表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/37

第1話 どうして

 どうしてこうなった。


 少年の視界に広がるのは路地裏の薄汚れた地面。そこに右の頬をべったりと付けて、目の前に紅蓮の炎を纏った、いや炎で形成された短剣を突き立てられている。


 その前に立っているのは彼と同年代に見える少年。表情が乏しく、その双眸には感情の温度が見て取れない。


 背後には銀髪の少女が肩から血を流しながら、壁を背にへたり込んでいた。


 彼女の服は破れ、豊かな双丘を覆い隠す水色の下着が露になっている。しかしそんな状態ながらも歯を食い縛り、仄かな黄緑色の炎を纏う両手をこちらに翳していた。


 それはこの世界における魔法や異能に類するものがもたらす炎だろう。その魔法だか異能だかが引き起こしているのは信じがたい現象であった。


 頬を地面に押しつけている少年の視界の端には、首の無い男の身体が仰向けに横たわっていた。首が無いのだから死体と断定しそうになるが、その身体の腹部は呼吸によって激しく上下している。


 あの首の無い身体が死に絶えないことこそが、銀髪の少女が引き起こしている事象なのだ。


 頬を地面に押しつけながら目を血走らせ、呼吸を荒くする少年は、感情の乏しい少年と銀髪の美少女を恐れるように見上げる。


 異常な事態を前に、少年の鼓動と呼気は激しさを増していくばかりだ。


 そしてそれに呼応するように、仰向けで倒れている首の無い男の腹部が膨張と収縮を繰り返している。


 つまり――


「あ、あ、あぁぁぁ……!!」


 あの身体は少年のものであり、彼は頬を地面に押しつけているのでは無く、首だけで地面を転がっているのだ。


 首を切り飛ばされたにもかかわらず、絶命するどころか血の一滴も流れていない。


 自分の首元は物理的に確認できないが、仰向けに倒れている首から下の断面に黄緑色の炎が薄っすらと灯っている。


 それは銀髪の少女の両手に灯っている炎と同色のもので、何らかの力で延命されているのだろう。

 

 首を切り飛ばされた少年は尋常では無いほどの冷や汗をかきながら、こちらを見下している赤錆色の短髪の少年を見上げて口を開いた。


「どうして……どうしてオレが殺されなきゃならないんだ……!」


 どうしようもない自分に突如訪れた終止符。


 そして気が付けばこれまで自分が生きてきた世界とは異なる世界に飛ばされていた。


 少年はこの現象が、創作物でよくある『異世界転移』というものだとすぐに悟った。


 そして転移してすぐに銀髪の美少女と出会って、これから夢と希望に満ち溢れた冒険の幕が開けるはずだったのだ。


 それなのにどうして。


 自分は首を切り飛ばされて、こんな無惨な姿を晒しているのか。


 そうして少年の思考は過去へと飛んで、事がここに至るまでの経緯を思い返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