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1話

久しぶりに学生だった頃の夢を見た。

きっと、仕事の帰り道に立ち寄った商店街で同級生に似た店員を見かけたからだろう。

この夢を見るまで浩司のことは記憶から抜け落ちていた。


浩司は学生時代そこまで目立つタイプではなかった。

入学初日、たまたま席が前後だった。何がきっかけだったかは忘れたが

そう日が経たないうちに俺たちは会話をするようになった。

趣味も好きな女のタイプも違ったが一緒に過ごす時間は多かった。

「俺たちソウルメイトだな」なんて恥ずかしいことを言われたことは今でも覚えている。

転機が訪れたのは入学してから6か月のことだった。

親の転勤によって浩司は転校することになった。

悲しみの感情は湧かなかった。

結局、スマートフォンのなかった自分は連絡先を交換できないまま転校の日を迎えた。

いつかまた会えるだろう。そう漠然と考えたまま月日を過ごした。

地元を出て5年、卒業後すぐに働き出した。

卒業式の日、先生は言った。

「立派な大人になれよ」

今の自分は立派な大人になれているのだろうか?

自問自答をしたが答えはもちろんNOだった。

そう...立派な大人になれていないのは自分でも分かっていた。

学生の頃を少し思い出しどこか懐かしい気持ちになった。

久々に会いたいな。その思いからメッセージアプリを開いた。


男が店に入ってきたとき、Aは会話のシミュレーションを行っていた。

久々に会う友人とうまく会話できるか不安だったからだ。

その心配は杞憂に終わった。

「よっひさびさ」

「おう」

空いていた時間はBの変わらない人柄のおかげで一瞬にして埋まった。

他愛もない話やお互いの近況を語り合った。

そんな中、その話は唐突に話された。

「覚えているか?同じクラスだった浩司って」

「覚えているも何も俺と浩司は…」

「お前、成人式の日来てなかっただろ?

その日、学校に集まってタイムカプセルを掘り起こしたんだよ。

そしたらどうなったと思う?」

やけに勿体ぶった言いかたをするBに少し苛立ちを覚えたが

こいつは昔からこうだと思い出し茶番に付き合うことにした。

「それでどうなったんだ?」

「それがさ、卒業前のあの日みんなで20歳の自分に向けて手紙を書いただろ?」

その中に浩司からお前宛に手紙が入っていたんだよ。」

転校したはずの浩司がなぜそんなことをしたのかどうやって手紙を入れたのか

疑問はたくさんあったがとりあえず今は考えないことにした。

「その手紙はいまどこに?」

「担任の真下先生が預かってくれているから今度貰いに行って来いよ。」


積もる話はたくさんあったがAはそろそろ行かなければならなかった。

「じゃあ、また会おう」

冷めて酸味の強くなったコーヒーを胃に流し込み机の上に札を一枚置いて店を出た。



電車の中には数人の男女しかいなかった。

Aは窓側のキャリーバッグを傍に寄せた。

電車に乗り続けて既に二時間が経過していた。


目的地に到着するころには時刻は17:00を過ぎていた。

夏の残暑が薄れてきた9月では日が暮れ始めるのが早くなってきていた。

都会の喧騒はすっかり息を潜めていた。

Bに貰った地図によると目的地はここで間違いないようだった。

閑静な住宅地に似つかわしくない可愛らしい外壁の住宅だった。

表札には【真下】の二文字、間違いはなさそうだ。

玄関のインターフォンに手を伸ばしボタンを押した。

それからAはあることに気が付いた。

ポストの新聞紙が回収されずに溜まったままであることに

応答がないためもう一度インターフォンを鳴らしたがどうやら留守のようだ

Aは後日、出直すことにしてその場を去った。

家を出るときに家の方から視線を感じた気がした。

振り返って二階の窓を見たがカーテンは閉まったままだった。

少しの薄気味悪さを覚えたが帰宅を急いだ。

すでに辺りの日はすっかりと暮れていた。

無駄足になってしまった結果には残念だが仕方が無いと自分を納得させ帰路についた。


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