第3章
「でだ、お前たちにやってもらうクエストは……
マナが生まれ出る不思議な森の調査だ。行き方は
地元の人間しか生き方を知らない『魔法の森』と
いう小さな場所だ。そうだ。詳しいことは地元の
連中に聞いてくれ」
「ふーん、変な場所だな」
とセヴェルが乾パンをぼりぼりかじりながら言っ
た。
「セヴェル君、食べながら話さなくても……」
「だってよ、さっきから腹が鳴って仕方ないんだ
ぜ。しかも今持ってる食料が携帯食料だけなんだ、
仕方ないだろ」
「ルシェットさんを見習ってください。彼女は今
空腹と戦ってる真っ最中ですよ」
「でもよ、朝も食ってないし今昼過ぎだぜ。さす
がに腹も減るだろ。それにルシェットはふらふら
してて倒れそうだぞ」
「……ゴホン。君たちの腹はともかく、『魔法の
森はここからずーーーーっと北東にある」
「歩いていくといつぐらいかかりますか?」
「そうだな、5日ってとこだな」
「それじゃ、行ってきます」
3人は北東に向かって街道を歩いていた。
「おい、空を飛ばなくていいのか?」
「ああ、いいんですよ。それに……」
そういうとエリュニスは頬を赤くした。以前ルシ
ェットの杖に乗り移動してマナ切れを起こし、ル
シェットを姫抱きして走って敵から逃げた事を思
い出したのだ。
「何だ、変な顔をして。ルシェット、疲れたら俺
がおぶってやるぜ。前はエリュニスがおぶったん
だから交代な」
「え、そうなの? ……ありがとう」
素直にセヴェルの背中に身を任せると急に眠気が
やってくる。うとうとしているうちに日が沈み始
めていた。
「今日はここで野宿だな」
「そうですね。なにか夜食でも作りましょうか?」
「ああ、頼む」
「じゃ、私が作る」
数分後、料理ができた。干しトマトと玉ねぎ、のス
ープに干し肉をちぎって入れたもの。それと乾パン
だった。
「……どうかな? 簡単なものだけど」
「んー、まぁまぁうまいぜ」
「トマトの酸味がよく効いてて美味しいですよ」
「夕飯も食ったことだし、寝るか。火の晩は俺がす
る」
「セヴェル君、いいんですか?」
「後で交代な、エリュニス」
「……それなら私が……」
「駄目だ。一応女だしな。それに体力も低いし、
魔物に襲われたとき、魔法を使う時の詠唱時間を
稼がなくちゃいけない。というわけでお前はおと
なしくしてろ」
「分かった。……おやすみ」
次の朝。昨日の残りの食事を食べた後、3人はま
た歩き出した。途中で休みを挟みながらひたすら
歩き続ける。
歩き続けて4日目の昼過ぎ。3人は森の中を歩い
ていた。
「んーと、この森の中に魔法の森を知ってる村が
あるはずだ」
「そんなに簡単に見つかるでしょうか?」
「さあな。とにかく歩き回って探すしかないだろ」
しばらく歩き回ってやっと村を見つけることができ
た。村の名前はアルテというらしい。
歩き回ってお腹が空いていた3人はこの村で一番大
きな食堂に直行した。
「はーい、おまちどう!」
注文したのはナッツ入りのパン、野菜サラダ、クリ
ームシチュー、それとエリュニスとセヴェルはエー
ル、ルシェットはベリーソーダだった。
歩き通しで腹が空いていて、しかも連日の野外食事
ばかりだった3人にはありがたい食事だった。
特にシチューが熱々で、優しい味がする。疲れた体
にしみるようだ。
「ところで、僕等宿を探してるんですが」
「ああ、隣に宿があるよ。後で行ってみな」
食事を済ませた3人は食堂の隣にある宿屋に入った。
宿屋はハーブのいい香りがする。そこかしこに干した
薬草やハーブが宿屋の中を飾っていた。
「すみません、ここに泊まりたいんですが」
「はいよ、ひとり一泊250ルクスね。朝食付きで」
ルシェットが先に風呂に入らせてくれるようなので、
早速入ることにした。
いつものシャワーとは違い、湯船に湯がはってある。
髪と体を洗った後、湯船に入った。すーっとした香
りがし、何事かと思ったらミントの葉が湯船の中に
入っていた。
3人とも風呂を出たら、お茶をサービスで入れてく
れた。花の香りがして何の葉だと聞いたらラベンダ
ーだと教えてくれた。確かにリラックスできて、よ
く眠れそうだ。
お茶を飲みベッドに入ったら、泥のように眠ってし
まった。
朝、ルシェットは寒気がして目を覚ました。あとの
2人はまだ眠っているようだ。着替えを済ませ、と
りあえず2人を起こす。
「2人とも朝だよ、起きて」
「んー眠い……」
