3-02 ドワーフに条件を付けられ、私は渋々素材採取に向かう
3-02 ドワーフに条件を付けられ、私は渋々素材採取に向かう
川下に流されること半日、対岸の支流を遡ったところにエッセの街はある。遠目に見てもコンパクトだけれど、立派な城壁と多くの尖塔が見て取れる。家々の屋根は赤い色で統一され、定期市で栄えてきた歴史を感じさせる。まあ、金持つと排他的になるんだろうな……
冒険者証をこれ見よがしに見せ、無料で当然入る……と思ったんだけど……衛士? 門番のあんちゃんに止められました。何故でしょうか。
「おい、何の目的でこの街に来た」
個人的にはオリヴィ専用魔銀剣を製作しにだけれど、依頼だよ。
「……依頼だが……」
頭のてっぺんからつま先までジロリとねめつけるように視線を送り、はッ とばかりに横を向いて怒鳴り始めたよこいつ。
「お前みたいな小僧が依頼を受けるわけないだろ? 冒険者なら無税で入れるからと言って用もなく……」
なんか、勝手決めつけ始まったな……面倒だから帰ろうかな……まあ、このまま流れに身を任せて海まで舟で下ろうかなー
「『鉄脚工房』のダインから魔銀鉱の採取依頼なんだけど、あんたのせいで受けないって冒険者ギルドに伝えるわ。サヨナラ☆」
「ちょ……『ナンダオマエラ!!! 俺の客追い出そうってのか!!!!』
……ひぃぃぃ ダ、ダインさん……」
門番の後ろには、縦より横に広いんじゃないかってほどの歩くブロック肉のようなドワーフが腕を組んで睨みつけていた。ナイスタイミングか?
「おう、ダインだ。お前、ここのところ、いろんなところの領主や貴族からの注文が素材不足で止まって困ってるって聞いてねぇのか!!」
どうやら、待ちきれなくて門で待っていたらしい……ちぇっ、面倒そうなおっさんだわー
「では、ごきげんよう『ちょっと待て、おい、お前ら、ちゃんと謝れ。謝らないなら、市長と衛士長にお前らのせいで商品が納品できずに、税金が納められねぇって言ってやる」
「ひぃぃぃ……ぜ、税金は納めないと……『モノが無きゃ剣も打てねぇだろ!!』す、すみませんでした、冒険者様。どうぞ、お入りください!!」
衛士が全力で頭を下げている……気の毒だとは思わない。たまにはそういう事も必要だよね。排他的な街だというのが良く分かった。
「ダインさん? 次の依頼は直接この街以外のギルドに出してもらえますか?まともに余所の人間と交流できないような街に来るのはこっちも嫌なので、二度とこの街に立ち寄りたくないんです」
「……まあそう言わないでくれ。工房を移すわけにもいかんし、ここは作業環境は最高ナンダ。住人は最高とは言えないがな」
「「「……」」」
住んでる人もそう思ってるんじゃんね。やっぱ。
∬∬∬∬∬∬∬∬
何故か『鉄脚』という名前の工房。水車の力で鞴を使うので、工房は外壁に近い川の流れが利用できる水路の傍にある。防火も兼ねているのかも
知れない。
「すまんな。折角遠いところから来てもらったのに」
「いえ、私も引き受ける前に条件を出させてもらいたいので問題ありません」
「……金以外か……」
「ええ。他の街の鍛冶師には断られたので、ドワーフなら或いはと聞いて、訪ねてきました」
「話を聞こう」
私はベーメンソードを出す。そして、私の魔銀剣を出す。
「こっちの剣は良くある数打ちだが……この『戦士の剣』はいいもんだな」
「『戦士の剣』?」
ダイン曰く、その昔、船に乗って川を遡ってくる蛮族の首領たちが身分を示す為に持っていた剣に良く似ているのだという。
「鉄の剣を持てるってのは、富の象徴、身分を示していたんだ。鉄を丸々使った武器というのは特別な時代だったんだよ」
槍や斧はそれほど良い鉄でなくても用をなすけれど、一本の鉄の棒を剣に仕上げるには、技術も資源も多く必要だった。今でもそうだけどね。鋳物の剣は脆いから、どうしても鍛造の剣になる。斧や槍の穂先も今では鍛造が増えているけれど鋳造の物でも差が出にくい。剣? 簡単に折れる事が多いんじゃないかな。
「それに、魔銀の剣だろ……こりゃ……いや、不用意なことは言えんな。とにかく、こんな剣は大きな城が買えるほどの価値がある。いや、金じゃ買えんな。お前さん、この剣をどうして……とは聞かん。言えぬだろうしな。なるほど、この剣を人目に出すわけにはいかないわな」
ベーメンソードの魔銀剣で、折れず曲がらずよく切れる(ほど魔力が通る)ものが欲しいのだと私は伝える。
「この形か。まあ、よかろう。簡素な作りだが、素材と仕上げにこだわれば、一級の武器になるだろう。任せておけ」
取り合えず、魔銀のベーメンソードを作ることは承知してもらえた。
「ただな、お前さん、そんな剣を使いこなせるのか? どう見ても、剣の腕が立つようには見えないが……いや、侮っているわけじゃないぞ」
では、私の腕前を見てもらいましょうか。ダインは裏の試し切りができる場所まで案内するという。どんとこいだ!!
