16 冒険者は巣穴を包囲し、私は『土壁』を唱える
*今日は日別ジャンル別一位となっております。
16 冒険者は巣穴を包囲し、私は『土壁』を唱える
野戦築城という行為が存在する。古くは王国がサラセンの軍を追い払った戦いで、小高い丘の上の森を城塞に見立て立て籠もり、騎馬による突撃を槍と木立を用いて防ぎ、敵を大いに破った歴史もある。
古代の帝国においては、軍団の野営地を簡易築城し整備した結果、今の時代においても都市の基礎となる場所も残っている。
何が言いたいかと言うと……
「土魔法で洞窟の出入り口の部分に野戦築城します」
「「「「……は?」」」」
まあ、こいつ何言ってんだって反応ですね、分かります。
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村に戻ると、既にユリアさんは魔力の限界となっており、休憩中であった。ゲルド君は村の人と共に瓦礫の撤去を行っている。
「あ、お帰りなさいリーダー。どうでした」
「ああ、この後すぐに打ち合わせをする。ハンスさんを呼んできてくれ」
「了解っす!!」
瓦礫の片付けに区切りをつけ、ゲルト君はハンスさんを呼びに行く。疲労困憊のユリアさんを見て「やっぱ明日だな」と二人も理解する。夜の宴の最中に殴り込むとか、どんな武闘派ですか!
「どうだった、ゴブリンの巣穴は」
「ヴィーが見つけてくれた。ここからちょっと距離がある。明日の朝出て昼前には到着できるだろう」
「ちょ、私たちだけで討伐できるの?」
ユリアさんはかなりの数のゴブリンの群れに『アルスの眞守』+1で立ち向かうのは無謀だと感じているようなのだ。そのままなら私もそう思う。
そう話しているところに、ハンスさんを連れたゲルド君が戻ってくる。
「巣穴が見つかったのですね」
「ああ。それで、一先ず、ギルドと領主に使いを出してほしい。俺たちは村に残ってゴブリンの警戒に当たりたいので、村で人を手配して欲しい」
ハンスさんにゴブリンの巣穴の位置とおおよその規模を伝える。場所を知ったハンスさんもしかめっ面になる。大勢で取り囲む前に、接近する気配を察知して十分に逃げ出せる山の斜面にあると気が付いたからだ。
「逃がしてしまいそうですね」
「なので、明日の朝、俺たち五人で先行する」
「……討伐は難しいでしょう?」
ハンスさんだけでなく、皆がそう感じているようで、ブルーノさんが私に視線を向けてくる。エヘン、大丈夫ですよ。
「ゴブリンの巣穴の前に私が土魔法で胸壁を築きます」
「はぁ、ゴブリンの洞窟守るように壁を作るのか」
「いいえ。ゴブリンが洞窟から出られないようにU字型に壁を設けます。私の魔力であれば、2mの高さで厚み1mの壁を40m程の長さの物を一瞬で築くことができます」
「はあぁ!?」
魔術師のユリアさんが驚く。そうです、一日何度でも出来ちゃうよ、それも。
「だけどよ、壁の中をどうやって攻撃すんだよ。2mも高さがあったら、中は見えねぇだろ」
「その後、外側に1mの高さのキャットウォークを作ります。五人はその上から弓や長柄の武器でゴブリンの頭を攻撃します」
「「「……」」」
1mの高さから相手の頭の上を攻撃するのはメリットがある。相手は2mの高さにある私たちの胸から上を投石や弓で攻撃するくらいしか打撃を与える方法が無い。こちらは近づく者を一方的に叩きのめせばいい。
「弓や石の攻撃はユリアさんの『水壁』を展開してもらって防ぎます」
「そんなに長い時間、展開できないわよ」
「大丈夫です、胸は鎧がありますから顔面から喉まで間を防いでくれれば充分です。人一人全身ではないので、魔力の消費は少ないと思いますよ」
それに、魔力が続かなければ胸壁から降りてしまえばいい。ユリアさんは胸壁にすら乗る必要が無い。ほら、誰も傷つかない世界の完成だろ?
