19 受付嬢は昇格を祝い、私は街中の依頼を受けたい
19 受付嬢は昇格を祝い、私は街中の依頼を受けたい
いま、冒険者ギルドではとある新人の話題で持ち切りである。
曰く、『登録から僅か一月で星二つの冒険者になった』
曰く、『たった一人で大規模なゴブリンの群れを追跡し、その巣穴を見つける』
曰く、『一流冒険者パーティーと組んでも全く臆せず、むしろ主導権を握った』
曰く、『土魔法の達人で、一瞬で巨大な城壁を顕現させる』
曰く、『物凄い力持ちで、片手に持った剣でゴブリンの頭を軽々と叩き割る』
曰く、『かすり傷一つ負わず、数十ものゴブリンを一方的に討伐する』
曰く、『黒髪の長髪を持つ偉丈夫』
それは……多分私です。
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ゴブリンの討伐が比較的早期に終了し、群れの全滅を確認した冒険者ギルドは、星一つになりたての私を……早速二つに昇格させやがりました。いいえ、嬉しいんですよ☆ 嘘です。もう少し、時間をかけても良かったのに、半年くらいかかると思ってたんだけど、ちょっと早すぎです。
「ヴィーちゃんの気持ちも分かるけど『アルスの眞守』の報告書を確認すると、あなたの活躍のおかげで、早期に被害も少なく討伐が終わったわけだから、その能力を見合った評価で活用したいって言うのはあるのよね」
まあ、そうかもしれません。ちょっと私……頑張りすぎちゃったかもしれません。報奨金も色を付けてもらい、どうやら私の土魔法に関して詳しく知りたいという話も出ているのだという。
「……代書屋さんの依頼とか受けたいんですよ……」
「だよね。でもまあ、実質ヴィーちゃんしか受けられないような依頼って、指名みたいなものだから、良いお金になると思うよ」
穴を掘ったり埋めたり、土塁や壕を作るのは時間もお金もかかるので、仮初でも魔術で加工してくれたら、後の補強や石材での舗装などだけで済むなら、期間もコストも大いに圧縮できるという。
「それで……このくらい貰えるんだけど……」
アンヌさん、仲介手数料だけでギルドウハウハとか心の声が漏れてますよ。そりゃ、凄い金額になるでしょう。人力でやれば期間も人件費もかかるんだから。
あまりやり過ぎると土木業者のギルドに依頼主も冒険者ギルドも睨まれるので、緊急性や工程の遅延などで文句を言えない状況だけでもいいので受けてほしいのだという。え、お金にはなりますよそれは。
正直、年に一つ二つ熟せば、この街で生活できるんじゃないかというくらいの金額になります。私って稼げる女だったんだ……逃がした魚は大きいぞバーン兄さん。
星二つの冒険者証を渡すついでにと、今私の周りで起こっている環境の変化について説明してくれているのだ。
「護衛依頼なら、『眞守』のメンバーとこなしてみたいですね」
「ふふ、良いパーティーよね。誠実だし、余裕をもって仕事をしているものね」
「あと、女性がいるパーティーというのはいいです。小汚くないですから」
「それは言えるわね」
ベテラン二人も清潔感があり、ゲルド君も勿論スッキリしている。ユリアさんの存在も勿論だけれども、トラスブルを代表する冒険者だという自覚を強く持っているからかもね。
「じゃあ、しばらくは街中心に依頼を受けることにするのね」
「商人関係や教会関係の依頼もいいですね。コロニアに向けてもう少し具体的に進めたいです」
ランクは星二つで護衛を受けることができるようになり、コロニアに向かうには十分なのだが、もう少しこの街で経験をしたいのだ。
ゴブリン討伐から数日明け、私はギルドの依頼を眺めていた。素材採取ではなく……ポーションの納品依頼? これって、錬金術師か薬師のギルドの仕事じゃないのでしょうか。
疑問に思った私は、受付の女性(アンヌさんは不在なので他の人)に依頼の内容について尋ねる事にした。
「戦争や内乱の影響で、トラスブルのポーションの在庫が激減しているんです。薬師の方は採取はそれほど得意ではないので、冒険者ギルドに採取依頼を出しているんですけど、受ける人も余りいないので困っています」
「それで、採取と並行してポーションそのものの発注もしていると」
「ええ。冒険者の中にもポーションが作れる人もいますので。勿論、優先的に冒険者ギルドが購入します。ギルドの在庫も底をついてきています」
ここ数年、傭兵の需要が高まっており冒険者から傭兵に鞍替えする人達も多く、依頼自体が熟せていない。更に、そいつらがポーションを根こそぎ高値で買い占めて行ったので……人手も素材も不足しているという事なのだ。
「金貨二枚ね……」
「少しお安いですよね」
いや、金貨二枚で二月は贅沢に暮らせるから、全然問題ない。むしろ、このチャンスを逃すな!! って感じです。
「薬師ギルドや錬金術ギルドに入っていない野良の術師でも問題ない?」
「鑑定して一定の品質以上なら問題ないです。勿論、等級に応じて割増の支払いもします……安いですけど」
いや、ここで買い取ってもらう方が後腐れ無くていい。え、私の調合するポーションって土魔術のブースト効果で薬効が上がるみたいなんだよね。
捕らぬ狸の皮算用をしつつ、私は街の外に出かける事にした。薬草を採取し、回復ポーションに解毒ポーション、あと……まあとにかく金目のポーションになる素材を何でも取りに行くんだよ!!
