3-01 舟は川下に流れていき、私は何故か知らない人に知られている
3-01 舟は川下に流れていき、私は何故か知らない人に知られている
今私は一人でコボルドの潜んでいる鉱山の中に素材採取をしにやってきております。え、何でかって言うと、深いわけがあります。だって、エッセの街でオーダーメイドの剣を作ろうと思ったら、バーターで依頼を受けないと作らないって言われちゃったからしょうがないじゃんね。
で・も・ お陰で素材を提供すれば剣は最優先でただで作ってくれることになったから申し分ないかもね。いや、話は遡るんだよ……
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メインツの北門から街を出て、しばらく歩く。当然舟で下るんだよ。面倒だもんね、歩くのはさ。途中で魔物とか傭兵崩れの盗賊が出るでしょうからね。
こっそりマイボートを魔法袋から出し、流れに任せてコロニアへ向かう。出来るだけ最初は真ん中を行こう☆ 関所とかどうなってるんだろうか。
距離は150㎞ほど。トラスブルとメインツが200㎞なので、それほど差が無いのだけれど、ほら、歩かなくていいから楽ちんだよね。1時間に5-10㎞くらい移動できるみたい。流れるだけでいいから、楽ちんだよねー 変な流れに乗ってひっくり返らないようにしないとねー
そして翌日の昼過ぎ、見えてきましたコロニア。一旦、街に入って様子を見る事にしようと思う。ギルドもちょろっとだけ見てね。エッセに向かう依頼とかないもんでしょうかね。
街の手前で岸につけ、上陸。舟を風魔術でサラッと乾かしてから収納。物は大切にしないとね。
冒険者の登録証を提示し只で街の中に入る。コロニアは人口四万、帝国最大の都市。周囲7.5㎞の城壁に12の城塔、52の防衛塔を有し、王国の旧城壁をしのぐ規模を有している。でも、メインツよりは圧倒的に狭いね。ぎゅうぎゅうって感じなのは、街の発展の割に人口が増えすぎているからと、ここには大司教座はあるけれど、大司教はいない。
もう百年以上前に、大司教と街の有力者が対立し武力衝突にまで発展、今では宗教行事が大聖堂であるときに許可取ってコロニアにやってくる。いつもは、大司教領の中にある別の街の城館に住んでいるんだってさ。なにそれ、変な感じ。
やっぱ住むなら、広々メインツかトラスブルかな。猥雑な感じが好きなら、良いけど、私は好きじゃない。
一晩船の上に暮らしたので、さっさと宿で入浴したい。当然、高くても風呂付の宿を選ぶ。出来るだけ冒険者ギルドに近くて、酒場兼業ではないところがいい。
幸い、隠れ家風の宿を発見。さっさとチェックインをし、夕食は部屋だししてもらう事にする。とりあえず、風呂に入って冒険者ギルドへGoだ。
冒険者ギルドはメインツの倍ほどもあろうか。依頼のボードを確認し、エッセへの護衛依頼か荷運びの依頼を探す。こんな時、魔法の袋があるととても便利だね。
「この依頼を受けようかと思うのですが」
「……畏まりました。冒険者証を提示して下さい」
冒険者証を受付嬢に提示すると、カードの内容と私の顔を何度も見比べ、挙句の果てに「ご本人で間違いありませんか」と念を押される。星二つの冒険者証をこんな餓鬼(男装中)が持っていたらそう思うよね。
「はい。メインツで先日オークを十何匹か調査依頼のついでに討伐したりしているので、おかしくないですよね?」
「しょ、少々お待ちください……」
後ろの席の上役らしきおっさんの所まで小走りに去っていく。なに、なんか悪い事してたかな……関所破りじゃないよね。気が付いたら舟が通過していただけだから、オリヴィちっとも悪くない。川の流れが悪い。
戻ってきた受付嬢が、あわあわしつつ謝罪する。
「も、申し訳ございません。有名な『醜鬼殺し』さんが美少女のような少年だとは思っておりませんでした。メインツ支部から街を出られたと各支部に連絡がありまして、特別報奨金が追加で支払われる事になっております。それと……」
「昇格は勘弁してください。勝手にやった事なので、お断りさせて頂きます」
ほら、指名依頼星三つからは来ちゃうから。絶対的にお断りです。なに、残念そうにしてるのかね、押し付けたい依頼でもあるんだろ?
