第32章
エリュニスはルシェットに話をした。
「ミアナちゃんがいたという場所に
行きたいんですが」
「……別にいいけど我慢できる?」
「どういうことですか?」
「あそこ、お菓子で出来てるらしい
の。私とミアナちゃんは子供だけど
エリュニスは大人だから」
「ということは迂闊に手を出すのは
駄目ということですね」
「そういうこと」
「うっ、凄い甘い香りですね」
「ここお菓子で出来てるって言った
よね?」
「そうですね……ずっとここで生活
してきたんですね」
「正確にはここと出入り口の店の中
を行ったり来たりしてたみたい」
「それで食事代わりにお菓子を食べ
る癖がついたんですね」
「……多分そうじゃないかな」
「あれ? こんなのありましたっけ?」
「どうしたの? エリュニス」
「めずらしい薬草があります」
その薬草は蜜を花に貯めておくとい
う習性がある。しばらく様子を見て
いると花に溜まった蜜は薬草の葉に
移り葉っぱの上に溜まってゆく。そ
の蜜は小さなキャンディに変わって
いった。
「これ、食べていい?」
と、ミアナが聞く。
「多分大丈夫じゃないかな?」
「じゃあ、いただきまーす」
小さなキャンディをミアナが口に運
ぶ。ほんのり甘いキャンディは噛む
とほろほろと崩れた。キャンディと
いうよりは砂糖菓子と呼ぶべきなの
だろうか。
「もうなくなっちゃった……」
菓子の世界なので他の種類の菓子も
沢山ある事だろう。……それにして
も不思議な場所だ。空はパステルカ
ラーといった方がよく普段見慣れて
いる青空は見かけない。上空の雲が
綿菓子のように思ってしまった。
ミアナが手に取った花にエリュニス
は思わず手を伸ばす。……と、エリ
ュニスのペンダントの宝石が黒く濁
る。嫌な予感がして、花から離れる
と宝石は元の輝きに戻った。
(慎重に行動しないといけませんね)
と、エリュニスが思った矢先、ミア
ナは何かを口にしていた。
(そういえばここに来る前にキャラ
メル味の飴を舐めたんですよね)
ポケットの中を探ってみる。ポケッ
ト中には飴の包み紙が入っていた。
「どうしたの? エリュニス」
「あ、いえ。ポケットの中に飴が入
っていたんです」
「ふーん……」
ルシェットもポケットを探ってみる
と紅茶味の飴が出てきた。
ミアナもポケットを探ってみると、
果物味の飴とハチミツ味の飴が出て
きた。いつの間に入れたのだろうか。
すぐ食べるのはやや惜しい気がして
ポケットの中に飴を戻した。
「この辺りは飴が多いですね」
「あぁ、そうかな。チョコレートと
かかないのかなぁ」
「チョコレートは口にするとあっと
いう間に溶けてなくなりますから」
「チョコレートの方が人気あるかも」
「確かにチョコレートは人気ありま
すね」
突然腹が減った。誰の腹だろうか?
ルシェットとミアナの腹がなっても
菓子を食べれば済むが、エリュニス
はそうもいかない。2人は先ほどポ
ケットにしまった飴を舐める。エリ
ュニスはウェストポーチを探る。乾
パンが数粒と小さめの水筒が入って
いた。
エリュニスは覚悟して乾パンを一粒
食べてから水筒の中の水を飲んだ。
ちらりとペンダントを見ると輝きは
変わっていなかった。ルシェットと
ミアナのペンダントは輝きはきれい
なままだ。
(うーん……食べたのが菓子ではな
いから変わらなかったんでしょうか)
ここで干し芋だったりジュースでも
飲み食いしたらペンダントの輝きは
変わってくるのかも知れない。
(……うーん、飴以外のものが食べ
たいなぁ)
そう思いながら辺りを見渡すとクッ
キーが見つかった。それも普通のク
ッキーではない、ジャムがサンドさ
れている。
「わー、ジャムクッキーだ」
「それにしても……至る所に菓子が
ありますね」
「ねぇねぇ、食べきれない分は持ち
帰ってもいい?」
「……多分大丈夫だと思いますよ」
それを聞くとミアナはバッグの中に
菓子を入れていく。
「ルシェットさんはどうします?」
「ううん、いらない」
「そうですか」
(……でも、なんでここに来たん
でしょうか……)
ルシェットがどこへ行ったのが気に
なった?
どうしてこんな気持ちになるのだろ
う。心配だった。これで一括りにす
るのは変な感じがして嫌になる。
(確かに子供2人だけで行動するの
は危険)
けれどもここは子供に優しい世界。
大人であるエリュニスが入ってしま
っても大丈夫なのだろうか。……
いや、現に入ってしまっている。
ここでのタブーとして大人が菓子
を飲み食いしてはいけないが、こ
の菓子で出来た世界を出て、元の
世界で菓子やジュースを飲食しても
罪にならない。不思議な世界だ。
何故ここに来たかというと恐らく
ミアナが菓子を求めてきたという
ことだ。ルシェットとエリュニスは
ミアナの付き添い。いくら子供に
優しい世界でも小さな子2人では
危ないだろう。
そうこうしているうちにミアナの
バッグは菓子で一杯になった。も
う少しいてもいいが、保存食があ
まりない。
(……なんだか菓子の買いだめみ
たいです)
「ただいま戻りました」
「あっ、おかえりなさい」
「お茶入れるよ、冷たいのでいい?」
「はい。ありがとうございます」
乾パンと水だけの食事だったエリュ
ニスには少し甘くて冷たい茶は心地
がいい。
「ふあ……」
「眠いんですか?」
「うん、ちょっとだけ」
「あ、お茶のお代わりをお願いし
ます」
「はーい。 ……どうぞ」
「いただきます。……なんだか甘い香
りですね」
「そう?」
「これ、ハチミツ?」
「ハチミツです。レモン入りですよ。
ポッカのレモン小さなレモンを1噴射
いりです。」
自室へ戻ると妙に家が広くなっていた。
色々な物がそろっている。
3人は甘い香りに包まれた部屋の中で
風呂に入ったり歯を磨くこともせずに
眠りに入ってしまった。




