4-10 バドは困り果て、私は特訓を行う
4-10 バドは困り果て、私は特訓を行う
「壁があって寝床があるってありがてぇんだな……」
「当たり前じゃない。あんた親に甘えすぎ」
「ヴィーの言う通りですね。井の中の蛙大海を知らずというところでしょうか」
「……」
残念庶子のバドは、色々もの知らずであり、尚且つ、加護持ちのくせに加護が発動していないという、謎の駄目スペックである。
そもそも、魔力があっても魔術は何もしなければ使えないのが当然。さらに、母系の『水』の精霊系の加護なのだけれど、あー 単純に言えば周囲に対する感謝の気持ちであるとか、奉仕の精神が欠如していると、精霊も助けてくれない。
――― 『精霊は自ら助くる者を助く』と昔から言うじゃないですか!
私が、ド=レミ村でやっていた村の仲間として受け入れてもらうための奉仕活動って、そのお陰で魔力とか精霊の加護とか強化されていたのかなって思うんだよね。先生は多分、そういう意図で私を導いてくれたんだと思う。
バドッチも、その辺よく弁えて親に感謝し、仲間に感謝し、その助けとなる為に奉仕するって事が大事だよね。冒険者ランクだって、そういう面で評価されるわけじゃない。
腕っぷしが強くても最初の素材採取のような、奉仕活動に近い事をさぼっていると、冒険者にすらなれないんだよね。傭兵って言っても、仕方なく成り行きで入っちゃった人もいるわけで。その中で、奉仕活動を通じて、感謝の気持ちとか、他人に対する思いやりとか人の優しさを思い出して欲しいって言うのはあると思う。
「というわけで、星無冒険者は、素材採取と教会の奉仕活動がいいんだよ。私も最短一ケ月で星一つに昇格したし」
「……まじか……」
「それに、バドは『水』の加護が動いていません。奉仕活動を通じて、洗い物や病人怪我人の傷を洗い癒す事で、水の精霊と交流するようにするべきでしょう」
「あー 確かに、母ちゃんはそういう活動熱心だったなー」
「「母ちゃん……」」
「……お袋とか言えば良いのかよ」
そこは母上だろお前の場合。バド曰く、彼の母親は没落貴族の娘で、既に爵位もなく下働きとして公爵家に奉公していたのだそうだ。そこで、熱心に働き、具合の悪い者たちの分も替わりに仕事を手伝ったのだという。
彼女が介抱すると不思議と回復が早いという事で、評判になっており、ある時落馬をし、大怪我をした当時の公子であった今の公爵の看護を熱心に続け、結果として……内縁の妻のように扱われるようになったのだという。
「あの屋敷で、別棟を与えられているのは『ブレンダンの聖女』って呼ばれているからなんだよ。だから、奥様……正妻も余り厳しい事は言わないし、無下にもしないんだ。領民が黙っていないからな」
そんな素晴らしい母親の子供が……なんでぐれてんだよって話なのだけど、まあ、両親が立派過ぎてってのもあるかもしれない。私からすれば贅沢の極みだけどね。
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さて、バドはゲイン修道会の奉仕依頼を受けるか、修道会の薬草畑の世話をするか、薬草採取の依頼を冒険者ギルドで受けるかの三択人生を過ごす事になっている。星無って、雑用しかないんだよ。最初から高位貴族の肝入りで、聖騎士にもある程度スキップでなったバドは、本当に下積みが無かったらしい。
「文句言う前に、手動かしなさい」
「……分かってるって……」
全然わかっていない男、それがバド。普通は七歳くらいで所謂従卒になって、騎士の世話をしながら知識と経験を得ていく。成人前後で従騎士になって、騎士の助手をしながら鍛錬を続け、数年から十年程でやっと一人前の騎士に任ぜられるのが当たり前だ。
つまり、十代の聖騎士なんてのは、親の七光り以外にあり得ないのだという事が理解できていない。まあ、周りは誰も言わないだろうから、知らないのは当然なのかもしれないが、陰口叩かれれば、理由に思いいたるよね普通。
「……じ、実力が評価されたって思ってたんだよ。まあ、親のコネというのは多少あったと思うけど。これでも、稽古じゃ負け知らずでよ……」
「「……」」
「な、なんだよ」
「気を遣われていたわよね」
「ええ、間違いなく、手を抜いていたと思います」