なにしろ、私の魔法の袋は経時劣化しにくい高級仕様だから、数日分を纏めて採取しても薬効は低下しない。どんどんとるべし!!
行きがけに、ガラス工房に立ち寄りポーションの容器になるガラス製のチューブの在庫を聞いて回る事にした。え、だって後で容れ物がないと困るじゃない?
「こんにちは、ポーション用のガラス容器を探してるんですけど、在庫はありますか?」
「……ああ、たんとあるよ。薬師のお使いか?」
どう見ても下働きにしか見えない年齢の『少年』が現れたので職人らしきおじさんはそう答える。どうやら、在庫がだぶついているのだそうだ。
「薬師も錬金術師も素材が手に入らないから作れないんだって聞いてるぞ。だから、在庫が溜まっちまってな。安く譲るから持ってってくれ」
おじさんは原価に気持ち載せた格安(といってもガラスの容器は高価)の値段であるだけ私に売ってくれた。魔狼の毛皮を売ったお金があって良かった。ゴブリンの調査の依頼達成のお金はもらえたが、ゴブリン討伐の報酬は領主様との兼ね合いでもう少し時間がかかるのだという。
本来なら、怪我人多数が出てもおかしくない討伐対象であったので、騎士であれば勲章ものなのだそうだが、冒険者ならば金をくれというものだ。本来パーティーなら頭割り、つまり五等分なのだが、今回は『眞守』と私の合同依頼という事で等分になるのだという。というか、ゲルド君除く皆さんが「半分でも貰いすぎ」という反応だったので、それでお願いとアンヌさんにも言われているのである。
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二日ばかり近隣の山の中に足を延ばし、ド=レミ村からこちらに向かう途中に当りを付けておいた採取場所へと移動する。街からも離れており、単独で移動するから距離も稼げる。ガンガン採取を行い、魔法の袋の中が薬草の匂いでいっぱいになりつつあるのを確認し、私は街へと戻ることにした。
冒険者の減少が魔物の増加を助長している事もあるだろうし、戦場で発生する『悪霊』の影響でゴブリン辺りが増えている事も考えられる。とにかく、悪感情を生む戦場や疫病の発生した場所は『悪霊』が生まれやすい。土地も荒れるので、地の精霊であるノームが『悪霊』に憑りつかれやすい環境にもなる。せんそういくない!!
素材採取ができるような山野では、ノームも健全であり『悪霊』も少なく弱いのでゴブリンは発生しにくい。人が沢山死に、きちんと埋葬されない場合、土地が穢れ『悪霊』も増えるし、精霊ならゴブリン化し人間なら吸血鬼や人狼を生み出すことになる。
私が大地の精霊に好かれる理由を考えると色々と悩ましいのだが、一体何故なのかと思う。悪霊が生まれる理由と反対……悪霊を叩きのめす存在に成るって事なのだろうか。
力も強く、魔力も高く、怪我に強く、夜目も効く黒目黒髪の女の子(娘の男)って、なんか普通じゃないとは思うんだ。え、娘の男は偽装だから。趣味じゃないんだからね。
そして、下宿に戻ると寝食を忘れ……いや、キリのいいところで寝たり食べたりはしたけれど、私は猛烈な勢いで『回復』『魔力回復』『解毒』のポーションを作成した。素材は有り余っているので、飽きたら素材としてギルドに卸そうかと思う。というか、三日も続けたら飽きた。
薬とポーションの違いは、蒸留器を使い、魔力で生成した『魔力水』を用いて成分抽出を行うところでしょう。イメージはハーブオイルを作るのに似ています。『オー・ドゥ・オングリ』なんていうのも有名な若返りポーション。
そして、アンヌさんに久しぶりにギルドで会い、沢山のポーションを買い取りカウンターに出そうとして……止められました。普通の錬金術師は魔力も少ない人が多いので、水魔法で作る魔力水の生成で一日当たりの製造数が限定される。
私? 樽でもいけますが何か?
「また、噂が広まるから、こっそり売りなさい」
ご指摘の通りです。私とアンヌさんは買取担当さんを奥の会議室に呼んでもらい、ポーションを『定価』で買い取ってもらった。まだ半分残っているんだけどね。品質も良かったので、少し高めに買い取ってもらったので、『回復』『魔力回復』『解毒』のポーション40本で金貨102枚となった。もう、一生働かなくていいんじゃないのかな私……




