プライド
時計が21時半を指す
22時まで後30分か‥
30分までには何とか仕事が終わりそうであったが
美穂は少し行くのを戸惑った
もし私が歓迎会に行かなければ近藤は残念がるだろうか‥
いや何で来なかったんすか~と軽い口調で喋りかけてくるだけだろうか
待ってますと言われギリギリに到着した私を見て嬉しがるだろうか
それとも俺が言ったから来たんだ
分かりやすい女だなと下に見られるのだろうか
そもそも私はなぜこんな駆け引きみたいな考えが頭を過るのだろうか‥
でも少し楽しい‥
何にも役に立たないであろう駆け引きを頭の中で繰り返してはやめて
繰り返してはやめて
時計は22時前を指していた
やめた
美穂は資料を片付けPCを切り
牧野から事前にラインで送らて来ていた歓迎会の場所を既読スルーしたまま
裕太がいる同棲の家に帰った
別に行きたくなかった訳ではなかった
ただ何となく
近藤に「待ってます」と言われたからって簡単に動く女とは思われたくなかった
何の見栄なのか
何の意味も持たないプライドが美穂を邪魔していた
昔からそうだった
男に負けるのが嫌いだった
仕事は男がして、女は家事。
今はそんな古い時代ではないが専業主婦という人生は
美穂の頭には無かった
仕事も対等に男と張り合って
女だから馬鹿にされたくなくて・・・
そんな事を考えていたら自然と仕事の出来る男が自分の理想になった
例え彼氏でも仕事で対等に張り合える人が良かった
そんな時に合コンで出会ったのが祐太だった
2歳年上で仕事が出来、役職も就いており初めて男性を尊敬できると思った
付き合った当初は忙しい人だと思ったがこんな仕事の出来る男と付き合えたことに勝ち誇った気分でいた
でもその気分は後に低下し仕事が好きな裕太を仕事ばかりの男として見る様になっていた
sexに対しては元々良いとは思わなかったが更に気分が急低下していった
人は付き合いが長くなると
好きな所が嫌になっていく、そして嫌だった部分は更に嫌になっていくもんだと改めて感じた
家に帰ると先に帰っていた
裕太がパソコンで仕事をしていた
「ただいま」
「お帰り、思ったより早かったね」
「うん、ちょっと仕事で手こずって、歓迎会行くのやめてそのまま帰ってきたから」
「そう、せっかくの歓迎会だから顔出せば良かったのに」
裕太に言われてはっとした
私何故顔出さなかったのだろう
何故変に色々考えて行かない選択肢を選んだのだろう
何深読みしているんだろう、
馬鹿なわたし
美穂は洗面所で
うがいをしながら
自分を責めた