4-06 荒んだ騎士は庶子で、私はそいつをぶん殴る
バルドをバルドンと称すのは##ドンという言い回しと掛ていますので変換ミスではありません☆あと、ドン臭いも☆☆
4-06 荒んだ騎士は庶子で、私はそいつをぶん殴る
ブレンダン選帝侯領もしくは公国は、最近、原神子教の伸張著しいという。まあ、教会もお金で罪が償えます的な便利グッズを販売したりしたのが良く無かったんだろうね。
元々世俗君主を兼ねる大司教が多い帝国では、その辺りの宗教者としての腐敗感が甚だしく滲みだしているわけです。大司教は宗教人とは言え、特定の家系出身者でほぼ世襲状態であったりするから誤魔化しようがない。
子供は作るわ、領民を搾取するのは当たり前。その金で司教の地位や選帝侯選挙で自分の有利な人間を買収するわけで、それは大変糞坊主なわけだよね。
結果、搾取される一方の文字も読めない農民はともかく、都市に住む富裕層や貴族の子弟に『聖書と神だけが真実を語る。教会は不要』とする原神子派が増えてきた。さらに、教会内部にも自浄作用が働き、原神子信者が増えているのが現状です。
「顔を上げてくださいラウス殿。この度は、我が身内の者を助けていただき感謝している……と閣下は仰っております」
直答を許される身分になるには星四以上が必要なんだよね。貴族待遇。私は、膝をつき顔を下げながら話を聞いている……わけではなく、ドレスでカーテシー中です。スクワット並みにキツイ。
「直答を許す」
「光栄に存じます閣下」
カーテシーを改め、勧められた椅子に私だけ着座する。ビルはそのまま背後で跪いているのはかわいそうなので、背後の壁際に立つことになった。ここは、公爵閣下の執務室ではなく私室。つまり、私は私的な用事で呼ばれたという事を意味している。
「黄金蝙蝠商会の魚は美味であるので、いつも楽しみにしているのだ」
「商会一同、感謝の極みでございます」
先ずは、表向きの用事から始まる。つまり、俺の為に届ける魚が領内の賊に襲われ奪われそうになったのを守ってくれたお礼だということだろう。領主として賊に襲われたことに責任を痛感しているとの謝罪でもある。言葉の上では謝らないけれど、飲み食いと面談はその礼の内なのだろう。
「あとで、ラウスの持ち込んでいる『より美味い』塩漬けも卸してもらえるのだと聞いている。楽しみである」
魔法の袋で状態保存になっているのを軽く聞いている……ということか。
「光栄ですわ。私どもも、公国と取引させて頂いて感謝しております」
「……そこなのだが……」
言いにくそうに閣下が口を開く。どうやら、あのヤサグレ騎士は閣下の血を引く庶子なのだという。没落した貴族の子女が館の下働きとして働いているのを見染め、愛人としたのだという。
「バルド……君たちを襲った若い男の騎士がそうなのだが、我が子としては認めることはできないが、母子共々配慮してきたつもりなのだ」
バルド君は庶子として大司教座に入り、寄付もバンバンと公爵閣下にして貰い、その中で司祭・司教と出世させるつもりだったのだという。見た目も麗しく幼くして聡明であった彼には恐らくそれが可能だったと考えられていた。
ところが、バルドンは「僕は騎士になりたいです父上」と可愛くおねだりしたらしい。それは、愛する女の産んだ男児。彼の希望を叶える為に、伝手やコネを大いに使い、なんとか大司教座の「聖騎士」となれる道程を定めることが出来たのだという。
「司祭には、バルドのような庶子も少なくないのだが、騎士はそうではない。代々聖騎士の家柄として小なりとは言え守ってきた血脈がある。そこでは、バルドの身分は尊重されず、むしろ嘲られる事になった」
公曰く、騎士としての素養は申し分なく、見目も麗しく、また公にはされないとはいえ、選帝侯の庶子であることから、上からは目を掛けられ、同輩からは妬まれる存在であったという。バルドン臭いはそこで自分の出自を恨むようになったのだという。
「……教会を抜け出して酒場に入り浸り、やがてそこで知り合った悪漢に勧誘されて、傭兵団に力を貸すようになったようだ」
酒場でヤサグレてるバルドンを「お、鴨がいる」と目を付けた奴らに利用されていたというわけだね。今回の黄金蝙蝠商会の荷の件も、バルドン経由で情報を収集していたらしい。勿論、依頼主は不明だけどね。
「それで、お話の用件とは」
「……命を助けてもらった礼と、厚かましいとは思うのだが、バルドの性根を叩きなおしてもらえないだろうか……」
