4-08 バルドは冒険者となり、私はパーティーに加入を躊躇する
4-08 バルドは冒険者となり、私はパーティーに加入を躊躇する
ブレンダンで私の魔法の袋の魚の塩漬けを引き渡し、ちょっぴり小遣いも貰った私たちは、ぼろい馬車に乗るバルドンを馭者にして、私とビルが騎乗でルベックに戻る事になった。
「なんでこんなに乗り心地悪いんだ」
「荷馬車で尚且つぼろいからよ。馬は良い馬に替わってるから行きより全然ましよ」
「……まじか……」
まあ、風魔術で浮かしてたから、私自身の乗り心地は良好でしたが嘘ではない。ブレンダンの街には冒険者ギルドの支部がないため、『ハベル』の街で登録をすることにする。一応、パーティーに加えることにするが、平均値が大きく下がるので勘弁してほしい気もする。場合によっては、外す必要もあるけどね。
ハベルの街の冒険者ギルドはなかなか繁盛しているようである。東方への馬車の護衛など、仕事も多いが危険も多そうな依頼なのだろう。やたらと報酬が多いのはリスクが高いからだと思われる。
「先に言っておくけれど、護衛の仕事、星二つになるまで受けられないからあんたは」
「……そうなのか」
馬車で並んでいれば雑談がてらその話も出来たかもしれないけれど、冒険者としての心得的な物は何も話せていない。登録する時に、受付嬢に説明して貰った方がお互い気が楽だというのもある。
だって、昨日、自分史上最大のけちょんけちょんにされた『女』の話なんて、素直に聞けるわけないじゃんね。
無事冒険者登録終了。これでバルド君も冒険者の仲間入りをしたわけですが、名乗りは『バド』に変更しました。バルドという名前は帝国ではありふれている男子名なんだそうだけれど、顔がね……若い頃の公爵閣下にそっくりなのだそうです。バルドという庶子が存在する事は特に隠されていなかったので、どこかで身バレすると……美味しく攫われちゃうので偽名というか名乗りを変える事にした。
だいたい、私はオリヴィ=ラウスだし、ビルはなんだっけ……偉そうな名前だったよね。
「ヴィルヘルム=シュミットですよヴィ」
そうそう。そんな名前だった。
「バド、行くわよ。馭者として精進なさい」
「……お、おう。俺は……ヴィとビルって呼んでもいいのか」
「ええ、同じパーティの仲間ですから」
「そうか……仲間か……有難いな」
暫定ボッチだったバルドン改めバドは涙腺が緩んでいるようだが、そんなことを考えている暇は有りません。
「最低限の駆け出し冒険者用の装備を買ってあげるわ。まあ、どうせ安物だけど」
「おまけに中古品です」
「……まじか……」
駆け出し冒険者ってのはそんなもんだよね普通。
『ハベル』の街は商人同盟ギルドの加盟都市として、東方への交易路の起点となっていた時代が長く、今でもそれは続いている。つまり……
「武具屋が多いね」
「メインツとはかなり違いますね。どれも、実用的な物が多いです」
メインツもそうだが、コロニアは貴族の特注みたいな装備が多かった。ここは聖征の起点ともなった都市であり、実戦向きの装備が多いのだろうか。
とは言え、欲しいのは、革の胸当てで腹まで覆うタイプ。革の厚手の手袋に片手剣の程度のいい中古品で、総額大銀貨一枚までだと考えている。
「騎士じゃないからね。それに、護衛任務はまだまだ先の話。自衛のための装備だから」
「そうなのか」
「あと、ビルに稽古してもらいなさい。騎士の鎧の性能と馬の突進力を生かした戦い方じゃ、役に立たないからね」
「お、おう……」
という事で、三人は武具屋に入る事にした。
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革鎧は汚損破損も少なく、程度の良い中古品が手に入った。兜は頭の上の部分だけを守る簡素なものを購入、だって、バドが「兜無しは落ち着かねぇ」って煩いから仕方なしだよ。革手袋はいくつか予備を兼ねて購入。血で汚れれば使いにくくなるし、匂いは落ちないから。
「問題は剣だな」
「何でもいいじゃない。どうせ、自衛用なんだから」
