18 ゴブリンは全滅し、私は巣穴に入って中を確認する
18 ゴブリンは全滅し、私は巣穴に入って中を確認する
出口でホブゴブリンを含め脱出しようとした数匹のゴブリンが串刺しとなり、もはや洞窟の中のゴブリンたちが外に出る手段はない……と思う。
肉の焼けこげる臭いと、ゴブリンの絶叫が山々に木霊する。死ぬのには良い日なんじゃないか知らんけど。
「時間がかかるが、安全確実だな……」
「ええ、怪我をしないのが冒険者の使命ですから。怪我をして戦力が低下すれば、仲間も危険にさらすことになりますから」
「良い心がけだ。ゲルドにもその辺見習わせたいな」
ふふふ、師匠にも先生にも……兄さんにも言われ続けていた事ですから。無茶をして勝ちを拾うのは余程の事じゃないとやってはいけないんだそうです。継続して任務が遂行できなければ、一回こっきりの派手な成果なんて何の意味もないとか何とか……『勇者』がそれでいいのかと素朴な疑問。
「いいのよー ゴブリン相手に命懸けの討伐なんてやらずに済むなら越した事は無いわ」
「巣穴を見つけて、そのまま中に入って討伐するなんて危険だからな。とは言え、中に入らずに進んでいいのかって思うがな」
これが、密閉度の低い砦の跡や廃村等であれば、かなり展開が変わっていただろうと思う。村ならまだ「建物ごと燃やす」という積極的な手段がとれるが、砦の場合は……壁で埋め込んじゃおうかな☆
「土壁は便利だな」
「耐久性があまりないので、恒久的な利用はできませんけどね。でも、高い位置から弓を射ったり、土塁や落し穴を作る分には十分です。即席で対応できますし」
時間さえもらえれば、一時間くらいでそれなりの砦とか造れちゃう気がする。強度はいまいちだから、破城槌や臼砲の打撃で駄目そうだけれど。
「ヴィーが守り手側にいたら、城攻めも苦戦しそうだな」
「苦戦と言うか、無理じゃない? ゴブリンを見てちょっと思ったわ」
「それはそうだな……完全に同意する」
こっそり夜中に砲台陣地に忍び込んで、地面に埋めたりすればOK☆ 引きずるだけでも大変なのに、地面に沈んだら多分持ち上がらないよね。騎兵の突撃してくる経路上に土槍や落し穴を即席で作るとか……効果甚大
そうな気もする。でも、私は冒険者だから、戦場には行きません。
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二時間ほどで鎮火し、ゴブリンも半分くらい炭化したので、そろそろ土槍を撤去し、中の捜索に移行しようかと思う。中で生き残っているゴブリンと……可能性的には低いだろうけれど連れ去られた家畜なども確認したいところだ。
「最後は私が中に入って確認してきます。夜目が利くので」
「いや、単独って……どれだけ度胸あるんだよ」
アドルさんが驚くが、そうじゃないんです。見られたくないんです、目が赤くなるし、明らかにハイパワーな存在であることを。
「何かあったら呼び笛を吹いてくれ」
「ありがとうございます」
私はホイッスルを口に咥え、壁を乗り越え洞窟の入口側に飛び降りる。
「大丈夫なのかよ」
私は腰のショートソードを抜き、倒れているゴブリンの頭に叩き込む。バギャッとばかりに頭が砕ける。剣身の厚いハンガー系のデザインなので、こんな棍棒代わりの使い方も安心である。
「止めを入れながら慎重に進むので問題ないと思います」
「お、おう。気をつけてな……」
呻き声やうわーという叫び声を背中に聞きつつ、私は風魔法で洞窟内にあたらしい空気を送りつつ、洞窟前のゴブリンが死んだふりをしていないかどうか止めを入れつつ確認する。流石に、真面目に死んでいるようで安心ではある。
洞窟の入口は、いまだ熱を持っている炭が沢山あり、その上でゴブリンの死体がローストされている。ホブの首に思い切り剣先を叩き込む。バッツリ切れて落ちた首を胸壁に向けて蹴り飛ばす。討伐証明だからね。
ゴブリンシャーマンは……このロッドを確保して。奥にゆっくりと進んで行く。高さは2mはないから、背の高い男性だとかなり圧迫感があるし、剣も振り下ろすタイプの長剣ではなく突き刺すタイプの剣でないと使いにくいだろう。
足元は多少凸凹しているが、歩けないほどではない。異臭がきついので、風魔法で良い匂いを循環させる。これなら、臭くても安心。
中に10mほど入ったところで少し広い空間に出る。灯りらしい灯りは灯していないが、私には十分に見ることができるのは、暗視体質だからだろう。何でかは不明。
地面に落ちているガラクタやゴミにしか思えないもの、倒れているゴブリンに速やかに止めを刺していく。具体的には首を落す。簡単でしょ?
