3-06 店主は訝しみ、私は鉱具を買い漁る
3-06 店主は訝しみ、私は鉱具を買い漁る
ツルハシ……ピックとかピッケルとか言うんだけれど、あまり置いていない。どうやら、鏨と金槌で叩いて砕いた鉱石をスコップですくうんだね。ツルハシだと石炭はともかく、鉱石を崩すのは難しいんだってさ。
――― コボルドって、鏨とハンマー握れるんだっけ?
ドワーフほどじゃないけれど鍛冶ができる程度には器用なんだから、多分使えるよね。何なら、命令する!! 理屈は良いからヤレ……どこのブラック企業だ……まあ、この世界全般的にブラックだから問題ない。
ツルハシは見かけたら三本単位でまとめ買い。鏨はあるだけ、金槌もそれなりに応じて買い漁る。モッコの素材になる細かい目の網とか、丈夫そうな鎖も購入。あと、担ぐための棒は……魔術で強制乾燥させるか……風魔術と土魔術で出来そうな気がする。いや、できる。
「どうしたんだい? そんなに沢山鉱具ばかり買って」
「実は、知り合いの村でトンネルを掘るって事で、買い出しを頼まれたんです」
「最近南でも北でもきな臭いからな。この辺じゃないんだね」
「ええ、川を下ってきましたので。戻るのが大変です」
メイン川の更に上流辺りで、小規模な領主たちが騒乱を起こしているらしく、近隣の自由都市を襲っているという噂を聞いているので、寄せてみた。まあ、傭兵と違って村の略奪はしないみたいだけどね。でも、避難場所を作る理由にはなる。
「まとめて送ってやろうか?」
「大丈夫です。隊商に加えてもらう予定なので」
「そうか。今、戦争絡みで鉱具の製作が後回しになっているから、追加はしばらく入らないと思うから必要なら工房に直接注文した方がいい」
「ありがとう。そうします」
コボルドたちがどのくらい熱心に採取するかにもよるが、多分……かなり頑張るだろう。鏨は消耗品だし、ハンマーもそれなりに傷むだろうから、補修なり交換なりは考えなきゃならないよね。
あと、ビアの差し入れとかした方が良いか? あいつら働かなくなる可能性があるから、次に回収する時にご褒美として渡すことにしよう。それが良いな。
因みに、冒険者ギルドには鉱山を探す『山師』と呼ばれる人も所属している。冒険者ギルドが出来上がる前においても、山師は存在していた職業で、バックを背負い山に入り鉱山を探す。その為に、あらゆる場所に自由に入る権利を持ち、武装を許可され、野営・炭を焼く権利も認めれている元祖冒険者なのだ。
自由通行権・居住権・家屋建築権・森林伐採権を鉱脈探しの為に持っている流離人なのだ。
今では、「依頼」という形で山師に冒険者ギルドから特別な指名依頼を行う事で冒険者の中に含まれているのだが、立ち位置は独特のものとなる。山師……いいよね☆ まあ、山野に起居して一人で文字通りの『宝の山』を探し続けるっていうのは、一攫千金狙いなのか人里離れた場所で独居したい
世捨て人なのか定かじゃなけどね。
師匠と狩をしていると、山の中で時折出会う事がある。情報交換したり、食料や塩・酒の手持ちがあれば譲ることもあったかな。一晩、一緒に野営して大いに盛り上がることもあった、私以外の二人でね。
そういう人たちはある意味人間らしい良い人が多かった気がする。ちょっと浮世離れしていた気もするけどね。
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何件かトレモニアの金物屋で鉱具を買い、一旦エッセを経由して魔銀鉱山へと向かうことにする。噂になると面倒なので、長居するのは良くないと思うの。
コボルドたちは人間の鉱山を真似しているのか、それとも人間がコボルドの真似をしているのか、四体で一組を作っている。掘り崩すもの、鉱石を運ぶものが二人組を作り、交代しながらこなしている。道具が揃えば、鏨班とモッコ班で効率的に採取し運ぶことになるんだろうね。
スコップも少しあったけど、数が足りていなさそうなので買い足してみた。それでも十本くらいしかないけれど。ほら、最強の武器ってスコップらしいじゃない?
