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2-08 街娘は騒がしく、私は嫌な存在を確認する

2-08 街娘は騒がしく、私は嫌な存在を確認する


 街の生活と村の生活は全く異なる。村では、生きていくためにお金はそれほど必要ではない。年貢を現金で納めるように要求されたり、上からの命令でお金が必要なことはあるが、衣食住を基本的に自給自足できるのが『村』の生活なのだ。


 まあ、簡単に言えば、服や靴は専門の職人の作ったものではなく布自体手織りしたりするので、売り物のそれとは全然違う仕上がりになる。ごわごわのチリチリの糸を紡いで織るのだし、布を染めるのだって草木染になるから色味が異なるので一目瞭然なのだ。


 ブリジッタ嬢は修道会で娘を行儀見習いさせる程度に豊かな商人の娘であるから、質素とはいえ職人に織られた布で仕立てたドレスを着ている。村人から見ればお姫様のように見えるだろう。外での作業で日焼けして色が黒くなっていたり、手が荒れている事もないのだから。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 さて、靴を木靴に変えてもらい、布の手袋も用意してもらう。それに、薬草採取用の「スコップ」と、布の袋を持っていく。


「色々道具が必要なのですね」

「勿論、今回は移殖となるので、周りの土ごと根のついた状態で採取することになるのよ。根をきちんと取らないと植えてもすぐに枯れるし、根が素材となる種類もあるからね」


 あまり、距離感の無いような言い回しを心掛ける。友達のいない者同士、言葉遣いにもいろいろ気を遣う。距離感が難しい。


「そんなに丁寧に話さないでよ、友達じゃない」

「いいえ、今日はヴィーが先生ですから、ヴィー先生とお呼びしますね」


 私は『ヴィー』でかまわないといい、彼女は『ビータ』と呼んでほしいというので、ビータと呼ぶことにする。


「ヴィーとビータってなんだか似ている気がする」

「うん、いいじゃん、似た綽名って言うのも悪くないよ」

「えへへ……いやいや、今日はしっかり薬草の採取を教わるんです!!」


 胸の前で小さくガッツポーズをするビータである。ビータンでもいい気がする。誰ですか、欽ちゃんバンドとか言っている人は!





 修道会は一日二食なので、夕方までは食事抜きでも大丈夫。とは言え、飲料は必要なので、革袋に水割りワインを入れちょっとした旅行気分。城壁の外に出たことが無い、木靴を履いたことが無いということで、色々問題が発生しそうです。なので……


「ビータ、ちょっといいかしら」

「へ……なんでしょうか先生」


 北の川沿いの門を通過し、川に沿って下っていく。海は北にあるからね。人目につきにくい道から少し外れた場所に移動する。ここで提案です。


「歩くと二時間くらいかかるんだけどね」

「はい、大変です。急がないと!」

「私の背中に背負われば、多分、十五分くらいでつくよ」

「……え……二時間が十五分って、どんな魔術ですか……」


 実際、風を纏って速度を上げる魔術です。普通に走ってもその位なら出せるけど、それ以上だと馬車より早くなるので危険かと思うのよね。


 私は荷物を全て収納に収めるとビータを背負い、街道から少々奥まった木々の間を目立たないように走り始めた。


「は、速い速い速い速い!!!!」

「舌噛むから黙ってて!」

「……!!!!」


 馬車の馭者台ならともかく、客室にしか乗ったことが無いビータにとって、こんなに風を顔に感じることは無かったのかもしれない。まあ、背中に感じる感触に少々悔しさを感じないでもなかったが、必死に声を上げずに頑張ったおかげで、あっという間に採取の森まで到着する事ができました。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 最初に植え替え用の薬草を見繕う。基本的な物で育てやすい物から選んで幾つか採取するようにする。沢山植えても一遍に駄目になることを考えると、試しながらの方が良い気がするからだ。


「へー 森の中ってこんなになってるんですねー」

「山の中の森と川沿いの平らな森だとかなり違うわね。踏ん張っていないと転がり落ちそうな場所とか斜面の場合あるし」

「楽しくなさそうです……」


 山の中歩くのは平地の数倍疲れるよそりゃ。


「最初に採取から始めようか」

「はい! お願いします!!」


 森に入ると、直射日光を遮りながら林間を抜ける風が爽やかである。渓谷から段丘地帯を抜ける川の中流域にあたるこの場所は、川幅は広いものの、氾濫を起こすほどではない。湿地帯ではなく、川に近い場所とは言え普通の森の中なので薬草も見つけやすい。