私は全然こだわりがない。使い捨て感覚で使える剣の方がいい。折れるし曲がるしよく切れないけど、無理やり叩き込むから。魔力を通さない剣は、たいてい一度で使えなくなる。
バドはどうしてもロングソードのような剣を持ちたがるのだが、騎乗でないとそんな長い剣を帯剣して歩き回る事は出来ない。
「剣の長さは精々70㎝くらい。それ以上は歩くのに不便だからね」
「……ショートソードというわけか」
騎士のロングソードを歩兵用に摺り上げたようなデザインがショートソード。叩きつけるには長さが足らないので、刺突する使い方になる。レイピアも刺突用の剣だけど、これは鎧の継ぎ目や薄い部分を貫くための剣だ。
「軽装の相手をするのに、フルプレート相手にする装備はいらないの」
「なるほど。なら……この辺りか」
ハンガーにワルーン・ソード、バゼラードにカッツバルゲルなどが並ぶ。ハンガーは私が最初使っていて、今でも帯剣していることが多い。殺す時は使わないけど、護身用に使っている。でも、バドにはちょっと柔いんだろうと思う。
叩きつけると斬れずに折れそうだもんね。
「これはどうか?」
護拳のついた片手曲剣。船乗りが船上で使うとされる短めの剣。確か、『カットラス』とかいう剣だ。切っ先の三分の一くらいが両刃であるところが、ハンガーに似ているが、剣身は厚く短くても重そうな作りをしている。叩きつけ、斬り裂く剣だろう。つまり、バド好みの戦いを行うことが出来るのだろう。
「ビル、どう?」
「サラセンでも使われていた曲剣に似ていますね。馬上ですれ違いざまに斬るのには良い剣です。一点に力が加わりにくいので折れにくく、よく切れます」
ビルのお墨付きも貰ったので、その剣を……何本かまとめて買う。
「え、い、いいのか?」
「こんなものは使っているうちに折れるものよ。これは騎士の魂でもなんでもない只の道具。無理して騙しだまし使って、命を落したらあんたの母親に会わせる顔が無くなるじゃない」
物理的には首が無くなるかも知れない。
今日はこの街で一泊するのだが、当然、駆け出し冒険者は……
「馬小屋よね」
「馬小屋ですね」
「……何故だ」
「あんた文無しじゃない? なんで宿屋に只で泊まれると思ってるの」
「聖騎士は教会や聖職者の護衛が多いので野営の経験がないのでしょうね。司祭や司教をその辺で野宿させるわけにもいかないでしょうから」
聖騎士(笑)と煽ると、「どこでも寝れるに決まってんだろ!!」と大声を出すので、頑張れと声をかける。
「甘やかされてるみたいだから、少しは厳しめで行かないと駄目よね」
「騎士は貴族の端っこではありますが、それ以前に戦士ですから。戦場で雨露に濡れて凍えて一人前です」
炎の魔神が言うと、説得力がないね。実に。
翌朝、目の周りに隈をしっかり作ったバドの顔を見て、「お化けでも出たの?」と素知らぬ顔で煽って見たら、また激怒していた。沸点が低すぎるなと思う。
「ねえ、あんた馬鹿でしょ」
「なんだよいきなり」
「弱みを突くのは基本中の基本。公爵様のお膝元でぬくぬく蝶よ花よと育てられてるから、一々カッカ来るのよ。煽られたら、笑いにして返せば『こいつは手強い』ってなる。それを……あんたが出来損ないの半端者だから公爵閣下が頭下げて預けてんでしょ。もう少し、なんでこんな話するか頭使いなさいよね」
ビルは深く頷き、バドに向かってこう告げた。
「そもそも、ヴィーがバドを侮っているなら、無視するか最初の時点で首を刎ねています。多少とも情を見せているうちに、受止めないと見捨てますよ」
「……」
ビルは人生の先輩? 的に物申してくれたようである。
という事で、バドはバドなりに考えたようなのだが、中々うまい返しができないのは、庶子とはいえ公爵家の息子として傅かれて生きてきたからなのだと実に感じ入る。
そりゃ、使用人もいないような貧乏騎士の家に生まれ、必死になって聖騎士を努めている人たちからすれば、甘えた坊ちゃんだもんな。ふざけんな!と私でも思うもの。
という感じで、四日ほどかけてルベックに戻り付いた私たちは、商人ギルドにて依頼達成の報酬を受け取り『黄金蝙蝠商会』の依頼を完了したのだよ。