「少々カウンターではお話しにくい事ですので、奥までお願いいたします」
有無を言わさない口調で、受付嬢は私を奥の部屋へといざなった。
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応接室っぽいちょっといい部屋に通され、お茶を用意すると声を掛けられ一人にされる。なんか嫌な予感しかしない。面倒ごとの予感。まあ、穴掘って無かったことにできるんならいいんだけどね。
「お待たせしました。今、サブマスも参りますので、ご説明はサブマスからさせていただきます。先に、追加の報奨金、金貨二枚です。小金貨で二十枚用意してあります。ご確認ください」
流石でかいギルドの受付嬢、気が利いている。金貨とか両替しないと使えないからね。小金貨ならギリ何とかなるレベルです。普通は銀貨と銅貨で生活しているからね。正直ありがたいです。
金貨の数を数え仕舞う用意をしていると、如何にも冒険者上がりという感じ……ではなく、学者のような中年の男性が入ってきた。
「オリヴィさんかな。はじめまして……」
サブマスは『ベルンハルト』と名乗った。指名依頼ではないのだが、単独で交渉できる腕の立つ冒険者を探していたのだという。
「エッセの鍛冶師から素材の採取の依頼を受けていてね。エッセの出張所だと難しいという事で、こちらに話が回ってきたんだ。簡単に言えば、コボルドが占有している魔銀鉱山から魔銀鉱を採取してきてもらいたい。成功すれば、回収できた分だけ成功報酬で比例して上乗せになる。受けてもらえないか?」
待ってました!! と思わないわけではないのだが、依頼主がどんな人間なのか分からない。私の剣のオーダーを最優先してくれるかどうかが受けるかどうかの鍵になる。
ベルンハルトさんに、自分のエッセで依頼したい鍛冶師の用件を伝える。
「魔銀の剣が打てる鍛冶師はドワーフの中でも限られている。素材も今回依頼が来るほど不足しているから、どの道、手ぶらで行っても断られることは明白だろうね。添状を付けるから、口頭で追加条件を提示してもらえれば、あとは君と相手の交渉次第だね」
まあそれはそうだろう。この人は鍛冶師でもなきゃ、鍛冶師ギルドの人でもないのだから、添状を付けてくれるだけでも全然違う。冒険者ギルドとしても、依頼を受けて適切な人間を派遣したが、条件が合わずに依頼は受けられなかったって事なら、責任は相手の依頼主にある。大人って汚い。
「エッセの鍛冶師でダインという名のドワーフが依頼人だ。『鉄脚』って名前の工房の主だ。二三日中に訪ねてもらえるか」
「承知した。添状は明日にでも受付に預けておいて貰えるか。それと、何で私の事を知っているんだ。星二つの冒険者なんて沢山いるだろ?」
答えは……アンヌ姐さんでした!! そらそうか……そうですよねー。
「メイン川沿いの大きな支部のギルド長クラスには皆知られているぞ。タニアとゼッタの弟子で、単独でゴブリンやオークの群れを討伐する新人冒険者とか、有名にならない方がおかしいわ」
「先生と師匠って、冒険者として有名なのか?」
おっと、女言葉で聞きそうになっちまったぜ。あぶねぇ……いや危ないわね。
「ああ、タニアにゼッタ、アンヌと……騎士のジークの四人で星四つのパーティーを組んでいたな。俺たちの世代では有名な勇者パーティーだぞ」
「へ? 誰が勇者なんで……なんでだろ?」
なんでしょうかじゃ、ない!! えー変な顔されてるけど、オリヴィー悪くない。
「ジークとは会った事ないのか? ジークが勇者だったんだ。どっかの貴族の次男とか三男で、加護持ちの勇者だった。実際、鬼神のような強さを持っていたな。勇者ってのは単独じゃなくって、誰かの前に立つときに力を増す加護みたいだから、パーティーの前衛にはもってこいだったんだ」
どうやら、ジーク氏が冒険者を引退するタイミングで解散となったらしい。貴族の息子で勇者の加護持ちなら、今頃どこかで公爵とか王配とかになっているかもしれないわね。兄さんも王女殿下が女王になるなら、王配って可能性も無きにしも非ず。住所不定無職の村娘の冒険者じゃ相手にならないわよね。身を引いて正解だわ☆
折角なので、ギルドお勧めの武具屋も紹介してもらった。宿に戻るついでに、推奨の武具屋とその周りの専門店をいくつか見て回ったんだけど……目がちかちかするような華美な装飾が施してある美麗な剣や鎧が沢山……目の玉飛び出すくらいの値段で売られておりました。
いやー 値段が高い、望むものが無いという話は掛け値が無かったね。なんで、実用品のバゼラードに銀糸の糸で飾った鞘が付いているわけ?柄だってどう考えても銀で象嵌されているし! 血とかで汚れたら滑るんじゃないのでしょうか!!
値段も、バゼラードが小金貨二枚とか……正気ですか? 中古で三本銀貨一枚で買った私からすると……絶対買えない。まあ、武器としての値段ではなく、装飾品としての値段なら理解できます。え、間違いありません。
なにも買わずに宿に戻り、夕食を食べて熟睡。朝ご飯を食べて朝一に冒険者ギルドに向かい、エッセの依頼を受ける旨伝え、依頼書と添状を受け取って一路ドワーフの工房に……今回もこっそり舟で向かうことにした。いやー また半日寝っ転がっているだけだねー