魔銀鉱山に向かう途中の山の中の開けた場所で一旦休憩する。道具を渡す前に、一通り、魔術で強化しておきたいんだよね。
まずは……鏨とツルハシかな。
「土の精霊ノームよ我働きかけの応え、我の欲する鋭さを与え給え……『尖鋭』
これで、鏨の切っ先の強度と鋭さが改善されたはずです。駄目になった物も残しておいてこの魔術をもう一度掛ければある程度使えるようになるからね。
次は……ハンマーとスコップ……
『堅牢』
堅牢は最近多用しているので、詠唱省略でも問題なくなりつつある。ハンマーとスコップも堅牢度が増したので、耐久性も上がっていると良いな。
数を数えると、鏨は五十ちょっと、ハンマーが十五本、スコップが十三本にピッケルが九本……もう倍は欲しいな……コロニアに行くか……取り合えず。帝国の東の方に鉱山が多いので、そこに向かえば確実に手に入るのだけど、メイン川から離れると、治安がかなり悪いし移動も森の中を徒歩で一人歩くのは……死亡遊戯に限りなく近い。信頼できるパートナーがいないと難しいだろうね。
――― 屍累々になりかねないよ……私の歩いた後……
私を襲おうとして、返り討ちに合うのは当然だしその辺の傭兵崩れの野盗を殺しても「良いことしたんじゃね?」くらいにしか思わないんだけど、面倒じゃない? 誰かに見られたりするとさ。だから、如何にも強そうな従者というか、パートナー……奴隷でもいいな……まあ、見た目が強そうで、実際ある程度強いオッサンとかいると良いと思う。
ビジュアル的にも、私が無双して「このオッサンが強いんです☆」って言い張れる方が楽ちんだし。どっかに落ちてないかな、無双系おっさん……あ、転生者?そういうのは要らないかな。同時代人が良いね。面倒だ。
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良い感じで道具も強化でき、行き掛けの駄賃に大きな猪を仕留めることができたので、血抜きをして川にドボンとして冷やしておく。しばらくしないと美味しく食べられないので、今晩提供することにする。内臓も洗っておけば、モツもコボルドなら食べられるでしょう。
洞窟の入口は遠目には見えにくくなっていて、後は、表面に蔦でも生やしておけばよさげな気がする。悪くないなと思いつつ、コボルドたちに声を掛ける。
『戻ったよ、ヴォルフ呼んできて』
『Woow!!』
どうやら、意思の疎通は出来たようだ。全速力で洞窟に走り去る見張のコボルドの背中を見送りつつ、私は、魔法の袋から買い集め、さらに魔術で強化した鉱具を地面に並べ始める。結構あるんだよねー
『お戻りですかマイ・ロード』
ん? 何だか言葉の発声が良くなってるんじゃないのかなヴォルフよ。
『うん、これ、今回の報酬の一部で近くの街で揃えられるだけ揃えてきた採掘道具。私の魔術で強化してあるから、壊れにくいし良く掘れると思うよ』
ヴォルフを筆頭に、周りのコボルドたちが一斉に膝をつき頭を下げる。
『マイ・ロードから再びこのような品を下賜頂けるとは光栄の極みでございます。我ら一党、さらなる採掘に邁進いたします』
『そ、そうお願いするね。今回は買えるだけ買ったんだけど、まだ数が不足していると思うから、別の街に買いに行くから、時間を貰える?』
感極まった様子のコボルドたち……まあ、犬顔なのでよくわからないんだけど、ヴォルフは毛深い兄ちゃん位に……なんか変わってると思うんだけど。
コボルドたちは新しい道具を手に、ワイワイと騒いでいる。ヴォルフ曰く、この群は約百ほどのコボルドがおり、四匹で一つの班を作り、四交代で各六班が採掘を行っているのだという。一匹のサブ・リーダーに六班二四匹が所属しているのだという。
『実際掘るのは半分の十二匹ですから、この数でも十分間に合うと思います』
という事らしい。まあ、こまめに買い漁るよ。
暫く考え事をしていたヴォルフだが、私に何か話があるらしい。
『マイ・ロード、実はこの鉱山にはその昔、北の入り江の蛮族が隠した財宝がいくらか存在するのです。それを、あなた様に進呈したいのです』
人間の鉱夫には見つけられなかった隠し扉を発見したヴォルフたちは、何らかの役に立つのではと思い大切に保管してきたのだという。
『我々が街に出てその財貨を使う事は叶いません。ですので、マイ・ロードにお使いいただければと思うのです』
また金貨……それとも豪華な宝石とか、装飾品、もしかしたら宝剣とかの可能性もあるかも知れない☆
『ありがとう、その気持ち嬉しい。早速案内してもらえるか』
『YES MY LORD』
私もコボルドも夜目が利くので真っ暗な洞窟をそのまま中に入るのだが、流石に光りゼロでは見えないので(光源が小さくても見えるってだけで、ゼロなら見えないよ☆)小火球を浮かび上がらせると、洞窟の中へと進んで行った。




