第8章
「ハァ……ハァッ」
「どうかしたんですか?」
「いや、あの……荒い息遣いみたいのが聞こえなかった?」
「え、僕じゃありませんよ?」
「俺も違うぜ」
「私も違うわよ」
「……あれ、変かな……」
「ルシェ……ハァ、ハァ」
「……やっぱりなんか聞こえる……」
「怖くないよ。僕は紳士だからね。」
「い、いやあああああ!!」
「震えているね。こっちに身をゆだねてごらん」
「……何よこいつ!」
「いやっ!」
「ルシェットさんに何をするんですか!」
「おー、こわ。エリュニスがキレるなんて相当だな。ルシ
ェットとリリアンは下がってろ。こいつは俺とエリュニス
で退治してやる」
「僕は悪くない……」
「女を泣かせるなんて鬼畜野郎だな。こいつのペンダント
を見てみろ。真っ黒な上にヒビだらけだぜ」
「……本当に、紳士ではありませんね」
「こいつは俺がギルドへ連れていく。エリュニス、ルシェ
ットとリリアンを守ってやれ」
「はい」
「う、ううううう……」
「危ないやつだったわね、全くもう」
「大丈夫ですか、2人共」
「エリュニス!」
「無事でよかったです……」
「あいつは?」
「ギルドで調査を受けているとの事でしょう」
「僕は悪くない!」
「ふざけるな! それがお前のやり口か!」
「う、ぎくっ」
「さあ、こっちに来るんだ」
「嫌だあああああ!」
「つべこべ言ってないでこい! 刑を重くするぞ!」
「よう、もう大丈夫だぜ」
「セヴェル!」
「なんだ、リリアンか」
「なんだとは何よ」
「いや、悪い悪い。……無事でよかったぜ、リリアン」
「セヴェル、顔真っ赤……」
「言うなよ! 恥ずかしい台詞言うのは慣れないんだ」
「そういえば、ギルドから謝礼がきてますよ」
「謝礼? なんだ、そりゃ」
その時エリュニスとセヴェルのペンダントに微かに光が
灯った。
「……それが、謝礼?」
「そうみたいだな」
「最近、女子を狙った輩がいるそうだから注意してくれ」
「依頼と買い物以外は外に出ないほうがいいな」
「じゃ、外で食べるとかも減らしたほうがいいわね」
「では、今夜は新メニューを作りますよ。レシピ元はル
シェットさんです」
「えっと、じゃがいもを茹でてつぶして、ネギと小さな
干しエビを混ぜて粉を入れてから、平べったくして両面
を焼くだけ。……さ、できたかな?」
「「いただきまーす」」
「うぉ、何だこりゃ。モチモチして不思議な感じだ」
「へぇー。じゃがいもの料理って色々あるけど、これは初
めてだわ」
「なんだか癖になる味ですね。あっさりしてるのに食感が
いいです」
「飲み物は麦茶だよ。カフェインが入っていないんだって」
「ん、ありがと。……さっぱりしてて飲みやすいな」
食べ終わったら歯を磨く。虫歯ができないように念入りに
したいところだが、何故か磨き終わるのが日を追うごとに
速くなってしまうのが悩みどころだ。
シャワーもそこそこにさっと浴びたら、ベッドに入って目を
閉じる。しかしそれだけでは眠気がやってこない。目を瞑っ
ていると夢の中に引き込まれるような気がすると思っている
うちに眠ってしまうのだった。