3話 過酷な修行
次の日は、水を移し替える修行をしていた。
「右の水を左の樽へ」
「ヨイショォ!」
「左の水を後ろの樽へ」
「よッ!」
今度は、4つ置かれた樽の上で、師匠の言う指示に従って水を移し替える。
「く、苦しいぃぃ。し、師匠、あと何回やるんですか!」
「こんなもので終わるわけが無かろう。さ、文句言わずにやる!」
「ひえぇ……」
何度も何度も水を移し替える。腕にも腰にも、足にも来るからこれがキツイ!
別の日、手の平と手の甲を交互に入れ替えながらの腕立て伏せの修行をしていた。
「ほっほっほっほっほっほっほっ」
「その調子だ。サボらず励むんだぞ」
「わ、分かってますって」
俺が腕立てをしている間、師匠は酒を飲んでいる。……俺も飲みたいなぁ。
「何を見ておる。真面目にやれい!」
「お、押忍……。ほっほっほっほっ」
更に別の日、空気椅子の姿勢を作らされ、頭、肩、太ももに湯の入った器を置かれた。
「姿勢を維持しろ。零すんじゃ無いぞ」
「お、押忍!」
「よし、じゃあこれを6時間」
「6時間!?」
驚いた拍子に、湯を零してしまった。
「熱っちぃ!!」
「零したな。更に2時間追加!」
「嘘だろぉ……」
また更に別の日、柱に逆さの状態でくくりつけられ、下の樽の水を、小さなコップで足にある桶に移す修行だ。
「ひぃ……ひぃ……き、キツイ」
ちらっと師匠の方を見る。師匠、寝てやがる! これはチャンスだ。
頑張って樽のそばに置いてある大きな器を広い、それで水をすくった。
「まだ寝てるな」
数回すくうと、桶は一杯になった。後は疲れたふりをして師匠に報告するだけだ。
「し、師匠。起きてください。終わりましたよ」
「そうか。ならば桶の水を樽に戻せ」
「そ、そんなぁ」
今日は、師匠が木の実を食べている。
「おいジン。このカチの実を割ってくれ」
「分かりました。道具はどこですか?」
「道具? そんなもの使うな」
道具を使うな? カチの実って、めちゃくちゃ硬いから道具を使わないと無理でしょ。
「仕方がないのぉ。こうするんだ」
師匠は、親指の付け根と、人差し指でカチの実を挟み、指の力だけで割ってしまった。
「す、すげぇ」
「ほら。お前も割れぃ」
師匠は二つのカチの実を投げ渡して俺に言ってきた。
「ふん! グググググ! ッハァ……無理だこれ」
「今日からその実を割る修行もやるように」
「出来るのかぁ?」
その日の夜、師匠と俺は晩飯を食べていた。けど、何故か修行を始めた頃から、パンと野菜しか出てこない。
「師匠。肉とか魚が食いたいです」
「仕方が無いだろ。わしも金が無いんだ」
「でも力が出ないですよ」
師匠は少し考える仕草をする。
「仕方ない。明日街へいくか」
「いやったぁ!」
ウキウキしながら、今日は寝て、明日に備えることにした。
次の日、久しぶりの街へ下りた。しばらく俺と師匠しかいない所にいたので、人の騒がしい音が心地よい。
「下りるのは良いが、金が無いから飯も食えんわい」
「そうでした……」
俺と師匠が落ち込んでいた、そのとき、
「誰かあの泥棒を止めて!」
良い着物を着た女性が叫んだ。そして男が何か持って全速力で走ってくる。
「こっちきますよ!」
「仕方が無いのぉ。ほい」
師匠が、泥棒に足を引っかける。
「うおぁ!」
泥棒は勢いよくこけた。
「良いこけっぷりだわい」
「こ、このくそじじいが!」
泥棒は師匠に殴りかかった。
「やれやれ」
師匠は華麗に躱し、手のひらを叩きつけ吹き飛ばす。
「ジンよ見ておれ。これが拳法だ」
師匠は、独特だが無駄の無い足裁きと舞のような体の動きで泥棒を圧倒していく。
パンチを躱し、開いた腹に蹴りを入れる。足払いやハイキック、他にも言い出したら切りが無いが、これらを流れる様に繰り出す姿は美しかった。
「おぉ」
見入っている間に、泥棒が伸びてしまった。
「どうだ。これが拳法だ」
「すごい綺麗な技ですね」
すると、向こうから女性が走ってきた。
「ありがとうございます!」
「いやいや、大丈夫だよ。これくらいはね」
師匠は謙遜して言った。威張らないところ、さすがだなぁ。
「お礼をさせてください!」
「そんな、大丈夫ですよ」
「私の気が済みません!」
「うーん。だったら、飯をおごってくれませんか? お金がないもので」
「分かりました。あ、申し遅れました。私、エリアと申します」
「ラオじゃ」
「ジンです」
こうして、俺と師匠は旨い飯と酒にありつけた。
「旨い!」
「酒も良い!」
「お二方、沢山食べて飲むんですね……」
飯の後、エリアは複雑な表情をしていた。少し遠慮がなさ過ぎたかな……。
「良い飯も食った。明日からしっかり励めよ」
「押忍!」
まさか旨い飯が食えるとは思わなかった。けどこれで明日も頑張れそうだ!