を割る修行、師匠と棒で手をくくりつけ、師匠と同じ動きをする修行、体の細部まで鍛える修行をひたすら繰り返した。
半年も経てば、それらの修行も速くこなせる用にもなる。カチの実も簡単に割れるようになった。
だが半年経っても基礎ばっかりで流石にうんざりする。
そして今日、俺は我慢できずに師匠に聞いた。
「師匠。俺はもう半年も基礎ばかり鍛えています。こんなんじゃ強くなるものもなれないよ」
「ばかいえ。酔拳は他の拳法とは全く違うのだ。基礎を完璧にしなくてはならん。ふむ、だが……」
師匠は少し悩む仕草をして、何かを決めたような表情をする。
「もうそろそろいいだろう」
「それって!」
「明日から本格的に修行に入るぞ」
「いやったぁ!」
「酔拳はほろ酔い加減で行うものだ」
そう言うと、師匠は酒の入った瓶を投げ渡す。
「金は無いのに酒はあるんですね」
「うるさいのぉ。酒を買うから金が無いのだ。良いから飲め、お前の好きな酒だろう?」
「じゃ、遠慮無く。…………うめぇ!!」
その日は寝床の上で、明日からの修行を楽しみにしながら眠った。
次の日、本格的な修行が始まった。
まずは千鳥足の足裁きを体に覚え込ませる。そして基本の型をくりかえし練習する。
練習の最中、師匠がよく言ってた言葉があった。
「よいかジン。昔、八仙という仙人ががおった。そしてその仙人はそれぞれ教えをくださったのだ」
「この仙人は酔いで怪力を得る」
「この仙人は右脚だけで驚異の脚力を持つ」
「この仙人はよろめきつつ、酒瓶を抱えて歩く」
「この仙人は酒を飲みつつ、突如として下段を襲う」
「この仙人は杯を投げ、高速の連続蹴りを行う」
「この仙人は、強力な手で喉をつかむ」
「この仙人は色仕掛けで扇情的な足取り」
「これを忘れる事無く修行に励むのだ」
俺は更に半年間、この修行に励んだ。最初は分からなかったが、段々と師匠の言っていた仙人の教えが分かるようになってきていた。
そして半年後、
「今日も修行に行ってきます」
「あー待て。今日は良い。この金で酒を買ってきてくれ」
「は、はぁ」
師匠に言われ、俺は街に下りた。
半年後の街は、シルビオのパーティーが持ち上げられていた。至る所に張り紙が貼られている。
「なんだこれ。……なんだよ、シルビオのパーティーが魔物を次々倒している、か。俺がいなくなって調子が良いって事かよ。ま、今の俺には関係無いな。もう仲間じゃないし」
特に気にする話しでもないし、さっさと酒を買って修行に戻ろう。
すると、何か騒ぎが起きているのを発見した。
酒場の方だ。俺の目的地でもあるし、見に行って見ることにした。
酒場では、男3人が女性に嫌がらせをしていた。酒場のあれ具合と、店主や店員、そして客の反応を見るに、相当暴れたらしい。
「酷いな……絡まれる前に酒買って帰ろ」
心配になりつつも、酒場の奥へ進んでいく。そこそこの広さがあり、一番奥にカウンターがあるのだ。
「だれだ! また俺の邪魔をしに来たのか?」
例の男に絡まれた。俺が言うのも何だが、酔っ払いに絡まれるのは面倒くさい。
「酒を買いに来ただけだ。って、お前らあのときのカツアゲ野郎じゃないか」
一年前、小屋を抜け出した俺から身ぐるみ全部剥いだ奴らだ。一年経っても全く変わってないんだな。
「カツアゲぇ? 言いがかりはよせ!」
こいつ……! 忘れてやがる!
「忘れたとは言わせないぞ」
「忘れたわ、そんなもの。そうだ、なら今日も身ぐるみ全部置いてってもらうかなぁ!」
男達が歩み寄ってくる。そのとき、一年前の光景と今が重なった様に感じ、無性に腹が立ってきた。
「俺だって前の時から成長したんだ!」
師匠に習った通り、杯を持つように手の形を作り、千鳥足の脚裁きで構える。
「何だぁ? いきなりふらふらしやがって。それで強くなったってか?」
「笑わせんじゃねぇ!」
暴漢の一人が殴りかかってきた。けど俺だって変わったんだ! これくらいなんだって無いぞ!
殴られた。一年前と同じだ。全然避けられないし当たらない。
「何だよ、弱いままじゃねぇか!」
「ま、まずい!」
必死になって逃げた。だが逃げた先は酒場のカウンターの方角、つまり奥だ。逃げ場が無くなった。
「もう逃げらんねぇな。オラ、速く金目の物を置いて失せろ!」
絶対絶命だ。……いや待てよ。ちょうどカウンターに酒が置いてある。そういえば、俺今シラフだ。
「これもらうぞ」
カウンターの酒を一気に飲み干す。急に酔いが回ってきた。
「酒なんか飲みやがって。舐めてんのか!」
何とか立ち上がろうとふんばるが、力が入らなくて自然と千鳥足になる。
「そんな状態でまだやろうってのか。後悔させてやるよ!」
酔拳の構えを取る。
「おっとととと。危ない、脚が絡まって――」
「かかれぃ!」
暴漢達が一斉に飛びかかってきた。
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