2-15 修道院に赴き、私はビータに相談する
2-15 修道院に赴き、私はビータに相談する
修道院で、孤児を拾ったことを伝えると……「街の外の子は預かれない」と担当のシスターに言われてしまった。シスター・エリカには会えず、少々困ったことになっていたのだよ。
「ねえ、ここに住むの?」
「……ダメだった。今のところはね」
「ふーん。そうなんだー」
よく手入れのされた庭を歩き、私は薬草畑に足を向ける。そこにはビータがいると思ったから。この街で相談できる人は彼女くらいしかいないからね。
ビータはいつの間にかストローハットの似合う女になっていた! 農婦には見えないけれど、最初であった頃のオドオドした印象が消えている。まあ、畑仕事をしてオドオドしているのはおかしな人だろうけれど。
「あれ、ヴィーどうしたの? あら、可愛い子連れているじゃない?」
髪をスカーフで隠したプルは、本気で抜けるように色の白い美幼女なのだから、彼女の言葉は間違いない。
「ギルドの調査依頼を受けて行った先で保護したんだけれど、名前も住んでいた場所も分からないんだって」
「もしかして攫われた子なの?」
私は頷く。流石に「しかも、御姫様だよ!」とは言えないけれどね。
「それで、孤児院に預けにきたんだ」
「でも、断られたの。この街の住人の子供ではないからダメだって」
「院長様にも相談した?」
残念ながら院長は不在なのだよビータ。さて、まあ、何日か掛けて説得するなり、里親探しをしてもらうなりしようかと思わないでもない。なに、金はあるんだよ!!
「……あのねヴィー。うちで預かれるかもしれない」
「それはありがたいけれど、大丈夫?」
「相談してみないと分からないけれど、私は……預かってあげたいんだよ」
彼女も成人年齢に達したとはいえ養われている身の上だ、裕福な商人の家だとしても、無駄な食い扶持を養う事は嫌だろう。まあ、金ならあるけどね。
「もし可能なら、お願いしたいわ。多少ならお金も出せるし、ずっとではないの。そうね、三年くらいしてこの子が私と旅に出られる年齢になれば連れに来るわ。勿論、半年くらいに一度は様子を見に来るつもり。あなたにも会いたいし」
「そうだね。それなら……説得しやすいかもしれない。じゃあ、今日帰ったら話してみるから、明日また、ここで会えるかな。午後にでも」
「ありがとう。相談に乗ってもらえただけで助かるわ」
「ふふ、あなたに一つ大きな悩み事を解決してもらったから、これでお相子にできると嬉しいわ」
確かに、あの許嫁の処分とプルのお預かりは釣り合う事案だ。
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プルと一緒に宿に戻る。受付で、子供が一人増えると伝えるが、ベッドの追加がないなら宿泊費はかからないが、食費の分チャージが発生するという事だったので承諾する。
遅めの昼食を部屋で食べようと二人分のランチをお願いする。その間に、プルを風呂に入れ綺麗にする。まあ、小汚いわけだよオークに何日も監禁されていたんだからさ。
「お風呂は入った事ある?」
「……」
頷く。つまり、都市に住んでいたもしくは富裕な村に住んでいた可能性が高い。風呂=パン屋とセット=都市だからだ。え、何で朝風呂はいるかって?普通、公衆浴場はパン焼き窯の余熱で湯を沸かし風呂を提供するのでパン屋に併設されていることが少なくない。焼くのは朝だから、朝風呂が営業されている。
勿論、大人のお風呂も存在するのだが、この子が入るのは朝風呂か……それなりの家の娘であるということだろう。農民や貧民の子ではない。習慣がないから、そういう育ちの場合、風呂を嫌がる傾向がある。そういえば、母親を殺された少年が母親に似た美女と旅に出る話で、主人公が風呂ギライであったのは育ちのせいかもしれない。
風呂から出たプルは一段と肌が白く髪もつややかになっていた。蜜蝋でも塗っているのかってくらい艶々している。私もだけれど。
「きもちよかったー」
「そうだね。毎日はいろうね」
「!!」
毎日入浴で良いようでなによりだ。子供は汗かきなので、出来るだけ風呂に入れたいんだよね。
風呂から出るとちょうど食事の用意が出来たようで、パンとスープとサラダに果物が少々ついた物を出してくれた。
「さあ、食べましょう」
プルはお祈りを捧げ感謝の言葉を述べてから食事を始める。うん、この子やっぱり良い家の子だわ。あんな場所で食事ともいえない食事をしていただろうに、ちっとも卑しくない食べ方ができる。普通は、何も言わずにかぶりつくでしょう?
