5-16 育ての親に会い、私は次の旅に出る
5-16 育ての親に会い、私は次の旅に出る
翌日、朝食を食べると先生は出かける準備を始め、私とビルはその間に私の育った家に向かう事にした。村の家では朝の作業が終わり、遅めの朝食が始まる頃だろう。
「ヴィーの生まれ育った村ですか。ゆっくり見てみたかったですね」
「よしておきなさい。腕自慢のおじさんたちに、絡まれるのが関の山よ。『冒険者いらずのド=レミ村』って有名なんだから」
義勇兵とか徴兵でもド=レミ村出身の兵士は纏めて運用し、斬り込み隊を編成したりするくらいの吶喊力を発揮するのだという。なので、余所者で腕の立ちそうな冒険者や騎士が喧嘩を売られて延々と付き合わされることも珍しくない。
「遠慮しておきましょう」
「そそ、背後の木立の中から移動するわよ」
いつもの如く、林間を二人で駆け抜け、やがて懐かしい育った家に到着する。心なしか、玄関回りが荒れていて、私の世話をしていた花壇も雑草だらけになっているのは仕方がないかもしれない。二人ともそれなりの年齢だからね。
私は周りに響かないように風魔術を使う。
『静寂』
ビルに頼んで、呼んでもらう。
「おはようございます。オリヴィさんから伝言を預かってきました」
嘘ではない。横に本人はいるけどね。家の奥がドタバタとし、足音が近づいてくる。ドアが開き、中から懐かしい顔が出てくる。
「オ、オリヴィからの伝言だって……オリヴィじゃないか!」
「なんだって……よく……戻ってきてくれた……」
「お久しぶりです父さん、母さん」
二人はワンワンと声を上げて泣き始めた。うん、魔術で音消しておいて良かったよ。
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さあ中へと言われ、私とビルは家に入る。懐かしい、あの日とそう変わらない場所がそこにはあった。私と兄さんの椅子もそのままだ。
「それで、急にどうしたんだい?」
「も、もしかしてその連れの男と……」
イケメン金髪碧眼好男子をみて、そう思うのも無理はありませんよね。
「彼はビルといいます。私の冒険者仲間で、全然そういう関係ではありません。今日は先生に私の村に来た時の経緯を聞きに来ました」
「ああ、そういう事だね。確かにお前を連れてきた女の人は先生が看護していたからね」
二人は、ジーク氏の存在は知らないのだろう。倒れている乳母と私に気が付いて、先生の所に運んだのは父さんだ。
「今どうしてるんだい」
「メイン川の辺りで頑張ってます。トラスブルで先生の友達に面倒を見てもらって、一年位してからメインツを中心に活動するようになったんです」
「そうかい。そんなに遠くもないけれど……近くもないんだね」
普通の人なら十日くらいでしょうか。私たちだと多分二日くらいですね。
「無事で安心した。あの時はすまなかった」
「ごめんなさいねオリヴィ。あの後、やっぱり騎士が来てね……」
先生から聞いた話と同じであり、兄さんとは全く会えないのだという。手紙も本人の筆跡ではないので、生きているのか死んでいるのかもわからないのだという。
「『勇者』の加護持ちはそうそう戦争で使い潰されませんから。今の戦争が終われば戻ってくると思います」
「そうだと良いんだけどね」
「ああ、最近は大砲でドンパチやるって聞いてな。騎士同士の一騎打ちや突撃なら勝てるだろうが、大砲の弾じゃ、加護も関係ないから心配だ」
そうだよね。ブレイブなハートで巨大な石や鉄の弾がはじけるわけないもんね。
「冒険者は危険な仕事だろ? 危ない目に会っていないかい」
毎日がバイオレンスです。でも、そんなことは言えません。
「商人の護衛とか、森の中の密漁者の取り締まりとかの手伝いなので、そんなに危険じゃないです」
「そうかい。猟師の師匠にしごかれて、薬師の先生に教わった事も役に立つんだろうね」
「ああ、オリヴィは器量よしだけじゃなくって、真面目で優しくて賢い……俺達の自慢の娘だからな。どこに出しても恥ずかしくない素晴らしい娘だ」
父さんも母さんも親馬鹿度がアップしていますよ。でも、長くいては後を引きます。
「この後、先生とトラスブルに行く約束になっているんです」
「なに、一晩泊っていけばいいじゃないか」
「ビルさんも一緒に、遠慮しないでいいからさ」
