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2-11 犯人は現場に戻り、私はゴブリンに出会う

2-11 犯人は現場に戻り、私はゴブリンに出会う


 ゴブリンが、地の精霊ノームに『悪霊』が憑りついたものであるとするならば、地面に悪党を生き埋めにした場合どうなるのだろう。答えは当然……


――― ゴブリンがそこに生まれる




∬∬∬∬∬∬∬∬




 冒険者ギルドでは星一つまでの依頼を受け、星三つに上がらない努力を続けていた私は、近所の村での兎の駆除や薬草採取、そして成果物としてのポーションをギルドに収めつつ、気楽なメインツライフを過ごしていた。


 最近、シスター・エリカの覚えもめでたくなり、本格的にゲイン修道会に参加しないかとお誘いを頂いている。とは言え、私はまだどこかに定住する気はないので、ゲイン修道会に参加するとしても、いろんな街に行きますよと伝えてある。


 



 兎の駆除を行った帰り、ちょうど四人が埋まっている場所の傍を通ることになっていた。時間帯は夕方、そろそろ小鬼たちが活動を開始する時間だ。小鬼たちは闇を好むが、夜ではないと活動できないわけではない。人が視覚を奪われる時間帯の方が、奴らにとって有利だから襲ってくる時間に夜間が多いという事であるだけだと思う。知り合いがいないから、聞いたわけではないけれどね。


 道々、素材を採取しながら進むと、懐かしくもないが記憶にある場所に到着する。周りを見回すと……いた。四匹のゴブリン、そのうち一体が少々大き目の『ホブ』か『ファイター』クラスだろうか。


 はい、転生した婚約者様御一行です。多分、両足ぶった切られた奴が『ホブ』になっているんだろう。恨みが深いし、傭兵としてはそこそこ優秀だったんだろうと思う。婚約者様? 貧弱of貧弱なゴブリンです。


 私は、ヴォージェの使用感を確かめたいので、今回はヴォージェ一本で頑張ってみようと思っている。振り回した感じはビルより重心が先にある分力を叩きつけやすいが、斧寄りのバランスなので取り回しが難しいと思われる……並の力ならね。


 え、私? 誤差範囲だよこんなの。


『Geeee!!』

『Gyaa! Gyaa!!』


 私を発見した小鬼たちが、指をさし何かを言いあっている。なんだか、歓迎ムードではありませんか。よ、久しぶり、元気に復活していたね。ゴブリンの行動は猪・野犬のような行動パターンなので、ネイチャーライフを満喫出来ていたのではないかと思う。蛙丸呑みとかね!!


 三匹の小物が前、大物が一匹後ろ。さて、どう始末をつけようかと考えていると、二匹と大物一匹が囲むように目の前に集まってくる。これは、デジュアビュー?


 今回は木を背後にするつもりは無い。長柄が取り廻せる空間が欲しい。ビルはスピアヘッドが付いていない、引き斬る、引っ掛け倒すことに特化した装備。勿論、武器として進化してスピアヘッドを持つ物もあるけれど、長いし扱いにくいから好きではない。


 グレイブも長剣っぽくて好きだけど、振り回すのは似合わないし、森の中ではそういう戦い方はあまり良くない。頭上や背後の木々にさえぎられて不覚を取る事だって少なくないから。基本は打擲と刺突だ。


 簡単に言えば、殴りつけ痛めつけて動きを鈍らせ、急所に刺突で止めを刺す。『鎚矛(halbert)』はそういう戦い方に向いている。錨爪(Fluke)で引っ掛けて引き倒し、斧刃(Ax Blade)で叩きのめして痛めつけ動けなくなったところを穂先(Spike)の刺突で止めを刺す。

戦場に最も必要な要素が揃っている武器だろう。剣も持ち合わせているが、低い位置でバランスしているんじゃないかな。やっぱり、長さこそ力です。


 さて、この三匹のゴブリンで試したいのは、ビルではできない刺突の性能確認だ。


「さあ、どっからでもかかって来なさい!」

『Gehehehe』

『Gyueeeee!!』

『Gaaaaa!!!!』


 ホブらしき大型ゴブリンが私の腕ほどの丸木を握り込み振り下ろす。左右を挟まれ、回避しづらい。


「なんてね!!」

『Gya!』


 足で思い切り蹴り飛ばしつつ、体重を移動させ体を入れ替える。ゴブリンは数m吹き飛ばされ、丸木は地面に叩きつけられ先端がへし折れる。どうやら、朽ち木に近い物を使ったらしく、破片が飛び散り期せずして目潰しのような効果が発生する。


『Guaaa!!』


 私は、ヴォージェの先端で軽くホブの胸を突いてみる。ザっとばかりに数㎝ほど刺さるが、肋骨に引っかかり奥までは入らない。激しく絶叫するホブから穂先を引き抜き、後方に退く。


「剣の方が骨の間を通しやすいか。でも、痛めつけるならこれも悪くないよね」


 穂先を斜め下に降ろし、膝がしらの辺りに来るように小脇に構える。剣を突き出したほどのリーチはあるだろうか。槍もそうだが、どのあたりの柄の位置を握るかで、大分間合いが変わるのがこの辺りの武器の性格だ。