閣下、それは厚かましいです。とは思ったものの、素性が知れたので、私はいいですよと安請け合いしてみる事にした。
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ドレスから、冒険者の装備に着替えることにする。なにせ、これからバルド君の公開処刑を行わなきゃならない。殺すんじゃないよ、見せしめみたいなものです。
「ヴィー、手加減してください。恨みを買うのは得策じゃありません」
「えー そりゃ、甘えん坊のバルドンを完膚なきまでにへし折らないと、話が繋がらないじゃない?」
私は、荒療治をする事に決めていた。
館の中庭。騎士の鍛錬や稽古に使われる事もある広い芝生の上。ここなら、多少、ぶっ飛ばしても死なないかなと思う。治療師とかいるよね選帝侯の屋敷だからさ。
「お待たせしました」
「今、バルドを連れてくる」
両脇を屈強な騎士に囲まれたバルド君が現れる。既に、騎士の鎧を着用。その鎧、この後壊れちゃうんだ。パパ公爵ごめんなさい。
「バルド、お前の罪を問う事は簡単だが、この度はラウス殿に委ねることにした。ラウス殿に勝てば罪は問わぬ。負ければ……お前の生死をラウス殿に委ねることにする」
えっ、ちょ、聞いてないよー!!! なんで睨まれちゃうの私。こんなクソガキの生死を委ねられるって、私ついていない!!!
「はやくやろうぜ、ちびっ子。秒で倒して俺は自由になる」
馬鹿なことを言っているな。実力差も分からないクソガキが。それに、あんたはちっとも自由になれない。
「はっ、パパのお情けで生かされている事も受け入れられないようなガキが、口先だけは一人前ってか!!」
「ギザマぁああ!!!!」
いやほら、真実ほど人を傷つけるんだよ。
「いいから始めろ!!」
「お願いします」
「では、はじめ!!」
えーと、ルールとかないのかな。鍛錬なら、首から下、股から上以外は狙うなと言うはずなんだけど……躊躇せず首狙いか!!
木剣を渡されてはいるが、首に入れば折れるかもしれない。重たい木の木剣であるから、鈍器としては十分致命傷になる。治療師さんいらっしゃい!!
大振りながら、的確に急所を狙う剣筋は悪くない。私は紙一重で躱しながら観察する。
「どうした!! 臆したか!!」
息を切らせる事無く、剣を振り続けるバルドンに、私は少々感心していた。つまり、こいつは捻くれながらも騎士としての鍛錬はきちっとこなしていたのだ。だから、もしかしたら、まともになれるのかもしれないと思う。ちょっとだけね。
私は一撃も受ける事無く、ひたすら躱す事に専念する。バルドンは「戦え」とか「ビビッてんじゃねぇぞ!」などと叫んでいたが、やがて無言になる。
何故なら……
「な、何で寸止めしやがる」
剣を振り下ろす速度が鈍くなり、私は容易に間合いに入ることが出来るようになった。そして振り下ろしを躱し、添えるように木剣を首筋に当てることを繰り返す事にした。心が折れるまで。
必死に振っても当たらず、かわされた後は必殺の寸止め。一度二度ならともかく十、二十、三十と繰り返されていく。やがて息も絶え絶えとなる。動きが止まった所で、剣を持たない左手で顔面を思い切り殴りつける。
バルドンはクルクルと回転しながら地面を二転三転し止まる。騎士の勝負で顔面パンチはあまりないかもしれない。
「ヴィー 戦場では意外と有効ですよ」
ビルがそう呟く。噛みついたり目潰しも普通に有効だ。
「てめぇ。許さねえ!!!」
「そらぁ、こっちのセリフだクソガキ!!!」
風の魔術で増幅させた大音響をバルドンに叩きつける。もう、音だけで吹き飛ぶくらいの大音響です。
再び、後ろ向きに倒れ込むバルドン。
「で、何をどう許さないって。この甘えん坊のクソガキが」
「……てめぇに何がわかるってんだ」
「はぁ、分かるわけないだろ、お前みたいに恵まれた奴に」
「お、おれのどこが恵まれてるってんだ!!!」
いや、世界で五番目くらいには恵まれてると思うよ私。
「あんたが死んでいない理由は、あんたのパパが護ってくれているからだ」
「……そうかよ……」
「私は、孤児なの。それに、育ててもらった村から追い出された。理由は、婚約者が別の高貴な人と結婚するから邪魔になったから。命の危険があるから」
まあ、でも、こんな人生も悪くないと思っているよ、今はね。