どの程度のことができるのか見せてあげる事にした。論より証拠です。村の瓦礫をどう処分するかで、大きな穴を掘って埋めるという事になり、私が魔力で大きな穴を開けることにする。明日中に捨ててくれれば、帰りに穴を塞いでから帰ることにしましょう。
村はずれの森との境目に移動する。何故か、手すきの村の人までは付いてくる。現場確認も大切か。
「じゃあ、この辺りでお願いするよ」
ハンスさんに指示された場所に直径5m深さも同じくらいの円形の穴を一瞬で開ける。土はどこへ? ノームが運んでくれているのだよ。
「「「「おおおぉぉぉ」」」」
そういえば、兎の落ちた落し穴に何匹かゴブリンも落ちたらしい……
「壁も同じ程度に簡単に作れます。村に築くのは後々崩れて邪魔になるのでお勧めしません。何年も持つようには作れないので」
「……そりゃ残念じゃな」
「もう少し技術が上がれば、耐久性のある物も作れると思うので、その時はギルドに『防壁の構築』の依頼を上げてもらえれば参上します」
ただではできません。見合った報酬は冒険者に必須です。
「ハンスさん、この依頼、討伐に切り替える承認のサインを貰えるか」
「ええ、喜んで」
調査依頼から討伐依頼に切り替わる事も想定し、その両方が可能なパーティーに受注してもらったのだが、本来なら手に余る規模の群れなのだ。
「でもよ、洞窟の前に壁を作っても外に出ずに立て籠もられたらどうすんだよ」
ゲルド君、狩人である私の事を甘く見ているのではないかな。巣穴に籠る動物を追い出すのは……燻り出すに決まっているじゃないですか。
「杉や松の木の枝を纏めて洞窟の入口に積んで火をつけます。油と煙が沢山出るので、その後、私の風魔法で洞窟の奥まで煙を送り込みます。出口は土魔法で馬防柵を設けるので、煙を避けて出口に殺到しその柵に引っかかるゴブリンを攻撃します」
「……血も涙もねぇ攻撃だな……」
いいえ、福音ですよ。『悪霊』によって変化してしまったノームを解放する為の聖なる行為です。
折角の土魔法なので、大きな浴槽を成形し、私のつたない水魔法ではお湯を沸かせないので、ユリアさんにお願いし、村の人達にはお風呂に入って貰う事にした。村には風呂の設備はないので、大変珍しいことだと大いに喜んでもらえた。
当然私は入りません。「村の周囲の警戒をします。それに、折角匂いが分かりにくくなっているのでこのまま明日まで過ごします」と狩人っぽいお断りをしておいた。脱いだら不味いでしょ……ねぇ。
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翌日、私たちは朝早くから目的地に向かう事にした。私が誘導し、他の四人が付いてくる格好だが……初心者が文句を言います。
「なあ、ほんとにこんなところに巣穴があるのかよ」
「声を出すなゲルド。ゴブリンに気が付かれるだろ。それに、この足跡見て分からないなら、今後は街でお留守番だなお前」
「えぇー」
冒険者は討伐の瞬間の仕事は精々二割、八割は事前の準備に費やされると思うのです。狩りの場合、それでも運の部分があるが、討伐は運の要素を出来るだけ減らさなければならない。冒険とは、ばくちの要素を含んだ打算なのだよゲルド君。
「でも、こいつ、弓と片手剣しかもってないじゃないですか」
「……そんなことありませんよ」
「いつのまに……」
私は槍よりも『ビル』の方が好きです。麦刈りを思い出すので……麦を刈るように、ゴブリンの首も刈り取ります!
「ほぉ、珍しいな冒険者の装備としては」
「歩兵の補助兵器扱いですけれど、ハルバードやグレイブより引き切りには向いているので、これを使います」
「元は鎌だもんな。そんなんで首を刈られるゴブリンには同情する」
槍で刺しても簡単には死にません。動物なら腹を裂いて内臓にダメージを与えるか、脚を傷つけて弱ったところで心臓か首を刺してという流れになるでしょうが、ゴブリンの場合直立歩行なので、首の後ろをビルで引っ掛けてやればズバッと斬れちゃうわけです。
膝の高さ辺りに首が並ぶゴブリンをザクッと刈り取ってやりますよええ。
「槍はそういう意味ではちょっと厳しいかな」
「剣で頭を叩くのも難儀だな。弱らせることはできても、頭の骨を砕くほど剣ではダメージを与えられない」
ベテラン二人があーでもないこーでもないと会話しているのだが、ゲルド君は良く分かっていないようで「さすがっすねー」とか「なるほど」と相槌をうっているが……大丈夫かね。
ゴブリンの巣穴の手前で一旦停止し、そこから私が先行して巣穴の入口を塞ぐため移動を開始したのです。
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の砦を築き給え……『土壁』」
突然巣穴の前に高い壁が立ちはだかるのを見て、ゴブリンが大騒ぎをしているようだが、壁の外にいるかもしれないゴブリンを探して私はその場を一旦後にした。
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この後、毎日18時投稿にしばらく継続したいと思います。
本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
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