他人
会社の近くのラーメン屋で
2人はラーメンをすする
特に喋ることもなく2人は無言で食べる
美穂が半分食べた所で
近藤が食べ終わる
「あっごめん。遅くて」
「良いすよ、ゆっくり食べてください、タバコ吸っていいっすか?」
「あっうん」
美穂は近くにあった灰皿を近藤に渡す
少し薄目で
何か考え事をしているのか
窓の外を見つめながら
近藤はタバコ吸う
口から煙を吹かし
灰皿に灰を落とす
また薄目で窓の外を見ながら
タバコを吸う
近藤が灰皿に灰を落とした時
美穂と目が合う
「何ですか?俺の顔じっと見て、箸とまってますよ」
「あっうん」
「ラーメン冷めますよ」
美穂はとまっていた箸を動かす
元彼にタバコを吸う人は何人かいたが
近藤の姿は何故だか上位を争う程かっこよく見えた
「ご馳走様です」
「こんなの大したことないよ、まあせっかく取った案件だし、頑張って」
「ありがとうございます」
会社に戻り、いつもの席につく
教育担当は任されたものの
席を移動をする時間が無かった為
美穂の右斜が近藤の席になっていた
「企画書、これ私が前作った企画書なんだけどこれ参考にして自分なりに作ってみて、分からない事があったらいつでも聞いてくれて良いから」
「ありがとうございます、参考にします」
「うん」
近藤は美穂から企画書を受け取り直ぐに自分のパソコンで作業を始める
数時間前
2人でプライベートについて話をし
2人でラーメンをすすった事が
まるで無かったかの様に仕事モードに戻る近藤に美穂は少し残念な気持ちになっていた
たかが後輩とましてや結婚していてましてや子持ちの後輩とプライベートについて少し話をし、ラーメンをすすっただけじゃない
それ以上でもそれ以下でもない普通の会社での出来事に少し浮かれた自分に嫌気がさした
その日の帰りの電車に揺られながら
近藤のタバコを吹かす姿を思い出していた
裕太からラインから届く
「今日も遅くなりそう、ご飯先に食べといて」
裕太はタバコを吸わない、そういう所は裕太の好きな所だった
裕太と同棲して1年になる
同棲前のワクワクしていた気持ちはどこにやら
今では同居人といった感じになっていた
期限を決めて一緒に住まないと婚期遅れるわよと亜美に
言われた言葉を今になって身に染みる
裕太に対して何の不満もなかった
結婚を先延ばしにされているのは気づいていたが
いつかはしてくれるだろうという気持ちに甘えていた
不満が無いのだから別れる必要もない
別れてまた新しい男性を見つけるにも体力がいる
それにこの歳で彼氏がいないことを会社に分かるのも嫌だった
世間体を気にする人間が一番と言っていいほど嫌いだがそんな自分になっている事にまた嫌気がさしていた
『生きにくい世の中だ』
巡り巡る悩みの最終的な答えはいつもそれに辿り着いていた