2-16 ギルマスは報告を聞き、私はプルの服を買う
2-16 ギルマスは報告を聞き、私はプルの服を買う
オークを10体以上単独で討伐したという事で、ギルマスは吹っ飛んで部屋に入ってきた。
「……オークを単独で討伐……お前がか?」
「ええ。首だしましょうかここで」
「ちょ、マテヨ。あー 素材買取の作業スペース空いているか確認してくれ。可能ならそこで出してもらう」
「承知しました。確認してまいります」
受付嬢は再び部屋を出て行った。
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そんなに恨めしそうな顔をしないでほしいんだけれどオークの諸君。
オークと言うのは、『エルフ』の悪霊が憑りついた元人間だったっけ。え、『エルフ』は精霊種なんだけど、肉体を持っているんだよ。島とか深い森の中にエルフだけの社会を形成して住んでいるんだけれど、たまに邪神を信仰している悪魔やその手先に捕まって、拷問の末殺され『悪霊』に魂が変わるらしい。
その『悪霊』を人間に憑依させると『オーク』になるとかなんとかだったと思う。
首実検だね、数えたら……十三個もありました! いやぁ、気持ち悪いわこの首。ほら、受付さん戻しそうだし。
「……なんでこんな数のオークを単独で討伐できたんだ。星二つの冒険者だったなたしか」
「それ以前に、私、狩人で錬金術師ですから。落し穴に落として、毒を打ち込んで動きが鈍ったところで首を落しました。簡単ですよ」
「なるほど。落し穴に落ちてパニックになったところで毒矢を射込んだか。それなら、可能かもしれんな」
嘘です。落し穴は土魔術だし、毒使わずに普通に首ちょんぱしました!!
「だが、常時依頼の報酬で構わないのか。この内容なら、恐らく大司教座から報奨金が出て、ギルドランクも上がると思うぞ」
確かに。どう考えても、オーク十体を無傷で単独討伐は星三つと評価されてもおかしくない。やだよ、私まだ十六歳なんだから。普通の女の子に戻れなくなったらどうするのさ。
「勝手に討伐しただけなので、特にその辺りはこだわりません。常時依頼の報酬と調査依頼達成の評価と報酬さえもらえれば」
「ふふ、欲が無いな。どうだ、ランクを上げてこの街で頑張る気はないか」
いや、私、自分探しの旅をしないといけないのに、更にプルのふるさと探しもしなきゃだから。この街に定住するのは今は無理だ。良い街だと思う。ビータもいるし。
「行商人としてしばらくは帝国を周りたいので、お気持ちだけいただいておきます」
「そうか。もし、気が変わったら俺の権限でランクを一つあげるから、是非、この街で活動してくれ」
「はい。考えさせていただきます」
『少年』には大志があるからね。まだ腰を落ち着ける時間じゃないんだよ。
調査依頼達成の報酬にオークの討伐の報奨を加え、金貨一枚に銀貨四十枚。悪くないと思う日当としては。村なら一年は暮らせる金額だね。現金はあんまり必要ないのが村社会だからね。
因みに、杖の査定は金貨八枚だった。魔力量と発動する魔術が初歩的なものなので余り高い値段は付かないのだという。え、金貨八枚は魔導具としては安いらしい……積極的に集めて行こうか。
私は一先ずギルドを出て、古着屋と布屋に向かう。新しい服を仕立てるのなら、布を買ってきて仕上げた方が簡単だ。一応、手本になりそうな古着も何着か買ってみることにしたんだよ。それと靴か……鞣革を買って、簡単なモカシンタイプのものを作ればいいな。これは、師匠直伝の技がある。
最初に鞣革を買う。履きやすさを重視すると……山羊か羊か。豚は水を通すから駄目だよねー 羊にしておこうか。どうせすぐに小さくなるから多少弱い素材でもいい。さて、古着屋にGo!だ。
宿に戻って最初にプルの様子を確認する。熱もなさそうだし、うなされている感じもしない。病気もなさそうだ。
「……おはよう……」
「あ、起こしちゃった? まだ寝ていて大丈夫だよ。いま、靴を作るから」
「……すごい……」
いや、革を縫う力と縫える針と蝋引きの細い糸さえあれば難しくないよ。靴底には滑り止めのフェルトを縫い付ける。家の中や街歩きならこれで充分だろう。長持ちはしないから、張り替えることもあるけれど、この子の場合、足が大きくなるからそうそう張り替えることもない。
