5-01 囚われ人を救出し、私は『ハベル』のギルドで報告する
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5-01 囚われ人を救出し、私は『ハベル』のギルドで報告する
――― 食人吸血鬼
『ハベル』の冒険者ギルドに報告された新しい魔物。オーガの吸血鬼というハーフ&ハーフ的存在。おかげで、『ラウス』は少し名の知れたパーティーとなる。
翌朝、私たちは捕えられていた数人の人を助け出し、城に収容されていた金銀財宝に死霊の書類、地図や手紙、そして遺留品と思われる衣服や道具などを魔法の袋に回収しその場所を後にした。
本人確認の為に、救出した人間は同行してもらう事にして、水と食料を与え、何度かに分けて川を渡し、徒歩で依頼された街に戻ってきた。
美魔女の姐さんの存在を隠し、私とビルは一先ず『ハベル』の冒険者ギルドに報告を行う事にした。
「調査の報告と……囚われていた人を救出してきましたので、現在街の守備隊で預かってもらって調書作成中です」
「……え……」
この反応は、どこかでいつか見た反応。
「只の傭兵団ではなかったので、ギルマスに直接報告をしたいのですが」
「しょ、少々お待ちください……」
慌てておくの扉に駆け込んでいく受付嬢。奥の方でドタバタと騒いでいるのが見て取れる。
「ヴィー、どの辺りまで話をしますか?」
「オーガまででいいんじゃないかな。吸血鬼は……疑心暗鬼になるでしょ?」
吸血鬼の存在は、人狼や魔女同様、集団ヒステリーを生み出し、孤立している老人や寡婦など弱者を吊るし上げ虐殺する行動につながりかねない。この街は上に頼るべき貴族もいない街なので、そのハードルはかなり低いと見る。
だから、そんな火種を無遠慮にぽいっと投げ込むつもりは全くない。全部事実を告げることが良いとも思えないしね。
「貴方は、弱い者に優しいですからね」
「伊達に、田舎の村で孤児やってないわよ。ほんと、厳しいんだから」
ド=レミ村の人達は育ての両親をはじめ、とても良くしてくれたと思うけど、反面、私の与える利益って考えていたと思うんだ。私が病弱で、魔力もなく、頭も大してよくなくて、狩りも出来ない子だったら……同じようにはして貰えなかっただろうなとは思う。それが当たり前だよね。
だから、そういう人に悪い影響が出ないようにしておきたい。
ギルマスは定番の偉そうな禿げマッチョではなく、商会頭といった雰囲気の年配の男性だった。
「守備隊長から報告も貰っているが、大変助かった。心からお礼を言うよ」
「依頼を達成するのは当然です。冒険者ですから」
「……ふぅ、当たり前の事を当たり前にできる人は、本当に一握りの存在なのだよ。だから、オリヴィ=ラウスは一流の冒険者を名乗るに相応しいと私は思う」
うん、何だかただの良い人みたいだ。冒険者の経験はないけど、引退したこの街の大商会のご隠居さんが有志で引き受けているような気がする。真面目で手堅い商売をしてきたのかなと思う。人柄的に。
「それで、川向こうの古い城に五十人ほどの傭兵が潜んでいました」
「……それで、どうなったのかね……」
「皆殺しにしてきました。貴族領でこの街から兵隊を出すわけにはいかないと思いますし、公爵家を巻込むのも街の負担になると判断しました」
「……証明できるものはあるのかな?」
私は、首をできる限り回収してきたので、『首実検』をさせることもできると説明する。なんなら、晒し首にしても良いのではと提案する。
「……そ、そんなにたくさん首を……」
「魔法の袋に回収してあります。時間経過も遅くなるので、何日かは腐らないと思いますけれど、出来る限り早く出してしまいたいです」
ギルマスは職員を呼び、守備隊に使いを出した。
その後、捕えられていた人の遺留品や冒険者と思わしき人の装備など回収した物がある事を伝える。遺品などは対価を払って親族や友人が引き取るのが普通なのだそうだが、私は他の物で十分回収したので、「対価は不要」であると告げる。
ギルマスは大いに驚き、翻意を勧めるのだが、死人の装備で金を稼ぐというのもあまりいい気持ちはしない。自分で使いたい装備もとくになかったので、もし残ったとしても、ギルドで処分してもらえればいいと伝えた。
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馬車を回収し、半ば埋めておいた腕無し膝下無し魔眼無しの吸血鬼を拾いに戻る。
「もうこの街には立ち寄りたくないわね」
「そうですね。今のギルドの職員が変わるまでは、その方が良いでしょう」
会えば、騒がれるのが面倒だ。首は守備隊に引き渡し、まあ、顔がわかる者も分からない者も全部晒すそうだ。数は……四十三個ありました。
「昇格の打診もありそうですね」