 力をこめるなら真ん中より後ろを持って振りかぶり、リズムよく攻撃するなら、中ほどを持つ方が良い。バスタードソードの片手持ちと両手持ちの切り替えに近い工夫ができるのが良い。あれって、刺突も斬撃も狙うから、この手の武器と似ているかもしれないね。間合いが違うけど。


 長柄同士の戦いだと、柄を絡めて比較的剣と変わらない間合いでやりあう事も少なくないけれど、魔物相手なら騎士と兵士の戦いと同じで良い。こちらは遠間で一方的に攻撃する。


 距離を取られて自分たちの短い手足や粗末な武器では戦えないと察し、ジリジリとしているゴブリンたち。さっさと終わらせましょうか。


「はい!!」


 下から小鬼の腹に穂先を突き刺し内臓を引っ掻き回す。即死はしないが、内臓が飛び出すので、戦闘力はほぼなくなる。


『Gihyaaaaa!!』


 膝をついて前のめりになる腹を裂かれた小鬼。びくっとするもう一匹と、破れかぶれなのか前に出て来る大小鬼……大きいのか小さいのかはっきりしてもらいたい!!


「物はお試し!」


 ヴォージェを振り上げ、大小鬼の右肩に思い切り叩きつける。斧ほどの切れ味ではないが、数センチほど斧刃が食い込み、痛みで大小鬼が絶叫する。ついでに、石突で硬直している無傷の小鬼の胸を思い切りつくと、鳩尾あたりに命中したのか前のめりにノーモーションで倒れる。意識が途絶えたのかもしれない。


「ホイホイ」


 頭の下がった二匹の小鬼の頭に斧刃を叩き落とし、地面に倒れ動かなくなる。何だか弱い者いじめをしているようで気が引けるのだが、弱肉強食の世界では、常に弱い者いじめが基本だ。正しい事をしている私!!


 ホブと、背後の木の陰に隠れている小鬼一匹……行動パターンが転生しても変わっていないんじゃない? 


 大小鬼は肩が上がらなくなったようで、唸り声を上げ乍ら折れて短くなった丸木を持ち替えこちらを牽制するかのように木の先をこちらに向けている。


 今一つ、私は試してみる事にした。断裂実験!


 構えを脇構えに変え、抜き打ちのようにヴォージェの斧刃を左腕に向け叩きつける。思ったより……バッサリ斬れる! 斧と比べると刃の形が斬り裂きに向いているからだろうが、柄の材質は少々心もとない。


 トネリコ材から、さらに硬質のツゲに変えても良い気がする。折れないが力が逃げているような気がする。あとで武具屋に相談してみる事にしよう。


 左腕が肘の上から切り落とされ絶叫している大小鬼ホブゴブリンが鬱陶しいのだが、もう少し実験に協力してもらおうと思う。振り切ったヴォージェの刃を返し、今度は左側からゴブリンの胴を思い切り薙ぎ払う。


『バァギイイィィ』


 ちぇっ、胴体の半ばまで断ち切れたところで、胴を斬り落とす前に力に耐えきれずに半ばからヴォージェの柄が折れてしまう。残念。


 このまま少し放置して、死ぬまで放置しておく間に、こっそり様子を見ている最後の小鬼(ゴブリンの元婚約者様)の目の前に『疾風』を纏って一瞬で移動する。


『Gya!!』

「はーい、こんにちは、通算二回目の対面。そして、最後だよ!!」


 腰にさしてあるショートソードサイズのバゼラードで頭から股間まで斬り落そうと剣を叩きつけるが……


『Geeee……』

「やっぱ無理か。鋭い分、限界超えると簡単に折れるじゃない」


 頭の半ばまでかち割ったところで、バゼラードは限界を超えたのかバキリと剣の手元から折れてしまった。私が使うのなら、もう少し丈夫なものが良いのだろうが、携行する剣としてはいまいちなので、討伐用に使い出の良い剣を探す事にしようかと思う。





 さて、討伐証明部位を採取し、折れた剣共々地面に穴を開け、二回目の埋葬を行う。今回はしっかり死んでからの埋葬なので、『悪霊』になることは多分ないだろう。安心だ。


 街に戻り冒険者ギルドに向かう。ゴブリンが川下の森の中に現れたこと、討伐証明と、他にはゴブリンが見当たらなかったことを兎駆除の達成報告時に伝える事にした。


「この辺りは戦場も離れていますし、滅多にゴブリンは姿を見せないんですけど」

「そうなんだ。でも、私が気が付いてよかったよね」


 そうですねと受付嬢が話を合わせる。そして、星無依頼のボードには「グラス・ヒュッファー」氏の捜査依頼と情報提供の依頼を見かけたので、「一週間くらい前、川下側の門で門衛が冒険者風の三人と誰かを追いかけて出ていくところを見たと聞いたよ」と伝えると、銀貨五枚を渡してくれた。それは、ゴブリン四匹の討伐よりも銀貨が一枚多かったのだが、まあそれは言うまい。





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