いや、遠慮しますよ。だって、私が家にいるの見られて、王都に通報でもされたら、二人が責められるかもしれないじゃない。二人には内緒で、私を捕まえるように村長あたりに命令しているかもしれないからね。
「兄さんが無事に帰ってくるようなら、会いに来ます。今日は、顔を見に来ただけなので」
「……寂しいね」
「おい、そういう事言うんじゃない。オリヴィだって、好きで村を出たわけじゃないんだぞ」
今となってはどちらが良かったのかわかりません。でも、十五年間育ててくれた感謝の気持ちは、一日たりとも忘れたことはないんだよ。だから……
「私、これでも冒険者として稼げているので、これを預けていきますね。もし、必要だったら、二人で使って貰って構いませんから」
「……これ、全部大銀貨かい……」
金貨十枚では使いにくいと思ったので、大銀貨百枚にしておいたんだよ。
「こ、こんな大金。どうして……」
「ほら、旅のさなかに不用心ですから、信用できる人に預けたいんです。それに、兄さんがいつ帰れるか分からないので、もしもの時のお金として使って貰って構わないので。お二人に……」
二人は黙って俯いてしまった。一瞬、ド=レミ村の生活に戻りたいなって思わないでもなかったけれど、ビータとプルの事もあるし、ここにいれば迷惑も掛かるかも知れない。
なにより、私の母親が吸血鬼とか……マジで勘弁してほしい。あと、その横恋慕した悪い精霊の『原種』も一発ぶん殴らないと気が済まない。銀のナイフで。
「また、顔出しますね。先生にはたまに手紙を出すので、何かあれば、先生に伝言してください」
「そう……そうだね……」
「ああ、いつでも帰っておいで。ここがお前の家なんだからね」
二人とハグして……私が大きくなったのか、二人が小さくなったのかは分らないけれど、大きく温かかった思い出の中の父さん母さんより、ずっと小さく感じたよ。
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後ろは振り向かないのが冒険者。そう、私は冒険者になったんだ。だから、前を向いて歩こう。いつか、また四人で会える日も来ると思う。両親と兄と妹としてならね。
先生の館に戻り、用事は済んだことを伝える。養父母とは再会することを約束してきたことも。
「そう。安心したでしょう、オルドもアマンダも。言葉にできなかったのだろうけれど、あなたを村から出るように諭したのは苦にしていたから」
うん、もういらないって追放されたわけじゃなくって、ド=レミ村にいる事が危険だからって事だよね。
「ヴィーは一応お尋ね者扱いだからな」
「……師匠。私、悪いことしました何か?」
「存在自体が邪魔なんだろうぜ。まあ、失踪したお前の事をバーンも気にしているみたいだから、保護したいという前提で……始末したいのかもしれないしな」
「そこはどうかしらね。王女の侍女として相応の能力のある者なら、召し抱える可能性もあるわね。あの性悪王女なら、バーンと自分がイチャイチャするのをオリヴィに見せつけるくらい考えそうなものよ」
どんだけ性格悪いんだ王国の姫は。私としては別に「兄が幸せそうならいいんじゃないですか?」としか思わないけどね。いや、家族だし、妹でも妻でもどっちでも変わらないから。
「恋愛脳って怖いわよね」
「はは、長生きしているだけあるよな……『おだまり』……へいへい」
先生の前で年齢と恋愛の話はNGのようです。考えたら、自分は長生きで相手は年相応に死んでいくわけだから、長く付き合う相手なら恋愛は難しいのかもしれないね。推定最年長のビルがどうなんだろう。
「ビルは、主が死んだ後ってどうなるの」
「人化せずに剣のまま次の主が現れるまで仮眠ですね。そもそも、女性の主はヴィーが初めてです」
「これからは、私の現身になれるから、いろいろはかどるのかしらね」
「……いや、遠慮しておきます。そういう関係になるのは」
うん、イーフリートと同衾するのは怖いかもしれない。魔銀懐炉で大やけど的な感じで。
私は、旅先で買い揃えた先生が必要そうな素材を忘れずに渡す……という名目で魔法の袋の中の整理をする。いや、ほら、昨日の今日で忙しかったから。
「随分と沢山入るようになったなヴィー」
「そうね。馬車が何台も入っているとか、なかなかいいわね」
先生は更に沢山収納しているのだろうなと思いつつ、何故、部屋が常に散らかっているのかは、あえて聞かないようにしました。