「美味しい?」
「……」
無言で食事をしながら頷く。食事中会話をしないのが修道院では当然なので、そういうところにいた可能性もある。普通は、会話を楽しみながら食事をするものだ。とはいえ、欠食だったろうから一概には言えない。
「プル、私は食事の後、冒険者ギルドに報告に行かなきゃならないから、ここで待っていてもらう事になるけれど、大丈夫かしら。寝ていてもいいわ」
「……だいじょうぶ……」
「そう。着替えとなにか甘いものを買ってくるわね」
「!!……うん……」
薄汚れた襤褸布を着せれば折角風呂に入って綺麗になったのが無駄になりかねない。今は、私のスカーフを体に巻いてワンピースのようにしている。布を買ってきて簡単に縫ってワンピースにしてもいいだろう。
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食事が終わりプルはすっかり眠くなったようで、ベッドに横になると途端に寝息が聞こえてきた。緊張が解けてホッとしたのだろう。それに、恐らくこうした部屋で過ごすのが当たり前な環境で育ったのだと思う。藁のベッドじゃない!! とか 白パン!! とか普通は騒ぐ。あと、クララが立ったとか?
冒険者ギルドに向かう。報告して依頼達成の報酬貰わないとね。
昼過ぎのギルドは閑散としている。受付嬢に調査依頼の報告をすることにする。
「こんにちは。調査依頼の報告を行いたいんだけど、口頭がいい? それとも書類の方がいいかしら」
「……書式が決まっておりますので、口頭で伺って書類にこちらで仕上げる形になります。では、奥の部屋にお願いします」
それはそうか。同じような形式を踏んで書かないと読みにくいものね。
聞き取り用の取調室みたいなところに通される。なんだ、悪いことしてないよ私!!
「速やかに調査していただきありがとうございました。では、調査の経緯とその結果について順にお話しください」
私は、小舟で対岸に渡り、ヒルフォートの跡に向かったこと。そこには十数体のオークが存在し、うち一体がマジックアイテムを持ち火球の魔術を使えることを伝えた。
「……いったいいつから……どこから……」
「ロングシップが川と村塞跡の中間に隠してあったので、恐らく、それを使って移動してきたように思われます」
「では、急いで討伐依頼を……」
私は「討伐も済ませて来ました」というと、受付嬢は「へ?」と間の抜けた声で聞き返してきた。
「魔術師を含めて十体を越えるオークをあなた一人で討伐したということですか?」
「討伐部位が分からなかったので、全部首を取ってきました」
「……首?」
「ええ、あの醜い顔なら偽首になるような物もいないでしょうから。ここで出すのは躊躇するので、マジックアイテムだけでも確認しますか?」
受付嬢はしばしの硬直から解放されると、「お願いします」と口にする。いいよ、私のお気に入りだ。その魔法の杖はヘッドに赤い宝玉を施した『ワンド』と呼ばれる短めの杖の形をしている。長めのダガーくらいの大きさだろうか。宝玉はウズラの卵ほどの大きさで、魔銀の爪で杖の先端に固定されている。爪がちょっと禍々しい感じがするのは古いデザインだからか、異教徒のものだからかもしれない。色味は綺麗だけどね。
「……これの買取は……」
「査定によりますけれど。自分で使おうかと思います。魔力持ちなので」
「……そうですよね。錬金術師でもあるんでしょうから……いい選択です」
とりあえず、査定だけしてもらうようにした。使い捨ての誰にでも使える魔導具であっても金貨数枚はするので、チャージができるならその数倍はするはずだ。魔導具は高位の冒険者が高値で買いたがる。特に、魔力を持たない戦士系には魅力のある装備なのだそうだ。
「現地の討伐状況の確認を含めて……別の冒険者に依頼を出すので、お時間いただけますか?」
「いや、調査依頼の達成の報酬銀貨十枚と、常時依頼に当たるオークの討伐報酬だけで私は構わないんだけれど。ダメなの?」
受付嬢は、「私の判断では答えられないので上の者に相談するので、時間を少々下さい」と言うと、私に取調室?で待つように指示をし席を立って部屋を出て行った。
この街をもうそろそろ出発してコロニアに行きたいし、あんまり時間を取られるのは面倒なんだけどな……