護衛を引き受けた時の警護の騎士も、襲ってきた黒騎士もバドや仲間のオッサンよりも数段腕は上だった。というか、この男を仲間にした傭兵団はやっぱり安かろう悪かろうだったのか、あの布陣を襲った相手が手練れだったのかは正直判らない。たぶん後者だと思うけど。
「ふざけんな!! じゃあ、ヴィー、お前と勝負させろ。魔術無しだぞ」
「身体強化ありならいいわよ」
「……おう、まあ、女だから当然だな」
いや、多分、素であんたより私の方が力持ちだよ多分。
その日の奉仕活動と薬草の手入れが終わった後、三人で街の外の堡塁のある場所まで移動することにした。今は只の草っぱらだから、立ち会うのにちょうどいい。
「ルールはこっちで決めるわよ。首から下、股から上のみ。致命傷とビルが判断する一撃が入った時点で勝負あり。無制限一本勝負でどう?」
「俺に異議はねぇ。魔術無し、身体強化あり……だな」
剣は木剣にしておいた。当たり所によっては致命傷になるけどリアルに。
「始め!!」
10m程の間合いから、向かい合って剣を構える。私はだらりと下げた剣の構え、バドは右斜め上に剣を掲げている。騎士っぽいと言えば騎士っぽい。
「さあ、来い!!」
掛け声ばかりで、こちらに撃ち込んでくる気がない。
「どうした!!」
「それは、あんたでしょ、さっさと騎士らしく打ちこんで来なさいよ」
ジリジリと前に出て来たバドが、踏み込んで剣を振り下ろす。剣先を躱すと、その剣先を撥ねあげるように切り返す。まあまあだと思う。剣術だけなら星二位のレベルかもしれない。一人前の冒険者……程度だ。
「どうした、手が出ないか!!」
「ねえ、騎士ってそんなに声を掛けながら対峙するの?」
「あり得ませんね。少なくとも私の知る限りは」
いや、だってビル、三百年前の騎士が基準でしょ? それは今と相当違うんじゃないかな。
「ばっ、馬鹿にすんな!!」
「馬鹿にされるな! ってところ……かしら」
身体強化を使わず、自力で瞬間的に相手の懐に入り、柄の部分で鳩尾をぶん殴る。
「ぐえぇっ……」
そのまま、肘で顎をかちあげ、鍔元で首筋を叩く。本当なら、鍔が首に突き刺さり、動脈を傷つける致命傷だ。
「それまで!!」
首を強打されて、気を失ったらしい。聖騎士って意外と柔なんだね。
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暫くして、意識を取り戻したバドは、首筋が腫れている痛みにのた打ち回る。
「い、痛てぇぇぇぇぇ……」
「情けないわね。まあ、自分で加護を使えるようになれば、『水』の精霊の力で癒せるようになるわ。煩いから……ポーション飲んで」
「……いいのかよ……」
「これは自分で作れるの私は。だから、遠慮しないで良いわよ」
コクコクと頷き、ポーションをあおるバド。痛みが引いて、腫れも収まっているようだ。
「あれ、なんだよ」
「戦場の剣、冒険者の剣ですねヴィー」
ビルの解説に私は頷く。そもそも、一瞬で決めなければ、他の敵が自分に襲いかかってくるのが当たり前の前提なのだ。稽古でそれはない。雨の中、雪の中、泥の中で稽古する騎士ってのはかなり珍しい。余程精強な騎士団でなければ、実戦で経験するまでそんなことは経験しない。
まして、聖職者のお供の騎士団に、そんな事は求められていない。護衛と権威付けのために立派な鎧が必要なだけで、剣技は二の次とも言える。
「あんたたちが襲った時、私たち二人で何人相手したと思っているの」
「……二十五人……」
「そう。一瞬で一撃で相手を無力化しなければ、数で押し切られてしまうわ。それに、今のところ、私は身体強化使っていないしね」
「……え……」
バドは私が身体強化を使って勝利したと思っていたらしい。
「ヴィーが身体強化を行い、魔術で剣の硬度を増し、更に足元を拘束したなら、百人でも一人で討伐可能ですから」
「まあね。でも、それはちょっとやりたくないし、虐殺は趣味じゃないから遠慮するわ」
「……冒険者ってそんなに凄いものなのか……」
凄い冒険者ってのは星四以上の実質的に人外扱いの冒険者が該当する。先生とか、師匠とか、姐さんとかだね。私は……どうなんだろう。そこまで考えたことがない。
「国に数人レベルの星四の冒険者は伯爵並みの待遇になると聞いているわ。高位の冒険者はその位、敬意と名誉を受ける存在になるみたい。私はまだまだ修行中よ」
星四とか目だってしょうがない。それに、行商人に支障が出るかもしれないから、そこまで等級を上げるのは駄目だと思うんだよね。