「断るわよ。まだ冒険者になって三年もたたないのに、VIP扱いなんて怖い事受けられないじゃない」
指名され利用され使い捨てられないだけの関係を各所で育ててからじゃないと、超一流なんてなれるわけがない。そもそも、冒険者じゃなくて『冒険商人』が私の将来像だから。冒険者ランクじゃなくて、商人のランクを上げたいんだよね。
吸血鬼に関して、私自身はそれほど詳しいわけではない。先生から学んだ知識の中に断片的にあるもので、基本的には『鬼』の一種という理解でしかない。血を吸う鬼だからね。
「ビルは吸血鬼については詳しい?」
「さほどではありません。あの者たちも同郷ですので、関わり合う事はありました。時に敵対し、時に味方として共闘することもあります。但し、私が精霊として誰かを守る立場であったのに対し、彼らは自身の欲望に忠実でした。人を魅了し、その手駒として何かを行う。時に表に立ち時に黒幕として誰かの背後で、その目的を満たそうとするのです」
つまり、今はサラセンとなっているカナンとかその辺りの内海の東にある国々に現れた者たちの一員というわけか。
「スレイマンの七十二人の従者の中に、それは含まれていたのかしら」
「ええ。何人かはその中に含まれています。人を使役する為には、彼らの能力はとても有効です。魔力が少ないか無い人間は、彼らの魅了に抵抗する術がありません」
オーガ化した時点で、あの傭兵達は多少魔力を纏ったはず。吸血おばさんに従っていたのはその時点では魅了ではないとして、その前段では魅了され、人肉喰いを強要された可能性もある。その辺りも確認したいところだ。
量産されたオーガの傭兵団なんてとてもまともな人間の相手にはならない。悪辣さでは生身の人間も大差ないけどね。
「それで、今回の件は大本まで遡れると思う?」
「数はさほど多くない吸血鬼ですが、今回のように末端で好き勝手やって自滅する者も少なくありません。が、彼らの上位である者たちは、時代の影で世界を動かしている者の傍に潜んでいる事も少なくありません。また、定期的に私と同じように眠りについている者もいますので、存在するすべてが活動中という事もないのです」
ビル曰く、下位の吸血鬼は従者として上位の吸血鬼に奉仕する立場にあるのは、人間社会と変わらないのだという。ところが、主が休眠中の場合、従者が指示されたこと以外の活動を始めることがあるというのだ。
「今回はそれでしょう。もしくは、何らかの指示の準備段階において、拡大解釈をして存在が知られてしまった結果でしょうか」
「確かに、あの数のオーガ、まともに相手をしたら、千以上の兵士が必要だろうしね。兵士も喰われると思えば士気も上がらないから、相当苦戦したでしょうね」
「はい。強引に突破して逃げることも出来たでしょうし、吸血鬼の魅了で同士討ちを始めることもありえました。あの者たちにとっては運が悪かったとしかいいようがありません」
本来なら星四もしくは星五案件だもんね。普通の一流じゃ、抵抗できないだろう。『眞守』なら全滅していたと思う。オーガ一体でも星三案件だしね。それが五十に吸血鬼二体は国が傾くレベルだ。
「あの存在自体は誰かの意図で作られたものだけれど、その行為は預かり知らぬところって事だよね」
「はい。自給自足を命じられて問題の起こりにくい領境の廃城で生活させていたのですから、その場所を選んだ側は配慮があったと思います。オーガたちが拡大解釈し、また同じ場所で活動し続けたため、発覚したということでしょう。本来、吸血鬼が滞在すると不審死が多発するので、定住しないことが多いのです」
定期的に拠点を移動しながら、マンハントするのだという。同じ街で人が行方不明や突然死すれば不審な存在を皆が注目するからだ。
「日光や水、十字架などを忌避する性格ですから、目立ちますしね」
「苦手? 問題ないの、日光を浴びても」
「対策していないと危険なようですね。その女吸血鬼はダメージはありますけれど、自身の魔術で日光に抵抗しているようですし」
「ああ、なるほどね。だから魔術師の吸血鬼なんだね」
魔術で日光を遮断したり弱めるものがある。オーガの吸血鬼の場合、日光が当たる場所では完全に鎧を装着して光を遮断するのだろう。
「普通の村娘や魔術の素養の無い者の場合、やはり日光でダメージを受けますので、病気と称して引籠ったり、晴れの日中は外出しなくなります。貴族や高位の聖職者は日に当たらない場所での活動が多いので、その辺りに潜んでいることも少なくありません」
長生きしていれば知恵も知識も沢山増えるから、その辺りに潜むのは悪くないのかもしれない。でも、何百年か経つと世の中の常識って変わるじゃない? だから、眠っている間にリセットするのかな。
吸血鬼を追いかけるかどうかは、この吸血鬼おばさんを公爵家に引き渡してから応相談だね。