私はチクチクと靴を縫い上げ、プルの足に合わせてみる。サイズ的には問題なさそう。足ちいさー
「どう、履き心地は」
「柔らかい……きもちいい」
「ちょうどいい?」
「ちっと大きい」
まあ、多少は足のむくみを考えて大きめにしておく。革は伸びるけどね。両足分を縫い上げ、紐をしめて歩かせてみる。大丈夫そうだね。
「この靴は柔らかい。いつもはいていた靴は硬かった」
「木の靴?」
「ううん、違う」
布か革の靴なら、革だろうな。この年齢で革の靴をきちんと履かせているということは、裕福な商人じゃなく貴族だろうか。可能性的には高いかもしれない。
古着のワンピースを着せる。丈は少々長めだが、少しすれば丁度良くなる。袖もね。
「気に入った?」
「うん、あったかい」
そうです、襤褸布よりはずっと暖かいのです。見た目? 着心地? そんなものより保温効果が優先だ。まあ、追々着るものは揃えて行こうかと思う。採寸をし、ある程度調整できるようにウエスト辺りにリボン風の紐をつけて体のサイズ多少変わっても調整できるようにして……勿論、襟ぐり深めでノースリーブです。下に着るもので調整できるようにしないとね。
「この布で、新しい服を縫うわ。簡単なデザインだけれど。希望はある?」
「なんでもいい」
「何でもいいか」
「……」
まあそうだな。変なこだわりがある子より、これが良いよって勧められたものを黙ってきてくれる方がいい。その辺り、我儘とか変なこだわりを持たない性格なのであれば、大人も接しやすいだろう。十分に周りから関心を払われていたのかもしれない。
そんな感じで、子供用のストールや頭巾も簡単なものを用意した。
あ……下着も用意しなきゃ、明日はそれもだね!
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翌日、私はプルと一緒に昼間に出かける事にした。朝、ビータが宿にやって来て、「夕食を私の家で食べない? 父が会いたがっているから」というので、プルと二人で伺うことにした。益々、新しいパンツが必要かもしれない。
まずは下着用の布を買う。亜麻で良いものが手に入ると良いんだけれど。一張羅のプルの下着は傷んではいたけれど丁寧な仕上げの良い亜麻素材を使っている。絶対に金持ちの娘だ。だけど、これを自作する自信はないので、簡単なもので許してくれたまえ。
「私、そんなに上手に下着縫えないと思うけど許してね」
「だいじょうぶ。ノーパンもノーもんだいない」
問題あるでしょ、淑女がノーパンはいかんでしょ。いつかプルが実家に戻ることができたとき、うっかり「最初の頃ノーパンだった」とかこぼして私が拘束されて処罰されたらどうするの!!
まあ、いいか、簡単に三角形二つ繋ぎ合わせて横で縛る……
よし、こんなもんだ。イメージできた。
プルと街の中を散策し、屋台で買い食い。メインツは川沿いに商人の街区が並び、中心には大聖堂や宗教関係者の居住区、その外側、城壁に近いところは畑や修道会のスペースとなっている。商業都市ではない故に、都市計画には余裕があると言えば良いのだろうか。トラスブルはあたらしい技術者達が増えた事と、王国が放置し解雇した傭兵団によるアルスへの略奪襲撃のせいで破損した街を再開発して拡張整備したおかげでスッキリしているが、そうでない都市はとても過密で住みにくい場所だとアンヌさんには聞いている。
プルは、草原や畑を眺め、城壁の中でも広々とした場所を二人で歩き、とても楽しげに見える。
「良い街だよね」
「うん、お城みたい」
「住んでた?」
「……たまに行くことがあっただけ……」
おい! たまにお城に行くって、何の用事だよ!!
色々聞き出さなきゃならないことが目白押しだと思いつつも、散歩で疲れる前に宿へと戻る事にした。プルは昼寝、私は……パンツの仮縫いだ。
日が傾くころ、どうやら修道院の帰りらしきビータが宿に迎えに来てくれた。
「お昼寝中かな?」
「……んん……いま起きたところ……」
なんか、デートの待合せみたいなこと言ってる気がする。お呼ばれした私たちはビータに連れられ、彼女の家に向かう事にした。