「これが傷薬になる薬草ね。わりと簡単に育つので、これは数株とって行くつもり」

「へー 普通に生えてるんだ……ですね!」


 無理しないで良いので、普通に話してほしいもんです。持ってきた素焼きのスコップで大きめにすくい、手のひらほどの布袋に入れていく。本当は木箱にでもきれいに並べたい。そのまま、荷馬車にでも積んで持って帰るのが理想だろう。


「おぼえたら、修道会の子供たちと採取に来るといいです」

「その時は、ダメもとで奉仕依頼出しておくといいと思う。奉仕依頼を受ける冒険者は、資格の維持が目的だから引退して町に住んでいる本業が別にある人が多いから、修道会的にもその方がいいんじゃないかな」


 元冒険者の主婦というのが理想だが、冒険者の奥様を修道会に誘うということも良いと思う。何かのイベントにお礼を兼ねてご夫婦で招待したりだね。バザーとかの交流イベントが良いんじゃない?


「なるほど」

「私もこの街にずっといるわけじゃないから」

「……え……」

「私は行商人になる為の素養を磨くために帝国の大きな街を冒険者として旅している途中だから。この街には何度か足を運ぶけれど、一月くらいで次の街に移動するつもり」

「そ、そんな!!」


 ビータは涙目である。いやいや、取り合えず採取を進めようよ。口を動かす時も手は止めないように。そうそう、葉っぱの広がっている範囲位を丸くスコップを入れて、深さは半径ぐらい入れて。そっと持ち上げて、広げておいた袋にそっとのせて袋の口を持ち上げて縛る。はいできました!


「それと、これを渡しておくね」

「……ナイフ?」

「ううん、片刃で薄い刃のものがナイフ。これは、ダガーだよ。ナイフと剣の中間のものだよ。ナイフは斬るだけなら便利だけれど、削ったりするには刃が弱いからね。こっちを持ち歩いて。硬い土を掘り返すのも使えるから」

「……へ、へー。あ、危なくない?」


 刃物は危ないですよ。研いでいない刃物はとても危険です。無駄な力が入って思わぬ怪我をしますから。


「慣れるしかないと思うよ。刃物は斬る為に存在しているから、そりゃ危険だけど、使いこなさないとね。道具は使いこなしてこそだもの」

「そうだね。私も、冒険者に『ならないで良いけど、野営する時とか、旅先で荷ほどきしたりするのにも使うから。持っていてちょうだい』」

「うん、ありがとう。えへへ、ヴィーからプレゼントされちゃったー」


 いやいや、道具を渡しただけだから。深い意味はないんだからね! 勘違いしないでよね!!




∬∬∬∬∬∬∬∬




 一通り、育てやすい薬草の採取も終わり、次は、実地で素材採取の練習を行っていく。ほら、間違えやすい雑草とか、気を付けないといけない薬草もあるから。かぶれたり、痺れたりだね。


「触ると手が赤く爛れたりする草もあるから、素手で扱わないようにね。それと、薬草には毛虫なんかが付きにくいけれど、森の中には毒虫もいるから、手袋・長袖が基本だよ」

「はい、先生!」

「ほら、そこに毛虫が……」

「ひ、ひいぃぃぃぃ!!」


 毛虫どころか、蛞蝓も蛙も蛇もいますよこの辺りは。触っても気持ち悪いだけかもしれないけれど。さて、ここでウロウロしている二人をちょっと離れたところからこちらを観察している男が三人と一人存在する。ビータは気が付いていないが、私はしばらく前から気が付いている。


 街を出る時点で尾行していると思われる革鎧を着た如何にもなおっさん三人組と、一緒に何か話している遊び人風の男が一人。貴族の子弟ではないと思われるが商人の息子としては派手な装い。所謂小金持ちの馬鹿息子としか思えない。街道を外れて走った理由の一つ。


 もしかすると、ビータを攫おうと狙っているのかもしれない。それなりの商家の娘が若いほそっこい男と街の外に出てきたのだから、しめしめとでも思っているのだろう。




 頃合いと思ったのか、三人組は私たちに近づいてきた。


「お二人さん、何だか楽しそうだね。俺たちも仲間に入れてくれよ!!」


 おう、薬草採取が楽しそうに見えるんなら、いくらでも参加してくれよ。一応冒険者なんだろ? 山賊か落ち延びた傭兵にしか見えないけどね。


 さて、こいつら、どう始末してやろうかと私は考えている。





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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


― 新着の感想 ―
目撃者の存在しない森 不埒な輩と遭遇した場合、敵が油断しているうちに、いきなりバッサリ殺るのが正しいんでしょうね 攻撃は最大の防御ですから
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