「むにゃ……ふぁーあ、もう朝ですか?」
「居間に行ってるよ。朝ご飯を用意してくれるはず」
「朝飯! 待て、俺も行く」
「あ、僕も行きます。待ってください」
居間に移動して暫くするといつの間にか着替えを終えた
2人がきた。
朝ご飯は黒パンと野菜のスープにミルクコーヒーだった。
黒パンが固いのでスープと一緒に食べる。
「う、このミルクコーヒー甘ったるいな」
セヴェルが嫌そうな顔をする。彼は普段飲むブラックコー
ヒーに慣れているのだ。だがセヴェルは紅茶も好き嫌いな
く飲んでいる。
その時セヴェルの首輪のペンダントが微かに白く光った。
「でもこの甘さだと活力が出ますよ。たまにはこのくらい
甘くてもいいですね」
「やっぱり野外の食事より、居間のほうがいい」
「今日の朝市で買い出しをして、昼から探索をするからな」
買い出し途中に『魔法の森』という場所のことを聞いて
回った。村の奥に繋がる小さな入り口から中に入り、
中では不思議なことが起こる場所らしい。冒険の準備を
整えた3人は中に入っていった。
「うわあ……」
ルシェットが感嘆の声を上げる。
「入り口は狭いのに中は広いんですね」
それもそのはず、魔法の森は広い迷路のように草が生い茂
っていて下手をすると迷ってしまいそうだった。
「こういう時は左手?右手だっけか?どちらかの手を壁に
くっつけて歩けば出口にたどり着くはずだ」
手を草の壁にくっつけようとしたら、たちまち草の棘が飛
び出してきた。
「くそっ、こんな草燃やしてやろうか? ルシェット、フ
ァイヤーの呪文だ」
エリュニスがルシェットの前に立つ。詠唱時間を稼いでい
る間に守ってくれているのだ。
「エリュニス、どうして前に立つの?」
「……大切なあなたを怪我させるわけにはいけません。…
…ですから、どうか僕にあなたを守らせてください」
「……ありがとうエリュニス。……セヴェル、いいのかな
……?、ほかの草に燃え移らない程度に……それっ!……
ファイヤー!」
シュウシュウと草の焦げる音がする。どこかでパラパラと
ページをめくる音がしたと思ったら、小さな火がルシェッ
ト達に襲い掛かってきた。
「危ない! ……コールド!」
エリュニスが魔法を放つ。火はコールドの魔法で消えたよ
うだった。
……パラパラ。
またページをめくる音がする。
「なんなんだありゃ……」
3人が見たのは茨の棘が付いた蔦にからめとられた紺色の
表紙の本だった。 蔦は本の周りにだけついていてちゃんと
ページがめくられるようになっているようだ。
氷が3人に向かってきた。エリュニスがロッドを氷に叩き
つけると氷は粉々になって壊れた。
「やるじゃねぇか、どこで覚えたんだ」
「ふふ、ちょっとあるところでロッドを強化してもらった
んです」
「……でも、これじゃキリがないよ。蔦で本を封じられた
らいいけど」
「そ、そうです! 水が必要です! でも水の魔法なんて
……」
「……そうか! エリュニス、水筒を貸せ」
「は、はい」
セヴェルが本に近づき水筒の水をバシャッと掛ける。する
と蔦はシュルシュルとたちどころにのび、本を完全に覆い
つくしてしまった。本のページを開こうにも頑丈な蔦がし
っかりと絡みついてこじ開けるのさえ無理なようだ。
本が閉じられると、迷路が消滅しだだっ広い空間になった。
その空間の中央に白い薔薇が咲いている。不思議と茎には
薔薇の特徴である棘が付いていない。思わず摘み取ると
新しく白い薔薇が咲いた。
それをすかさずセヴェルが摘み取ってしまった。
「セヴェル君? どうするんですかそれ」
エリュニスが聞くとセヴェルはかすかに、にやりと笑った。
「ああ、これか? ちょっとな」
てっきりセヴェルがルシェットにあげるものだとばかり思
っていたエリュニスは不思議そうな顔をした。
2本ある白い薔薇を依頼所にひとつ届けるとセヴェルは1
本を持ってどこかへと消えてしまった。
「あれ? セヴェルは?」
「さあ、どうしたんでしょうセヴェル君」
セヴェルはリリアンと会っていた。リリアンとは前の依頼
の時少しだが関わりがある。2人は少しだけ仲が良いとい
った関係だ。
「あれ? セヴェルじゃない。どうしたの」
「ほらよ」
「わあ、きれいな薔薇。ありがとう」
「エリュニスじゃなくて悪かったな」
「ううん、いいの。私エリュニスの事はあきらめたから」
「やけに素直だな?」
「そう? でもエリュニスには恋人がいるし」
「そうだな……」