工房の中庭には、仕上がった剣を試し切りする為の場所がしつらえられていた。先ずは、ベーメンソードでコンディションの最も良い物を試し斬り用に用いる事にした。
「これを斬ってもらえるか」
腕の太さほどの立ち木を斬るように指示されれる。私は、立ち木の前に立ち、右斜め上から斬り落とすように剣を立ち木に振り下ろした。
―――ガッキッ―――ダン―――
斧のようには行かないが、少し無理やりだが斬れた。ちょっと土魔術で剣の周りをコーティングしたけどね。魔銀剣は魔力を纏って斬れるんだけど、普通の鋼の剣だと、断ち切る力を多少鋭くするくらいが限界。え、そりゃ、刃物研ぎ屋さんでもくいっぱぐれはありませんよ。ええ。
「……」
「まだやりますか?」
「……いや、こんな鈍らで良く断ち切れるもんだと感心したんだ」
「魔銀剣なら、そこの鎧の木人を縦に真っ二つにすることもできるけど……」
ダインの親方は「いや充分だ」と言い、素材採取の話を始める。
「この街の前を流れるエム川を渡り、丘に囲まれた窪地に魔銀鉱山の入口がある。今は余り産出されなくなっているが、この街ができた頃はかなりとれたんだ。今でも多分、取りきれていないとは思う。そこから魔銀を採取してできる限り納めてほしい」
「なるほどね。でも、取りに行けない理由があるんでしょ?」
「……わかるか……コボルドの大きな群れが中を占拠している。放置されている間に住み着いちまった」
採掘しやすい場所の魔銀を掘りつくし、後は少しずつ手間をかけて掘り進める必要があるようになったころ、街で疫病が流行し、採掘を行う鉱夫の数も減ってしまい、鍛冶師も魔銀素材を扱わなくなったのだという。
「石炭を使って鋼を作れるようになったんでな。魔力持ち専用の魔銀の剣は需要が減って、街にある在庫で事足りてたんだ。だから、しばらくコボルドが住み着いていることに気が付かなかった」
「今でも、魔銀の需要は変わらないんじゃない?」
「一つは、マスケットの銃身に少量加えることで、銃身の破裂や弾の弾道が安定するという効果が分かったんだ。それとな……これ何だか分かるか?」
光り輝く『鉛』、これは、『水鉛』……モリブデンだね。『魔鉛』ともいう。
「なるほどね、これを鋼に加えて粘りを出したいんだ」
「ほお、水鉛を知っとるか。これも採取したいのだ。魔銀鉱とは少し異なる場所ではあるが、同じ坑道の中にあるはずなのだ」
モリブデンは石英の層に含まれているから、銅鉱石から採取する銀や魔銀とは違う鉱脈になっているのだろう。
「それじゃあ、魔銀と魔鉛の剣を二振り作ってもらえる? 刃は程々に鈍器でも使えるようにしてほしいの。形は魔鉛はベーメンソードで、魔銀はバゼラードのショートソードに仕上げてほしい」
「バゼラード……身に着けていても目立たぬようにか。よし、その条件で剣を作ろう」
普及品に寄せて作る事に頓着無いのは、余程素材不足に困っているのだろうか、それとも、単に気のいいドワーフだからなのだろうか。
話は決まり、値段は「採取した素材の量によっては、現物で構わない」と言われた。そんな沢山採れるのかどうか心配だが、モチベにはなる。
さて、こんな街でウロチョロしていないで、さっさと用事を済ませよう。
コボルドは、ゴブリン同様わりと弱い魔物なんだけど、集団になればかなり強力になる。討伐依頼としては割に合わないし、冒険者自体が少ない街で尚且つ、排他的なことが悪影響して、そのまま放置されていたんだろうね。
まあいいけど、お陰で変な条件の剣でも打ってもらえることになって、私としてはラッキーだからね。何も問題ない。
さて、夜目が利いて、集団で武装して襲ってくるコボルドが沢山いる鉱山で素材採取とか、普通ならお断り案件なんだけど、そこはほら、勇者の元婚約者としては、頑張らないといけないよね。勇者と私、何の関係もないんだけどさ。気持ちの問題で頑張ります。
さーて、鉱山まで移動して、周りを確認してから考えるようにしよう。それに、土魔術と風魔術が坑道内でどの程度使えるかも確認してみないと分からないから、まずはそこからかな。
という感じで、私は街を出たその足で、魔銀鉱山に向かう事にした。