串刺しになっていたゴブリンとその背後で倒れていたゴブリンが九匹、この中に倒れているゴブリンが六匹。あと他に続いている部屋があるのだろうか。
壁を触ったり、地面に近い場所の空気の流れを確認する。どうやら、入口から穴の奥に向けて空気が流れているような気がする。隠し部屋などというゴブリンらしからぬ場所があるのか疑問だが、もう少し探す必要がありそうだ。
焚火の跡があり、恐らくは酸素不足で火が消えているのか、消してしまったのかは分からないが火が消えていることは確か。触ると少し熱いので、消してからそれほど時間が経過していないのだろう。
壁の影にさらに下に続く隠し通路を発見。この先に何かあるのだろうかと不安にならないわけではない。慎重に音を消し、気配を消し、先を進む。かなり急なスロープを降りると、そこには……ゴブリンの子供らしきものがいた。
『Kyuuuee』
『KyaKya!!』
人間の子供なら一歳半ほどの大きさの子供のゴブリン。何故、悪霊が憑り着いたノームの成れの果てのはずの存在が小さな子供の姿を取るのか私は考え結論を出した。これは擬態です。
『Kyaaaa……Yaaa!!』
一匹の子ゴブリンが隠し持っていたダガーで私の胸を突く。残念でした。革鎧は貫けません。お返しに刃の無い峰の部分で頭をパンとばかりに叩くと『Qu』とばかりに頭が爆ぜて倒れる。確認するまでもなくそこにいる全てのゴブリンの頭を叩き割り、討伐部位である左耳を切り取りその場を後にする。
戻りながら、討伐部位を切り取り、そして入口まで戻ると振り向いて洞窟の入口を囲む馬蹄形の胸壁を解除する。
「お疲れ。中はどうだった?」
「小さいゴブリンが地下の隠し部屋にいたので討伐してきました。討伐部位も切り取り終えています」
「なら、これで終了か。ゴブリンの死体と洞窟はどうする?」
私は、洞窟の中にゴブリンを放り込み、土壁で洞窟の入口を塞ぐことを提案する事にした。一番簡単で、後腐れが無い。
武器を降ろして両手でゴブリンの足を引きずり、洞窟の中へと放り投げる。
それそれそれっと、私って力持ちだー
「……ねぇ、随分力持ちなのね……」
「あはは、そうなんですよ。農民向きなんです。力仕事どんとこいです」
「ゲルド……基礎体力からだな……」
「りょ、了解っす……」
体質とかあるから、筋肉がつくつかないとかもあるし無駄な筋肉が付くと瞬発力とか下がるから気にしないでいいんじゃないかな?
確かに、力があるとメイスみたいな武器で殴るだけでいいから、楽と言えば楽なんだけど、日ごろから鈍器を持って歩くわけにもいかないじゃない?
冒険者は許されているけれど、基本、貴族・騎士以外は剣を携帯して街に入ることは禁止されているから。武器らしくない武器という物にも憧れないではない。暗器? とかだね。
日も傾くころようやく村に戻ってきた私たちは、ゴブリンの群れの討伐の完了と、巣穴の埋設を行ったことをハンスさんをはじめとする村の方々に報告をした。
「……無事で何よりです……」
ハンスさんは自分の事のように喜んでくれ、村の人達の表情にも安堵の色が見て取れる。ゴブリンの発見がもう少し早ければと思うのは、荷が勝ちすぎる思いだろうか。
「ヴィーお疲れ。今回は本当にお前のおかげで助かった」
「ありがとうねヴィーちゃん。回復の魔術をほとんど使わずに済んだのなんて、本当に久しぶりじゃないかしら?」
「大概、ゲルドの治療だろ? 今回はゲルドすらほぼ無傷だから、成果としては大成功だな」
どうやら、成功のバロメーターがゲルド負傷指数で計られているらしい。命大事にだよゲルド君。
「色々ズルいよなヴィーは」
「魔術が使えて、追跡が出来て、力も知恵もあるからな。新人レベルじゃねえのは確かだ。ゲルド……追い抜かれたな」
「ま、ま、ま、まだまだっすよ。こいつは、冒険者になる前に色々覚えてからなったんすから。俺とは違うんすよ!!」
そうそう、私は今頃本当は『花嫁さん』になっているはずだったのだよ。だから、冒険者として活躍するのは大変不本意なのです。ほんとだよ!
そして一泊させてもらい翌日、ギルドに討伐完了報告を行うとギルドは騒然とし、さらに、討伐報告を聞いたギルマスは理解するのにしばらくかかったらしい。報告の翌日、私がギルドに向かうと、星二つの冒険者に昇格したとアンヌさんに言われて驚いたんだってば。




